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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、運命の分岐点
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awakE:1

「イブリスさん、ラディスさん!」



イブリスは銃、ラディスは刀、そしてクロウはうねうねと蠢くツタ。それぞれが自らの得物を構え、どちらが先に動こうかと対峙している。更にイブリスたちの元に、杖を構えたサラが駆け寄ってきた。



「サラちゃん! フロワは?」



「応急処置はしました。あとはしばらく休んでもらえば大丈夫です」



ラディスはクロウから意識を逸らすことなく、フロワの方へと視線を送る。完治ではないものの大きな傷口はふさがり、意識もしっかりと保っているようだ。



ただし戦いに加わろうとはせず、こちらの様子を静かに見ているだけだ。今にも動きたそうにしている様子を見ると、動きたいところをサラにきつく止められたのだろうか。



「この短時間でよくあそこまでの治療を……!」



「ラディス、感動してる場合じゃあねえぞ!」



クロウの方を見ていないラディスに、ツタの一本がここぞとばかりに襲い掛かってくる。



「わかってる!」



ラディスは振り返った勢いで刀を抜き、そのツタを真っ二つに切断して見せた。視線を逸らしていても、そう簡単に被弾するつもりもないのである。



そして、防御だけで終わるつもりもない。抜いた刀を即座に納刀し、クロウを見据えて過去からの斬撃を引き寄せる。クロウもその気配を悟ったか、周囲のツタが複雑に絡まり、クロウとラディスの間に視界を完全に塞ぐ壁を形成した。



「サラちゃん!」



「はい!」



その壁に銃を向けたイブリスがサラへ合図を送り、銀の弾丸と白属性の光球が同時に発射される。黒属性と相反する聖なるもの。その二つはツタの壁に直撃すると、一部分を腐らせて手のひら大の穴をあけた。



ちっぽけな穴だが、ラディスにはそれで十分だ。穴の奥にちらりと見えた道化の衣装に向かって、今度こそ過去からの斬撃を放った。



「っ!!」



クロウは即座に回避行動をとろうとするものの、ほんの少し動いたところで脇腹に傷を負った。ラディスの時空斬は斬撃を"飛ばす"のではなく、視界内に過去の斬撃を"発生させる"技。一度捉えられたら、回避する時間など1秒たりとも与えられないのだ。



まともに攻撃を受けたクロウは怯み、ツタの壁もすっと緩まって消えていく。



その最中、傷を押さえて身動きが鈍くなっているクロウに銃口が向けられた。イブリスだ。イブリスは狙いを定めると銃口の前に自らの左手を掲げ、魔法の準備をして見せた。



これまでカルテットに放ったイブリスの魔法は、幾度となく"absorptioN"による吸収という形で終わってしまっている。だが、それは裏を返せば黒属性魔法が悪魔に対しても効果があるということ。隙を見せた今なら十分に効果が見込める。



「……"blasT"!」



イブリスは焦らずじっくりと、しかし素早く、確実に当たる射線をとらえて引き金を引いた。



「なっ!?」



「……ンフフ」



が、イブリスの左手を貫いた銀の弾丸は、些か普段とは様子が違っていた。クロウの静かに堪える様な笑いと共に、鈍く低い音が周囲に響く。



共鳴反応。黒属性の魔力同士がぶつかった時に発生する現象だ。だがそれはイブリスの魔力が何かとぶつかったために発生したわけではなかった。



ぶつかっているのは()()()()()()()()()()()だったのだ。銀の弾丸は普段よりも圧倒的に大きな質量の瘴気を左手から発生させていたのである。



その量の瘴気を発生させた者への反動も非常に大きく、イブリスはのけ反って狙いを逸らしてしまった。



「何だ……一体……!?」



周辺に自分から発せられた瘴気がうっすらと漂う中、イブリスは困惑しながら自分の左手を見つめる。弾丸が貫いたにも関わらず、無傷の左手。至って普段通りの、魔法を使った後の手だ。



