EMQ:『森林の館』攻略-突入
「んー、ここも駄目だな」
「窓は割れず、隠し通路みたいなものもなく。進入口なんて、ほんとにあるのかね」
二人の冒険者が、言葉を交わしながら館の壁を調べている。
サラとフロワが館の中へ追い込まれてすぐに、クエストの一団は館へと到着した。一団は館を取り囲むように散らばっている。
館の正面玄関は固く閉ざされていた。押しても引いても、びくともしない。そのため、数名は扉の破壊を試み――レオはこちらに居る――残りは他に進入口が存在しないか、調査をしているのだ。
とはいえ、その調査は難航しているのだが。
「やっぱりあの扉を破壊するほうが早いんじゃあないか?」
「かもなぁ……」
「おい、そこ。駄弁ってないで調査に集中しろ」
「うおっ……!?」
諦めかけながらも調査を進めていた二人の冒険者のすぐ傍に、イブリスが上から降ってきた。
木に登り、二階の窓や壁を調査していたのだ。
「なんだ、黒の魔術師か……驚かせるな」
冒険者は驚いたものの、その態度は柔らかい。手練れというだけあって、イブリスのクエストでの活躍をそれなりに知っており、一目置いている者も多いのだ。無論、全員ではないが。
「この大きさの館で入り口が正面玄関だけとは思えん。余裕がないんだ、一刻もはやく他の入り口を見つけ出す」
一方のイブリスは厳しい表情を浮かべ、それだけ言い残して他の場所の調査へと向かってしまった。
「なんだ、あいつ? いつもよりやけに機嫌が悪いな」
「そうか? いつもあんな感じだろう。というか、仲良いのか?」
「いや、そういうわけじゃないが、いつも街で見かける時はもっと表情が柔らかいんだ。まあ、その時は弟子の女の子が一緒だったからかもしれないが……おっと、調査調査」
二人の冒険者は、再び調査を始める。
窓を壊そうと試みたり、壁をたたいてみたり。進展はありそうにないが。
「クソ――ッ!」
さて、イブリスだが。"機嫌が悪い"という冒険者の発言は、決して間違っているものではない。
イブリスは焦燥感に駆られていた。原因は勿論、サラとフロワの二人のことである。
足跡は、この館の方向へと続いていた。間違いなく、二人はこの館へとやってきているのだ。だが、周辺に居る気配はない。
恐らくはすでに館の中だ。その推測が、イブリスを焦らせているのだ。
「一体どうしたんだ、これは?」
そんな中で、ルツァリが、目の前に広がる光景に目を丸くしていた。館のすぐ傍に、幾重にも絡まった植物のツタを発見したのである。
「どうした、ルツァリ!」
ちょうどその時、イブリスが、ルツァリの元へやってくる。
「――! これは……」
「クロウ・ロ・フォビアの植物だ、間違いない。『カルテット』はやはりここに居るらしいな……だが、不可解なのは何故こんなところにあるのかだ」
「ここで……何かがあった」
ここは館の西側だ。入り口を塞ぐようにツタがあるのならわかる。だが現実には、特別何かがあるようには見えないこの場所にある。
見たところ西側からの進入口は窓の他にない。その窓が割れないのは確認済みであるし、なぜか異常なほど曇っていて中を確認することもできない。
「……ルツァリ、こいつは?」
イブリスは辺りの地面を確認した。
地面には、細い跡が幾重にもついている。ツタが暴れでもしたのだろうか。そして、その跡は……館の、窓の一つへと続いていた。
「ツタが何かを追ったような跡だ……まさか」
「なるほど、確かに可能性はありそうだ」
「ルツァリ、少し離れていてくれ! "blasT"!」
イブリスはルツァリを窓から離すと、自分も距離をとり、窓に向かって爆破の魔法を放った。
銃声と、爆発音が森の中に鳴り響く。数名の冒険者が、その音に反応してイブリスたちのほうに視線を送る。
「――やっぱり、駄目か」
だが、窓は勿論、周辺の壁にすら、傷一つつく気配はなかった。
同じく瘴気の影響を受けていたヒュグロン本部では、"blasT"を使えば壁は砕けた。この館はそれに比べ、異常なまでに堅くなっている。
「サラちゃんたちがこの窓から進入したのは間違いない……中に居るなら、確実に『カルテット』に襲われているはずだ。早く、俺たちも突入しなければ……!」
「イブリス! これを見てくれ!」
更に焦りを募らせるイブリスを、ルツァリが呼ぶ。
振り返ると、ルツァリはしゃがんである一点の地面を見つめていた。
その土の隙間からは、鈍く輝く黒いものがあった。明らかに、土の下に何かがある。
