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心機(仮題)  作者: 山葵
第一章 「アンドロイドと心」
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第二話 「依頼」 3

住宅街。一戸建ての住居やアパート・マンションなどが集合している地域を指す。

特にこの辺りは大小様々な住居が立ち並び、新築の家から築50年以上は経っているであろう古家まで乱立してる。日中は人が絶え間無く行き来し騒がし一帯なのだが、夜になると閑静な住宅街へと様変わりする…まるでゴーストタウンのようだ。

しかし、ゴーストタウンと違うのは家の明かりが灯してあることだろう、夜が更けていくと、一つ、また一つと家の明かりが灯される。その明かりが暗い夜道をイルミネーションのように照らしてくれているようだ。

その夜景に思わず目を奪われる。特に綺麗という訳ではないのだが、物静かな住宅街を見ているとセンチメンタルな気持ちになってしまうのだ…

住宅街と言うのだから住宅の数相応の人間が住んでいる地域だ。だが、この閑静な住宅街を眺めていると本当に人が住んでいるのだろうかと疑いたくなる。ここには俺しかいないのではないか?俺だけがここに置き去りにされたのではないのかと…

勿論、そんな事はない。夜が明けるとまた騒がし日常が戻ってくるのだから安心していい。


しかし、この言い表せない孤独感がどこから来るのか?俺は仮定を立ててみた。

それは"闇"だ、暗闇。夜になると当然日は沈み、世界に闇が訪れる。今の時代は電気があるので夜でも明かりを灯すことが出来るが、もし電気が未だに発明さてれいなかったら…この辺りだけではなく世界全体がゴーストタウンのようになっていただろう。

暗闇の中で行動を起こそうと考える人はいない。見えないことが一番の恐怖だと知っているからだ。


視覚とは人間の感覚機能の一つだ。

感覚機能は五つあり、その一つでも奪われると人間は恐怖に陥るだろう。特に視覚は感覚機能の中で情報量が一番多いと言われている。

暗闇は一番情報量が多い視覚を奪うのだ、恐怖を通り越してパニックになってもおかしくない。

その暗闇を唯一打ち消すことが出来る存在。それが"光"だ。

人は光・明かりがあるだけで安心感を得られる、特に周囲が暗闇に染まっている時は尚更だ。人は光にすがるしか暗闇に対抗出来る手段がないのだ。


少し話が逸れてしまった。

では、なぜ夜の住宅街を眺めていると孤独感を感じてしまうのか。

それは暗闇に漂う小さな灯りが、まるで儚い存在に見えてしまうのかもしれない。

どこまでも深く感じる闇、それはまさしく深淵と例えてもいいだろう。その深淵に抗うように瞬く小さな灯り。それはまさしく儚い人間のようだ…

俺の目にはそう映っているのだ…だからこんなにも切ない気持ちになってしまう。

かの有名なシェイクスピアも名言を残している。


"私たちの存在は、夢と同じような儚いもの。この小さな人生は、眠りによってけりがつくものなのだから。"


つまり人間なんてちっぽけな存在で、人一人の力なんて高が知れているってことだ。

…ん?要約し過ぎたか?

取り敢えず俺が言いたかったのは…

暗闇はいくつになっても怖いってことだ!俺がビビりってことじゃないからな!


結局、なにが言いたかったのか分からない妄想をしていると、ようやく目的地の明かりが見えてきた。

住宅街にひっそりと佇んでいる喫茶店。外観は赤レンガで装飾され入口の上部には"珈琲"の文字、据え置きの看板が入口に置いてあり暗闇を明々と照らしていた。

看板には"喫茶店・雪月花"と書いてあり入口のドアには"open"の札が下がっていた。

店内から漂う珈琲の香りに俺のテンションが若干上がる。

だが、俺のテンションとは逆に雲英は表情を曇らせていた。

「まさか…これが喫茶店というものなのですか?」

雲英の顏は引き攣り、汚いものでも見ているかのようだ…この子は本当に喫茶店というものを知らなかったんだな。

それなら俺が喫茶店の極意を教えてやろうじゃないか!意気揚々と俺は答える。

「あぁ、これが喫茶店というものだ!まぁ喫茶店といってもピンからキリまであるからな、一概に喫茶店と、一言で表すのは難しいところなんだが…ちなみにこういう喫茶店はレトロな喫茶店と言ったところか。味があっていい雰囲気が漂っているだろ?」

