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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、女騎士と出会う
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女騎士との出会い その3

ルツァリさんがいきり立ったトリニダイルたちの元へ、ゆっくりと歩いて近づいていく。


先程までの優しげで、親近感の湧く表情から一変した、とても鋭い目つき。あれは、"戦う人"の目だ。普通よりも少し大きく見える背中が、戦闘部門サブリーダーの貫禄を感じさせる。


前に出るルツァリさんとは対照的にイブリスさんは少し後ろに下がった。あえて手出しはせず、実力をみるつもりのようだ。


「行くぞッ!」


ルツァリさんが、動いた。待ち構えるトリニダイルの群れの中へ、剣を構えて乗り込んでいく。


対するトリニダイルたちも、一斉に飛び上がり、宙を舞ってルツァリさんに襲い掛かった。


「はッ!」


ルツァリさんが剣を振るった。


広い範囲を一瞬で振りぬく横薙ぎ。ルツァリさんの目の前を飛んでいた三匹が、同時に血を噴出して落下する。


剣を振るその速さはすさまじいもので、振り始めから振り終わりの間が全く見えない。(勿論、ラディスさんのようにそもそも剣を振るっていないとか、そういうわけではない)


目にも止まらぬ早業に驚いたのもつかの間、ルツァリさんは次のトリニダイルへとターゲットを移した。


剣を振りぬいた勢いのまま身体を翻し、地面を這って隣に迫ってきていた一匹に回転切りを叩き込む。更にその剣を続けて振り上げ、飛んでいる一匹にも一発。


ルツァリさんが剣を振るうたびに、それに続いて辺りに風が巻き起こる。


「……! ルツァリさん、後ろです!」


とても鮮やかな剣技。そんな中、ルツァリさんの背後から一匹、トリニダイルが飛行しながら近づいていた。


口を大きく広げ、ルツァリさんをまるかじりにしようとするその姿に、思わず声を上げてしまう。


「わかっているさ――!!」


けれど、ルツァリさんはトリニダイルの接近にちゃんと気がついていたみたいだ。私の声よりも早く、金属製のバックラーの取り付けられた左腕を後ろに回していた。


トリニダイルの口が勢いよく閉じられ、バックラーに噛み付いた。ガチン! という音が響く。


「ふぅん……!」


トリニダイルが噛み付いたままの左腕を振り回すルツァリさん。案外肉体派なところもあるらしい。


ルツァリさんは左腕のトリニダイルを、振り回した勢いで飛行している他のトリニダイルに思い切りぶつけた。これはひとたまりもない。ぶつけられたトリニダイルは、噛み付いていたトリニダイルと共に吹っ飛んでいく。