「こいつは……!」
それを見た瞬間、イブリスは慌てて土をはらった。その下からは、取っ手のついた金属の蓋のようなものが姿を現す。
イブリスは戸惑いなく、力を込めてその蓋を開いた。
蓋に乗っていた土がぽろぽろと落ちていき、中からは穴と、下り梯子が姿を現す。
「地下への入り口……! この館の地下室か!?」
穴の中は暗く、底は見えない。だが、館のすぐ隣にこの穴がある事。そして、中から漂ってくるただならぬ気配が、館とつながっていることを証明していた。
その穴を発見して間もなく、正面玄関側から衝撃音が聞こえてくる。
「ルツァリ様! 正面玄関の扉の破壊に成功しました!」
「丁度良いな。こちらも別の入り口を発見したところだ。両方から攻めよう」
ルツァリの元へ"機関"戦闘部門の職員が報告へやってきた。
正面玄関からはすでに数名の冒険者が突入しているようで、そちらの方向がかなり騒がしくなっている。周りの冒険者も、玄関へ向かって行っている。
「……この穴からは一人ずつしか入れなさそうだが?」
「では、こちらからは私とイブリスだけで行こう」
「なっ!? 二人だけで大丈夫なのですか!?」
「二人だからいいのさ。正面玄関に大勢集まっているんだ、あえてこちらから少数で攻めれば、敵の混乱を招くこともできる。それに私たちなら、二人とて……戦力は十分だろうからね」
ルツァリは、イブリスに期待を込めた視線を送る。
"機関"戦闘部門でトップクラスの実力者と、強力な魔法を使える魔術師のコンビ。確かに少数精鋭としては申し分ない二人だ。
異論はない。イブリスはルツァリを見つめ返して頷いた。
「決まりだな。では私たちはこちらから行く。正面玄関から突入した部隊には、出来るだけ手分けして探索するよう、言っておいてくれ。皆それくらいはわかっているだろうが……それから、少女を二人見かけたら、保護しておくように」
「少女、ですか……?」
「白髪青目のプリーストと、巨大な盾を持ったメイドの少女だ。この館に迷い込んだ疑いが強い」
「……了解しました。ご武運をっ!」
「それはこちらの台詞だよ……ではイブリス、行こうか」
職員に伝達事項を伝えると、ルツァリはすぐに梯子を下っていく。イブリスもすぐにそれに続いた。
「踏み外して落っこちてくるんじゃないぞ、イブリス」
「暗いんだ、少しくらい許せ……」
やはり、穴の中はかなり暗い。少し下っただけで、視界が黒く染まるほどに。油断するとすぐに梯子を踏み外してしまいそうだ。
半ばまでやってくると、本当に何も見えなくなってしまう。せいぜい、開けっ放しの入り口から地上の光が見えるくらいである。
「む、ここに地面がある……ついたぞ、気を付けて降りるんだ」
「……よし、問題ない」
真っ暗な闇の中、二人は地下に降り立つ。
やはり光はなく、あたりの様子は全くわからない。暗闇に目が慣れたおかげで、辛うじてお互いの位置は把握できるが。
そこでルツァリは剣を取り出し、壁と地面をたたき始めた。これで道を辿って行こうということか。
「イブリス、明かりはあるか?」
「あったらとっくに出してる。むしろお前は持ってないのか?」
「君の言葉をそっくりそのまま返そう」
「まあ、そうなるよな」
剣を杖代わりに使うルツァリを頼りに、地下を進んでいく。
真っ直ぐな廊下。どれくらい進んだのかはわからないが、方角からして館へ続いているのは間違いないようだ。
「……壁が曲がった。曲がり角……いや、ここは部屋か?」
不意に、ルツァリが立ち止まる。目を凝らして見てみると、確かに真っ直ぐだった壁が曲がっていることがわかる。それも片方だけではなく、両側だ。
廊下が終わりを告げて、何かの部屋へとたどり着いたらしい。
「くそっ、光がないと何も見えないな……」
「†汝、求めしものは導きの光か?†」
――暗闇に、不意に声が響いた。
「――っ!」「誰だっ!」
ルツァリとイブリスが、同時に武器を構え、臨戦態勢に入る。
その時、部屋に光がともった。壁に備え付けられている蝋燭が次々とともっていき、暗闇だった部屋が暖かい光に包まれていく。
イブリスたちが居たのは、円形の部屋だった。どうやら牢獄だ。
繋がる道は二本。イブリスたちが通ってきた廊下と、その反対側。奥へと向かう道。
そして、その道の前には、一人の男が居た。
「†我、冷たき道の番人なり†」
――『カルテット』、ルフ・ザ・ロック。
全身黒ずくめのその男は、冷酷な視線を二人へと送った。





