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心機(仮題)  作者: 山葵
第二章 「心理と心」
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第二話 「記憶と忘却」 6

雲雀ケ丘市民病院。

この地域に住んでいる人なら一度は聞いたことのある病院。知名度と比例するような大規模施設で、県外から来た人からみれば、病院と認識できないだろう。それほど敷地内には様々な施設は併設している。例えるなら医療のショッピングモールみたいなもの。

最近では最も規模が大きい市民病院としてテレビでも取り上げられるほどの人気スポットになっている。

確かに、これほどの病院施設なんて他所では聞いたことはないし、下手したらこの敷地内だけで生活が完成したりする。人間って最低限の衣・食・住さえあればなんとか生活は出来るのだけど、ここの場合は最低限ってレベルじゃない、一般家庭よりは遥かにレベルは上だろう。

しかし、有名になるほど黒い噂が付いて回るのは必然。

病院嫌いの俺でも聞いたことのある噂が多数ある。病院の責任者は国の幹部で脱税し放題や、実は責任者なんて存在せずA・Iが病院を管理している。なんて根も葉もない噂が飛び交っていた。

その中でも一番有名なのがアンドロイドの研究と称した人体実験なのだが…

いかにも病院の都市伝説らしい、あるあるの内容なのが笑える。

確かにこの施設内にはアンドロイド研究施設が存在する。でも、それだけで人体実験を行っているとこじつけるのがまさに都市伝説くさい。それに病院とアンドロイド施設が併設しているのはここだけじゃなく、大学病院や国立病院なんかも併設されている。

その理由として、アンドロイド研究施設ってのは研究だけじゃなく、メンテナンスや修理・貸出しができるのだ。いわゆるアンドロイドの病院みたいなものだ。

しかし、併設までする必要はないと思う人もいるだろうが、これが併設してあるとなにかと便利なのだと。

その一つが介護・援助用アンドロイドの手配だ。

病院には様々な機器が存在し、その中には勿論アンドロイドも含まれている。

これ程の大きい病院なのだから入院患者は相応の数だ、それに様々な障害を抱えてる人も沢山いる。

しかし、入院患者の数に対し看護師・介護士の数は圧倒的に少ない。

その数を補えるように、ある程度の介護・援助を任せられるアンドロイドが導入されているのだ。アンドロイドの種類も豊富で、患者自ら指示・操縦できるアンドロイドなんかもある。

もしかしたら、この病院では働いている人の数より、アンドロイドの方が多いのかもしれない。

その為、アンドロイドがメンテ・修理が必要の場合すぐに対応できる施設が必要だった。

だから病院とアンドロイド研究施設は密接な関係にあると言っても間違いではない。特に大きな病院なんかは、アンドロイドの設置数が多いという理由で併設されている。


さて、まっとうな理由はこういう事なのだが…

噂とは面白いもので、火がない所には煙は立たない。アンドロイド研究施設が併設されているのはこの病院だけじゃないと言ったが、ここだけ人体実験の黒い噂が広まった。つまり、ここでなにかあったのが噂の原因なのだろう。

もちろん、噂程度なので確証する術はないし、証拠もない。信じるも信じないも貴方しだいだ…

俺は面白半分で信じてるけどね、もちろん病院は嫌いだから近づかないけど。


この病院の解説も終わったところで、ふと疑問が浮かんだ。

雲英はここのドクターに世話になったことがあると言っていた、しかも優秀なドクターだそうだが誰に紹介してもらったのだろう?気になった事は聞かずにいられない!

「雲英、ここには優秀なドクターがいるって言ってたけど、誰なんだ?」

「それは…優秀なのは確かなのですが、あまり名は知れ渡っていない人なので知っているかどうか…」

ん?なぜ言い淀む必要があるんだ?それに、優秀な人材なのに名は知れ渡っていないっていうのもおかしな話だ。俺は小首を傾げていると雲英は躊躇しながらその先を話し始めた。

「私がお世話になったと言うより、正確には八雲がお世話になっていましたの。つまり、ドクターと言ってもアンドロイド専門のドクターですわ」

「そういうことか、それなら一般の医師より知名度が低いのは納得できるな。でも、優秀ならそれなりにアンドロイド業界で名を馳せているのだろ?今後八雲の研究にでも役に立つかもしれないから教えてくれ」

