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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、運命の分岐点
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EMQ:アヴェント防衛線-真意

「――!? どういうことだ、ラディス!?」



悪魔たちの目的がサラではない。今までの悪魔の行動を全て否定するようなその言葉に、イブリスはラディスへ大きな声で迫る。



「元々悪魔たちの行動にはどこか違和感を覚えていた。サラちゃんを狙っているにしてはやっていることが甘すぎる」



ラディスは目線だけをイブリスに向けながら話を続けた。フロワは話を聞きつつもクロウへの警戒を緩めないが、当のクロウはそれを邪魔することなく静かにたたずんでいる。



「例えば『森林の館』での一件だ。サラちゃんとフロワに相対した時、なぜわざわざ僕に化けてまで懐柔しようとした? 花の手の内に陥れたならそのまま連れ去ってしまえばいい」



クロウは何も答えない。



「そして今回。君たちはサラちゃんを捕らえられなかったにも関わらず、僕らに彼女の幻覚を見せた。一体何のためにだ?」



クロウは、何も答えない。



「答えたくないなら代わりに僕が答えよう……それはイブリスの動揺を誘い、彼の隙に取り入るためだ!」



ラディスは犯人に真実を突きつける探偵のように、ビシッと人差し指を伸ばしてクロウを指さす。



「――! おい、ラディス、その言い分だとまさか……!」



「そう……悪魔たちの真の目的は、君だよ。イブリス。奴らは僕らの勘違いをいいことに、サラちゃんを狙っているふりをしながら虎視眈々と君を狙っていたんだ!」



……クロウが仮面の下でにやりと笑った気がした。



最初にアヴェントを襲ったのは、イブリスの居る街だったから。



ヒュグロンギルドの面々をけしかけたのは、イブリスを狙っていたから。



『森林の館』でサラたちを連れ去らなかったのは、イブリスをおびき寄せたかったから。



サラを狙っているふりをしながら、真に狙っていたのは常に行動を共にしているイブリスの方だったのだ。



「……ククク」



訪れたしばしの沈黙ののち、クロウの不気味な笑い声が聞こえてくる。



「聞いていた通りだ……やはり、()()の中では君が最も小賢しいですねぇ」



「……ねぇ、シラサギ君?」



「――!?」



クロウの言葉に続くように、落ち着いた少女の声と鈍い、ぐちゃっという音が聞こえた。ラディスの()()()()()



途端によぎる最悪の予感。ラディスは恐る恐ると隣のイブリスへとゆっくり振り向く。



「がっ……フ、ロワ……?」



そこではフロワが不気味な笑みを浮かべながら、右手でイブリスの心臓を背後から貫いていた。



「イブリスッ!?」



「ま、いいでしょう。今更バレてしまったところで……これで目的は達成ですから」



フロワの声は次第に低くなっていき、その姿もどんどんと歪んで全く違う姿へと変わっていく。そしてやがてその姿は仮面の道化、クロウへと変わった。



すぐそばには傷だらけのフロワが倒れている。今まで目の前で話していたクロウはボロボロの冒険者へと姿を変え、そのまま倒れこんだ。クロウはいつの間にかフロワに成り代わっていたのだ。イブリスもラディスも、既にピエロの術中だったのである。



「ぐあっ……!」



その手は明らかに心臓を貫いているにも関わらずイブリスはまだ生きている。イブリスは苦悶の表情を浮かべ、彼からクロウの手をつたって漆黒の瘴気が流れ込んでいた。



「イブリスを放せ!」



ラディスが動揺しつつも刀に手をかけると、地面から新たに生えたツタがラディスに襲い掛かった。いなしつつも周囲を見渡して助けを求めようとするものの、既に当たりの冒険者はクロウのツタによって全滅していた。



ツタの包囲をくぐり抜けようとするラディスを嘲笑うクロウ。ラディスはツタを次々倒していくが、倒したそばから新たなツタが現れてまた襲い掛かってくる。やがてツタの数も増えていき、しばらく戦ううちにラディスは不意を突かれてツタに拘束されてしまった。