「え……味…ですか?………私にはただの古ぼけた建物にしか見えませんが…塗装もボロボロですし、なぜ改築しないのか不思議ですわ」

塗装剥げの壁を手でなぞりながら雲英が疑問をぶつけてくる。だが勿論、俺にも言い分はある、皮肉交じりにレトロな喫茶店の説明を説いてあげた。

「はぁ~、これだか最近のお子様は。すぐ新しく物を追及したがるんだよな…この古惚けた感じがいいじゃないか!……いや、これは俺が悪いな。このレトロ感を理解するのに雲英にはまだ早かったんだ…俺の趣向を押し付けて悪かったよ」

皮肉チョモランマヤサイマシマシアブラカラメオオメの感じで注文を言ったつもりだったが…雲英の背後には黒いオーラが漂っていた…これはヤル気スイッチという名の"殺る気スイッチ"を押してしまったかもしれない…

「…言わせておけば、この私をお子様扱いしましたわね!?この無礼者!!そういうあなたこそ子供じゃありませんこと?なにがレトロよ、大人ぶった子供が言いそうなセリフですわ!どうせ古い建物=レトロなんて勘違いをしているのでしょう?あなたの言うレトロというものを私に説いてみなさい!?」

雲英は怒りに任せ、捲し立てるように俺への誹謗を雨のように振りかざす。

俺は大人なので紳士な対応を試みたが、ここまで言われては黙ってはおけない…すぐさま反論に出る。

「なんだと!?……いいだろう!そこまで言うならレトロマニアの神髄を見せてやろうじゃないか!!」

喫茶店の前で言い争う中年男性と少女。傍から見れば兄弟喧嘩のように見えるだろう。

だが、その喧嘩はあっけなく幕を閉じる。二人の間に野太くドスの効いた声が響いたからだ。

「うちの前で口喧嘩とはいい度胸だな。ご注文は鉄拳制裁かな?」

二人同時にゆっくりと店入口の方へ目を向ける。そこにはスキンヘッドにグラサンの巨漢が立っていた。

というか喫茶店"雪月花"のマスターだった。


「ひぃぃぃ!?すみません。鉄拳制裁は許してください。なんでもしますから!」

俺が必死に謝罪を繰り返していると雲英は俺の背後に隠れていた。いや、お前も同罪なんだから謝れよ…

「分かりゃあいいんだよ、…つーかお前だったのか。飽きもせずよくこんなボロ喫茶店に来るもんだ。どうせ、いつものやつだろ?」

呆れ顔のマスターが辛辣な言葉を言い放つと、俺の後ろへ視線を向ける。

「…ん~?そういえばツレがいるなんて珍しいな?しかも…こんな小さな女の子なんて………お前まさか!?」

マスターが驚きの表情を見せたと同時に変質者を見るような目で俺を睨みつける。

「違う!違う!マスター誤解だよ!これはそういうのじゃないから!!」

っと言ってもなかなか誤解は解けないよね、誤解は解けないから誤解と言いうのであって…って今はそんなことを考えている場合じゃない。

ここは雲英からマスターの誤解を解いてあげないと、説得力に欠けるだろう。時間の短縮にもなるし一石二鳥だ。

俺は雲英からマスターへ説明するように促し、雲英はその役を快く引き受けてくれた。…頼むから変な事を言わないでくれよ…

「先程はお店の前でお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。私の名前は東雲 雲英といいます。この方とは先程知り合ったばかりで、人探しを手伝って頂いている最中ですわ。決して怪しい関係ではありませんので安心して下さい」

雲英は今までの経緯を丁寧に説明してくれた。

でも、最後の怪しい関係ってなんだよ…こいつもこいつで解釈を間違ってるな。

「そ、そうなのか…嬢ちゃんがそう言うならいいけど…俺も取り乱して悪かったな。こいつの風貌じゃあ、いつか犯罪に手を染めると思っていたから、ヒヤヒヤしたぜ」

マスターの誤解も解け二人で安堵のため息を漏らす。

っていうかマスター、俺を犯罪者と思っていたのね…誤解が解けた代わりに俺のメンタルはボロボロだよ…


「それにしても、今時礼儀正しいお嬢ちゃんだな…それによく見ると結構なべっぴんさんじゃねーか!あと十年すればいい女になると思うぜ!この俺が保証する!…おっと俺の自己紹介がまだだったな、俺はこの喫茶店"雪月花"のマスターだ。本名は…秘密な」