そろそろトリニダイルたちも恐れをなしたのか、襲い掛かるのをやめ、私たちから距離をとって様子を見始めた。


「……次期"剣聖"の面目躍如ってところか。魔法が主体のラディスよりもよっぽどキッチリ"剣聖"してるな」


どうやらルツァリさんの流れるような動きに、イブリスさんも感銘を受けているみたいで、ルツァリさんに軽い拍手を贈る。折角なので、私も一緒に拍手をした。


……うん、とても魔物に囲まれている状況とは思えないけれど、一応周りには気を配っているつもりだよ。


「お褒めの言葉をいただけて、光栄だ」


ルツァリさんは私たちへ柔らかな笑顔を向けて、そう言った。つい今まで剣を振るっていたとは思えないほど、落ち着いた声。息切れなども全くしていない。


話には聞いていたけれど、やっぱりいざこの目で見てみると感動を覚えるというもの。疑っていたわけじゃないけれど、その実力は噂に違わぬものだった。


「実力は衰えていないようですね」


「戦闘部門サブリーダーの腕が鈍ってちゃ駄目だろう? 出撃していないときでもちゃんと訓練はしているさ」


「ご苦労なことだな。ところで……」


イブリスさんが、銃を構えた。


「どうやらお怒りを買っちまったようだな」


「――これは」


トリニダイルたちは、相変わらず私たちから距離を取って、様子を見ている。


そう、思っていた。でも、それは全くの勘違いだったのだ。


トリニダイルたちは、跪いていた(・・・・・)んだ。現れていたとある存在に、跪いていた(・・・・・)んだ。


「お、大きい――!?」


現れたそれ(・・)を目にした私は、思わず声をあげた。


鱗に鋭利なトゲを持ち、更に背中に生えた翼は他のトリニダイルと違って二対、つまり四枚の翼。明らかに凶暴性の増した外見をしている。


そして、特筆すべきはその大きさ。他のトリニダイルよりも、一回りも二回りも大きい。


「トリニダイル・フォルタ……」


フロワちゃんがその名を呟いた。


"フォルタ"の称号。トリニダイルたちをまとめる、ボスモンスターだ。


「フォルタの群れだったとは……なんて運が悪い。厄介なことになったな。イブリス、どうする?」


「運が悪いだと? とんでもない。追加収入だ」


……イブリスさんの瞳には、炎が燃えているように見える。


ボスモンスターを討伐した時の追加報酬は無視できるものじゃない。他の魔物に比べて危険性は高いけれど、倒せた時の謝礼はそれなりに多いのだから。


「サラちゃん、フロワ、行けるな?」


「問題ありません」「は、はい!」


行けるか? ではなく、行けるな? という聞き方。イブリスさんには撤退という意思は全くないようだ。


「ふふ、そうこなくちゃあな」


イブリスさんの様子を見て、ルツァリさんが笑いをこぼした。この人にも、元から退くつもりはないということか。


「グァァァ!」


「きゃっ……!?」


仲間を殺された恨みからか、相手も戦意は十分。その大きな口を広げ、鳴き声での威嚇をしてくる。


巨体に見合った、とても大音量の鳴き声。私は思わず耳を塞いでしまう。


「怯むな、行くぞ! "invasioN"!」


イブリスさんがその大きな口目掛けて魔法を放つ。


……が、トリニダイル・フォルタは体を後ろに向け、尻尾で銃弾を叩き落とした。


「流石にそう簡単には決めさせてくれないか……!」


「はぁッ!」


続いてルツァリさんが前に出る。ルツァリさんはトリニダイル・フォルタの体に、思い切り突き刺した。けれど、鱗が相当硬いのか、あまり深くは刺さらない。


「ルツァリさん!」


トリニダイル・フォルタが反撃の体勢を取った。私は咄嗟に杖の魔石に魔力を流し込む。


魔石から発生した光球がトリニダイル・フォルタへ向かって飛んでいき、その頭に直撃した。


「グゥ……?」


だ、ダメージが全く通ってない……!?


剣をほとんど通さないほどの鱗。あれは最早鎧と言い換えても良いかもしれない。杖魔法程度じゃ痛くも痒くもないんだ。


でも、これで一応、気を引くことはできた。ルツァリさんへの反撃は阻止した……けれど。


「グァァァ!!」


問題は、私にヘイトが向いてしまった事。


トリニダイル・フォルタは四枚の翼をはばたかせて飛び上がる。その巨体が空中に浮かび上がる姿の迫力は、他のトリニダイルたちの比じゃない。


「サラちゃん!」「サラ!」


空中のトリニダイル・フォルタは、私に向かって急降下してくる。口を大きく広げて。このままじゃあ、まるかじりどころか丸呑みだ。


「わ、わわ……!」


逃げる暇もなく、杖魔法を何度も撃ち込むけれど、全く通用する気配がない。


大きな口が目の前に迫って、閉じられる……その瞬間。


「心配ありません」


フロワちゃんが、私を守ってくれた。


その巨大な盾でトリニダイル・フォルタの口につっかえ棒をしてみせる。


「でかしたフロワ……! 隙あり(・・・)だッ! "blasT"!」


空中で硬直するトリニダイル・フォルタのお腹に、イブリスさんの魔法が炸裂した。


着弾した場所に爆発を起こす魔法。トリニダイル・フォルタは爆風でひっくり返り、お腹を上にして地面に倒れた。


トリニダイル・フォルタはバタバタともがいて、一生懸命ひっくり返ろうとしている。


……なんだか可愛く思えてしまうのは私だけかな。


「よし、私が決めさせてもらおう」


身動きの取れないトリニダイル・フォルタに、ルツァリさんが近づいていく。イブリスさんは……フォルタの処理をルツァリさんに任せて、周りのトリニダイルの掃除に専念しているようだ。