「ぐっ!」



「ン・ン・ン……あっけないですねぇ。そこでミュオソティス君が苦しむのをよく見ておくと良いでしょう」



「くっ……そんな、こと……!」



ツタを振りほどこうともがくラディス。しかしツタは何本も絡まり、厳重すぎるほどにラディスを締め付けている。



身動きは取れず、助けを求める人も居ない。あまりにも絶望的で、最早諦めざるを得ないこの状況。ラディスも成すすべなしかと考えかけてします。



「そんなことお断りです!」



「!?」



――少女の声と共に光球が飛来したのは、その時だった。



突如飛来したその光球は2発。1発はクロウへ、1発はラディスを拘束するツタへと直撃し、イブリスとラディスの2人は両方攻撃と拘束から解放される。



「クッ……!? 白の魔力!?」



クロウは突然の襲撃に驚き、ツタに乗って一度距離を取る。



「ぐっ……今のは……!?」



イブリスは心臓を押さえ、ふらつきながらもラディスの元へ。全員の視線が光球の飛来した方向へ向く。



「ギリギリ間に合ったみたいですね……良かった……」



そこには、胸を押さえてほっと安堵の息をつく白髪の少女がひとり。その少女はイブリスと目が合うと、心配そうな顔をして駆け寄ってきた。



――イブリスの唯一の弟子、サラ・ミディアムスその人である。



「サラちゃん!? どうして……!?」



「話は後です! 早く、その傷見せてください!」



「俺はいい! それよりもフロワを!」



イブリスは自分の傷を見ようとするサラに、フロワの治療を促す。イブリスの胸には多少瘴気の残滓が見られるが、何故か傷は無かったのだ。それを見たサラはイブリスの言葉に頷き、フロワの元へと向かった。



「フロワちゃん! 大丈夫!?」



「サラ……さん……? 何故……」



どうやらかすかに意識を保っていたらしい。サラが近づくと、フロワは小さくかすれた声で彼女の名を呼んだ。



「酷い傷……! すぐ治すからね!」



目も当てられない傷だ。メイド服はところどころ破れてボロボロになり、立ち上がることも不可能なほどに痛めつけられている。サラはすぐに隣にしゃがみこんで治療を開始した。



「ラディス、一体どういうことだ? 俺ぁ確かにあの子がマルメール行きの列車に乗るのを見送ったぞ!?」



「思ったよりも早かったね。助かったよ」



「行きは次元の狭間を通ってったからな。カップ麺がちょいと伸びるくらいの時間で連れて来られたぜ」



ラディスは刀に手をかけてクロウの動きを警戒しつつも、イブリスとは違う男に話しかけた。新たに現れたのはサラ一人ではない。そのもう一人が、ラディスの隣へ歩いてきて得意げな顔をする。



「カイリ……!?」



「よっ、イブりん!」



カイリ・コウナギ。一度は戦線を離脱した男だ。



「剣聖サンに頼まれてね。街までちょいと飛んで連れてきた。いやぁもう、流石に人ひとり抱えて飛ぶってなると重くて重くてくったくた……」



「カイリさん。私、女の子」



へらへらとするカイリに治療中のサラからドスの効いた声が飛ぶ。カイリは一瞬だけぎょっとした仕草を見せたが、その顔はへらへらとした表情のままだ。



「グース……! 君はとことん僕たちの邪魔をしてくれる……!」



「よっ、クソピエロ。どう? 裏切り者っぽいだろ?」



そんなカイリに、低い声を投げかける者がもう一人。クロウ・ロ・フォビアだ。その不気味な仮面の下からは明らかに憎しみの視線が伸びている。いくら表情がわからないとはいえ、今のクロウは誰が見ても怒りに満ちているとわかるだろう。



対するカイリはまるでいつも顔を合わせる友人に向けるような気さくな挨拶を返している。イーグル・アイに植え付けられた恐怖もマルメールの街への遠征で和らいだか、クロウを前にして物怖じする気配はない。



「じゃ、剣聖サン、俺帰っていい?」



「……ああ。落ち着いたらまた援護を頼むよ」



と、思われたがそうでもなかったようだ。良く見てみれば少し足が震えているほか、顔にはひと筋、冷や汗が垂れている。心の中では気が気ではない状況のはずだ。



ラディスもそれを直ぐに察して彼へ戦線離脱を許可。カイリはクロウへ向かってにやりと笑顔を向けると、翼を生やして街の方向へと飛び立った。



「さて、それじゃあ仕切り直しだ。まさか油断はしてないよね?」



「余計な世話だ」



イブリスはラディスと共に再びクロウと向き合い、銃に弾を込めなおす。



真意を明らかにしたからといって目の前の脅威が去ったわけではない。むしろ目的が判明した今、クロウは積極的にイブリスを狙ってくるだろう。先ほどの攻撃で体力が減っている分、こちらが少しばかり不利だと言ってもいい。



「ン・ン・ン……まあいいでしょう。あの裏切り者には腹立たしさを覚えますが……まずは目の前の獲物を獲りにいかねば、ネ?」



クロウも次々と新たなツタを召喚し、戦闘再開の意思を明確にする。



第二ラウンドの開幕である。

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