EMQ:『森林の館』攻略-発見
「……む、到着したようだな」
動きが止まったことを確認して、一行は馬車を降り立つ。
森の入り口ということもあり、辺りには木が乱立している。馬車たちは各々好きな所に停まり、乗車している冒険者たちを降ろすと、移動して綺麗に並び直しているようだ。
他の冒険者たちはこれからの戦いに向けて、装備の確認や精神統一をしている。
中には胸を押さえ、深呼吸をしている者も見受けられる。手練れの者たちが集まっているとはいえ、やはり緊張は抑えられるものではない。
「んー、この森林は何度か来ているけれど……ここから見る限りじゃ変わったところはなさそうだね」
「館が見つかったのは奥深くだそうだからな。流石に入り口まで影響が来てるわけじゃないんだろう」
背伸びをして森の奥を覗き込むセルテに、イブリスが銃の弾をこめながら返答する。
『悪魔の巣』の周辺には、異常な光景が広がっていてもおかしくはない。瘴気の影響も含め、何かしら歪なものがある事が多いのだ。
しかし、ここから見える範囲にはそのような異常はない。最も、立ち並ぶ木のせいでそう遠くまでは見えないのだが……少なくともこの周辺は安全地帯のようだ。
「んで、ここからどうするのかね……」
イブリスはルツァリの方向へ視線を送る。
どうやらルツァリは伝達魔法でどこかと連絡を取り合っている様子だ。森に到着したことを"機関"本部へ報告しているのだろうか、それともアヴェントに残った戦闘部門の職員たちに状況を聞いているのか?
どちらにせよ今は忙しそうだ。しばらくはゆっくりと準備を整え、この後の戦いに備えるべきだろう。
「……む? あれはなんだ?」
――イブリスが軽く銃のメンテナンスを始めると、森を覗き込んでいたレオが声を上げた。
「ん? レオ、どうした?」
「いや、妙なものを見つけたのだ。見えるか、リアス?」
「あれか? なんだか、馬車みたいだが……」
「馬車だと?」
イブリスはメンテナンスの手を止め、レオとリアスの二人と共に森を覗き込む。
そこには、確かに馬車があった。木の陰に隠れて見えづらいが、確かに"機関"の紋章があるものだ。
「"機関"の馬車……妙だな、どうしてあんなところに停まっている……?」
今、イブリスを含めた冒険者たちが乗ってきた馬車は、ここから少し離れた平野に整列しているはずだ。
では、まだ冒険者を降ろしていない馬車か? いや、ありえない。馬車が停まっている場所は、森にそれなりに立ち入った場所。他の冒険者たちはこの場に集まっているというのに、何故、あんなにも遠くに馬車を停める必要がある?
「……少し見てくる。皆はここで見張っていてくれ」
「おい!! 危険だぞ、イブリス!!」
「少しだけ様子を見てくるだけだ……何かおかしい事があったらすぐに戻る」
もしかすると、既に『カルテット』たちの襲撃が始まっているのかもしれない。そうであれば、発見が遅れることは致命的だ。
危険なのは百も承知。イブリスは銃を構え、あたりを警戒しながら、森の中の不審な馬車へ近づいていった。
木の陰に隠れた馬車の姿が、次第にその全貌を現していく。
「――! こいつは……まさか!」
隠れていた所までもが完全に見えた瞬間、イブリスは馬車に駆け寄った。
近づいて初めて、気が付いたことがある。馬車には、先ほどルツァリが乗っていた馬車と同様の、豪華な装飾が施されていたのだ。
それだけではない。その馬車に……イブリスは、はっきりと見覚えがあった。
「間違いない……! こいつはラディスの馬車だ!」
――この馬車と、それを牽く馬は、間違いなくラディスが所有するものだったのである。
何故だ、何故こんな所にラディスの馬車がある? イブリスは思考を巡らせる。
ラディスが行方不明になったのは牢獄の中のはずだ。アヴェントからわざわざ馬車を使って出て行った訳ではない。そもそもそんな所が目撃されていたのなら、行方不明だなどと騒がれはしないだろう。
では、誰か無関係な人物が勝手に使ったのか? それもない。仮にも"機関"のトップの一人が所有する馬車だ。関係者でもなければそう簡単には使えないだろう。
勿論、今回のクエストに一緒についてきたものでもない。この装飾が施された馬車は、ルツァリの馬車一つだけだ。出発前にも走行中にも、それはちゃんと見ている。
「――イブリスッ! イブリスはどこだっ!」
一体、どういう事なのか……解けない謎に悩むイブリスに、ルツァリの声が届いた。
「ここだっ! ルツァリ!」
森への突入を待つ冒険者たちの隙間を縫いながらイブリスを探すルツァリに、馬車の元から大声で呼びかける。
アトミスの三人の誘導もあり、ルツァリはすぐに、イブリスの元へ駆けつけた。
「こ、この馬車は……? ラディス様の? どうしてこんな所に……」
「わからん、丁度今それを考えてたところだ」
ルツァリも馬車を見て戸惑いの表情を浮かべる。ルツァリが知らないところを見ると、やはりこの馬車がここにあるという今の状況は"機関"側も把握していない、異常な事態のようだ。
「こいつの事は後回しにするとしてだ。ルツァリ、一体こんな時に何の要件だ? ……その様子を見る限り、いい話では無さそうだが」
「……ああ」
ルツァリは神妙な面持ちで頷く。やはりいい話では無いらしい。とてつもない嫌な予感が、イブリスに降りかかる。
「今、向こうの様子を聞こうと思って……アヴェントに残っている戦闘部門に連絡を取ったのだが……」
なるほど、どうやら先ほどの伝達魔法は残留部隊との連絡だったらしい。
まさか街で何かあったのか。イブリスの嫌な予感が、まるで風船が膨らむように、更に大きくなっていく。
「どうやらサラとフロワが、アヴェントの街の何処にも居ないようなのだ……!」
「……何?」
――大きくなった風船が、弾けた。
サラとフロワが、街に居ない。ラディスに続いてあの二人までもが行方知れずになってしまったのだ。
驚きはある。だが、不思議と不安は無かった。代わりにあるのは、ある一つの考えである。
「まさか――ッ!」
弾けた風船の中から現れた一つの"考え"が、イブリスを突き動かした。この場にある謎が、つながっていく。
ここにある馬車はラディスの馬車だ。関係者以外には動かせないような馬車だ。
――それはつまり、関係者には動かせるということ。
居るではないか、これを動かせる関係者が、知り合いに一人。よく見知った人物の中に、一人。
イブリスは馬車の周囲の地面を探りはじめる。
「あった……やっぱりだ」
馬車のすぐそばの地面。腐葉土の柔らかい地面に、いくつかのくぼみがあった。
足跡だ。森の奥へと続いていく足跡。恐らくは『悪魔の巣』を目指して進む足跡。
大きくはない。少女のような……小さな足跡だ。それが二人分並んでいる。
それを見た瞬間、イブリスの"考え"は"確信"となった。
「――ッ! あの、馬鹿娘どもっ!」
サラと、フロワ。
あの二人がこの森に来ているということを、今この状況ははっきりと証明していた。