「で、でもルツァリさん、その鱗……」


「心配ありません」


鱗に剣が通るのかと心配する私の言葉を、フロワちゃんが遮った。


「ルツァリ様は、何も剣だけで戦うわけではありません。勿論、剣が中心ではありますが……当然ながら、魔力だって持っているのですから」


トリニダイル・フォルタのすぐそばまで近づいたルツァリさんが、剣を構えた。


斬り上げの体勢。体の後ろに剣を引き、ばねを伸ばすように勢いをつける。


――同時に、ルツァリさんの剣が淡い緑色の光を帯び始めた。


あれは……魔力だ。緑属性の魔力。ルツァリさんが、剣に魔力をこめている。


「さぁ、これは痛いぞ!」


ルツァリさんが剣を振り上げた。


斬撃が、トリニダイル・フォルタの鱗に傷をつける。やはり、あまり大きなダメージにはなっていなさそうだ。


……が、その直後だった。


剣の軌跡を追うように、ルツァリさんを中心として風が吹き荒れた。風はかまいたちになって、トリニダイル・フォルタに次々と追撃を与えていく。


「あ、あれは……!?」


緑属性魔法で風を起こすことによる追加攻撃。風の音と共に、トリニダイル・フォルタの鱗のトゲが次々と折られていく。


「ふんッ!」


ルツァリさんが再び剣を振るった。これにも風の斬撃が追順する。


一発一発のダメージは小さくても、その数はとてつもなく多い。ちりも積もれば山となるというように、トリニダイル・フォルタの体は傷だらけになっていく。


……やがて、風が止んだとき、血まみれになったトリニダイル・フォルタはもう動かなくなっていた。


「ルツァリ様の、得意技です。一度斬られれば……次々とかまいたちが襲い掛かる。一度剣を受ければ、かなり大きなダメージが入るというわけです」


「す、すごい……!」


鮮やかな剣さばきに加えて、強力な魔法。やはり、その実力はとても高いものだ。


"機関"からのサポートは確かなものだった。これなら……『カルテット』が襲撃してきても、きっと戦える。


「終わったか?」


イブリスさんが私たちに呼びかけた。どうやらトリニダイルたちの掃除も終わったようだ。


「見ての通りだ」


「……お見事」


「イブリスさん、イブリスさん! ルツァリさん、凄いんですよ! 風が! 風がぶわーって!」


「はいはい、後でちゃんと聞いてやるから」


イブリスさんは興奮する私の頭をポンと叩いて、一丁の銃を取り出す。そして、上空に向けてその銃を放った。弾は派手な煙をまきながら空高く舞い上がっていく。


いつも使っている銃ではない。これは所謂信号弾だ。倒した魔物の回収を依頼するための信号弾。これで、倒したトリニダイルたちを回収するために"機関"が駆けつけてくれるということになる。


今から"機関"の人たちを待っている間、しばらくは休憩時間だ。


「ふぅ……」


「私たちと一緒のクエスト、どうでしたか? ルツァリさん!」


軽く伸びをして、草原に座り込むルツァリさん。私は、その隣に座って、聞いてみた。


「ふふ、とても楽しいよ。"機関"の仕事での戦いばかりだったから、久しぶりのクエストというのもあるが……でも、このパーティは、とても居心地がいい。イブリスもアヴェントの悪評が嘘みたいに話しやすい人物だしな」


ルツァリさんはそういって私に笑顔を向けてくれる。


「これからしばらくの付き合いだけれど、うまくやっていけそうだ。よろしく頼むよ、サラ」


「――はい!」


こうして、私たちのパーティに、とても頼もしい味方が増えたのでした。

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