マスターは自己紹介も含め雲英に対し態度・容姿共に褒め言葉を送った。さすが客商売をしているだけはある。息をするように自然と褒め言葉が出てきていた。

外見こそ厳ついがそのコミュ力のギャップに惹かれてマスターは女の子にはモテそうだもんな。俺もそのコミュ力が嫉妬するくらい欲しいです。

嫉妬の目をマスターへ送るが、そんな事など気にすることもなく雲英を口説いていた。

「まぁ立ち話もなんだ。こんなボロ喫茶店でよかったら足休めに寄って行くといい。お腹も空いてくる時間だろ、なんなら雲英ちゃんにはごちそうするよ。君の舌に合う味かは、分からんがね」

よほど雲英の事が気に入ったのか、夕食までご馳走してくれるようだ。ついでに俺の分もお願いしたいところだが、雲英の性格だと奉仕は受けないとか言い出しそうだ。さっきも店の外観をバカにしていたし…マスター可哀想。

二人のやり取りを横目で眺めていたが、雲英の出した答えは俺の予想と真逆のものだった。

「そんな…ボロ喫茶店だなんて。とてもレトロ感があって素敵な喫茶店ですわ。きっと長年営んできたのでしょう?その雰囲気が店全体から伝わってきますわ。長年営みを続けてこれたのにはマスターの性分も大きく影響しているでしょうし、料理の腕も逸品だと確信していますわ。お言葉に甘えて喜んでごちそうになります」

社交辞令のような定型文の言葉に俺の怒りが沸点に到達した。

「おい!!!!さっき言っていた事と…」

「ちぃっ!うるせぇぞ!近所迷惑だろうが!!」

俺の渾身のツッコミに被せるようにマスターからお叱りの言葉を頂いた…

マスターの声の方が大きいし、五月蠅いので近所迷惑だと思います。

「………すみません、マスター」

何も言えず再び謝罪を繰り返す。顔を上げるといつの間にか雲英はマスターの後ろに移動しており、

『ざまぁみろ』と言わんばかりに得意げな表情でこちらを見ていた。……クソ!このガキ…覚えてろよ!


「じゃあ、雲英ちゃんは奥にどうぞ、うちの名物スパゲティをご馳走するからね。オレンジジュースでも飲んでゆっくり待っててよ」

「親切にありがとうございます。マスターの御持て成しに感激ですわ。スパゲティ楽しみにしていますわね」

和気あいあいと会話をしながら店内に入っていく二人。

そして、無情にも入口のドアは閉じられ店の外には俺一人が取り残された。ドアが閉まる勢いでドアに下がっている札は"close"に切り替わり、俺の入店を拒んでいる様だった…


今日は厄日かと思う程、人にディスられてばかりな一日だ…なにか悪いことでもしたかな?いや逆だ、今も人助けをしている最中じゃないか。…となると、たまにいい事をするとダメってことなのか、今後はいい事をしないように気を付けよう。一日一悪。

あまりの惨めさに涙が出そうになり空を見上げる。相変わらず上弦の月が地上を照らし星々が煌めいていた。こんな何気ない平凡な夜空を眺めているだけで、心が洗われた気分にしてくれる。

今日が真っ暗な空だったら心が折れるところだった…

このまま月と星の光を辿って家まで帰るか。そんな妄想に逃げようとするが、意識が現実に戻される。


俺はまだ帰るわけにはいかない。俺の個人情報の出所、雲英が俺を訪ねてきた理由。それを聞かなければいけない。

雲英一人を野放しには出来ないし、情報漏洩は速やかに阻止しないと…これ以上の面倒事に巻き込まれるのはごめんだ…

いつもより重く感じる喫茶店のドアをゆっくりと開き、ドアにぶら下がる札を"open"に変える。

俺は空腹を知らせる腹の音と共に、店内に入っていった。

※8/25 推敲・校正済み。

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