「イブリスさん、今のは……!?」



「俺にもわからん。俺はただ、いつも通りに……」



「クククッ……」



「っ!?」



クロウがイブリスたちを攻撃することもなく、嘲笑うように仮面を揺らしている。



今の現象について、明らかに何か知っている。イブリスもサラも、それはすぐに分かった。



「お前……! 何を知ってる!」



「イブリスッ!」



イブリスがクロウへ詰め寄ろうとするものの、それをラディスが止めた。しかしそのラディスも、何か焦っているような苦悶の表情を浮かべている。



「……君は下がれ。今日はもう、戦っちゃあだめだ」



「ラディス!?」



「いいから下がれっ!」



ラディスは鬼気迫った声でイブリスに戦線離脱を指示する。先程までとは明らかに違う様子だ。どうやらラディスはクロウの狙いに気づいているらしい。



「ラディス、さっきのは……」



「おやおや、呑気にお話をしている場合なんですかねぇ……?」



「きゃあっ!?」



「!? サラちゃん!」



安息の時は一瞬たりとも訪れない。気が付けばサラの周りを下級悪魔たちが取り囲み、攻撃を仕掛けようとしていたのだ。



サラが目的でないと分かった今、悪魔たちに彼女を生かしておく理由はない。イブリスはすぐに駆け出し、サラの元へ駆け出した。



悪魔たちの数は片手では数えきれないほどであり、全方位から更に迫っている。この状況における最善策を、イブリスはひとつしか知らない。サラのそばへと駆けつけたイブリスは、すぐに銃口を自分の頭へと向けた。



「――!! イブリスッ! ダメだっ!」



「"flooD"ォ!」



そしてラディスの静止も虚しく、引き金は引かれ……そして世界は一変した。



イブリスの頭を貫いた銀の弾丸は再び大量の瘴気を発生させ、彼を中心として瘴気の竜巻を引き起こす。何度も鳴り響く共鳴。新月の夜以上に黒く染まる視界。それらは途轍もなく大きな衝撃波を発生させた。



「きゃあっ……!?」



イブリスのすぐ隣に居たサラはその衝撃波を一身に受けてしまう。サラの体は強風に舞う枯葉の如く宙を舞い、吹き飛んだ。



「いたた……イブリスさんっ!」



地面に叩きつけられ、節々が痛む身体に鞭を打ちながらどうにか立ち上がり、瘴気の雲の中に居るはずの師の名を叫ぶ。



それなりの距離を飛ばされたはずなのだが、それでも辺りは瘴気で満たされている。数歩先も満足に見えないほどの状況だ。



「イブリスさん……! イブリスさん!」



何が起こったのか全くわからないが、それを考えることも後回しにして叫び続ける。だが何度繰り返しその名を叫んでも、少女の声は虚しく黒い空間に消えていくばかりだ。



「……ラさん……サラさんっ!」



しかししばらくすると、イブリスのものとは違う、少女の声が返ってきた。



「! フロワちゃん?」



サラがその名を呼ぶとほぼ同時に、黒い雲を抜けてよく知る少女が現れた。



焦げ茶のボブカットと、戦場に似つかわしくないメイド服。フロワだ。



「無事だったのですね」



「うん……フロワちゃんも、傷は?」



「まだ少し痛みますが、歩く程度なら問題ありません。しかし……これは何が起こったのですか?」



フロワの問いに、サラは首を横に振る。



「私にもわからない……でも、まずはイブリスさんのところへ行かないと!」



名を呼んでも返事が無いのならば、こちらから出向けばいい。周囲の状況は全くわからないが、イブリスを中心として衝撃波が発生したのは確かなこと。サラが飛ばされてきた方向へまっすぐ進んでいれば、イブリスはそこに居るはずなのだ。



サラはフロワの手を握り、真っ直ぐにフロワの瞳を見つめる。フロワもそれに頷いて返答した。



「†再誕せし黒の王†」



そして少女ふたりが瘴気の中で歩を進めようとした時、それは現れた。



「†その御姿を目にせんとするか?†」



「――! ルフ・ザ・ロック!」



カルテットが1人、ルフ・ザ・ロックだ。



ルフはサラとフロワの進路を塞ぐように立っており、その顔はどこか恍惚としていた。



「何言ってるか全然わからないです。いいからそこを通してください」



「サラさん……!」



が、サラは目の前に現れた強大な敵に臆することなく、毅然とした目つきでルフを睨みつけて見せた。



ルフは自分を鋭く自分を見上げる少女を気だるげに見下ろし、ため息ともとれる息をはぁ、と吐く。



「ならばお前たちにもわかる話し方で話してやろう」



……そして、渋い声でそう言った。



「なんだ、ちゃんと話せるんじゃないですか」



「黙って私の話を聞け」



軽口をたたくサラの首元に、鋭い氷の剣があてがわれる。



「……」



「いいか、これは我々の王が顕現なされた証だ。数百年にも及ぶ我らが悲願……それが今達成されたのだ」



「悪魔たちの王?」



ルフの口元がニヤリと歪む。



「お前たちもその姿を見たいと望むならば……私についてくるが良い」



ルフはそう言うと、振り返って瘴気の中を進み始める。



サラとフロワは顔を見合わせ、お互い決心したように強く頷くと、ルフの後を追った。



――その方向は、イブリスを探して進もうとした方向と全く同じだった。

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