「え…そうですか?……そこまでおっしゃるのなら……」

やはり名前を教えるのを躊躇しているようだ。表情を見ても感じ取れるのだから、よっぽど教えたくないらしい。暫しの沈黙が流れ、小さな溜息が聞こえた。雲英は意を決したように口を開く。

日月たちもり ゆず先生です…」

「…………」

マジかよ…あの変態技術者がこの病院にいるのか…雲英が言い淀む気持ちが痛いほど分かった。


日月 柚ドクター、いや正確には日月博士と言った方が合っている。

幼少のころから神童と呼ばれ、根っからの天才気質。毎年さまざまな賞を獲得し、一時期世間を騒がせたのも記憶に新しい。

しかし、彼女が大学に入学を決めたところで世間から姿を消した。あれほど世間騒がせたのにもかかわらず、一切ニュースで取り上げられなくなったのだ。

しかし、これは子供の頃から神童だと祭り上げられた人によくある事で、大人になるにつれただの人になり下がっただけなのだ。子供の頃は周りより秀才だったかもしれないが、それは優秀というより早熟という言葉が適切だ。神童と比べて学習に時間を要する人もいるが、同じレベルに達する人なんて大人になれば溢れる程いるのだ。

つまり、神童と呼ばれていた人は子供の頃から持てはやされてしまったが為に、努力することを蔑ろにし自ら落ちていった人が多いのだ。

だが、日月は違った。

彼女が大学入学から約10年程たったある日、日月はアンドロイド科学研究所を立ち上げた。それはこの国初となる研究所でニュースにも大きく取り上げられるほどの衝撃的な出来事だった。

しかも、立ち上げたのが神童と呼ばれていたあの日月だったことが更に滑車をかけ、この国のみならず全世界にまで衝撃の余波が広がった。

それからはアンドロイド研究の権威と呼ばれるまで出世し、アンドロイドに関する事が取り上げられるたびに名前が上がるほどだ。

昔は神童と呼ばれ今ではアンドロイド研究の権威か…本物の天才ってのはこういう人物の事を指すのだと改めて実感した。


さて、アンドロイド研究の権威がなぜ変態技術者と呼ばれているのか…それを説明しなければいけないな。

正直説明するより実際に会って確かめた方が早い。百聞は一見に如かず。

君は彼女に合った次の瞬間にこう言うだろう…

"変態だぁぁあ!!"ってね。


雲英は日月博士の名前を口にしてから明らかに嫌悪な表情を浮かべていた。

あの雲英が嫌がるほどって…相当変な事を受けたに違いない。いや、雲英に限らずだいたいあの日月に関わった人は同じ反応をするのだ。もちろん、その中に俺も含まれているぞ。

まぁここで日月の話をしていても先に進まない。

極論、出会わなければいいだけの話だ、日月の事は一旦忘れよう。

「雲英、日月の事は一旦置いといて先に進むぞ」

「え?あ…はい。では……」

我に返った雲英は踵を返し歩みを進めた。俺も雲英に続いて歩き始めたが、数歩歩いてから後ろに違和感を感じる。さっきまで聞こえていた機械音が聞こえない、八雲の足音が消えていた。

違和感の正体を確かめるため後ろを振り向くと、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

八雲の後方からすらっと細長い手が伸び、八雲のお淑やかな胸を揉みしだいていた。八雲は無表情ではあるが小刻みに震えており、羞恥心が今にも爆発しそうな状態だ。

こんな事を平気でやれるのは彼女に違いない。俺は頭を抱えながら彼女を名を呼ぶ。

「日月、いい加減にしろ。いくらアンドロイドが機械だからって変態行為は許されないんだぞ!」

「ほえ?よく私だって分かりましたね?それにその声には聞き覚えがあります。君は懐かしい声音をしていますね」

彼女の意識は俺に向いたが手の動きは止みそうにない、八雲の胸を堪能するように隅々まで撫でまわしていた。

「俺の事はいいから、早くその手を離さないと酷い目に合うぞ?命の保証はしないからな…」

「ははは!この私に脅しですか?アンドロイド研究の権威と呼ばれ、アンドロイドの事ならなんでも知っている私に脅し?いや~傑作ですね。貴方は面白い方だ。是非名前を教えて下さいな」

止むどころか更に手の動きが激しくなる。こいつ本当に人を逆撫ですることに置いては秀才だよな…

既に忠告はしたんだ、どうなっても俺は知らないからな。

俺が諦めた瞬間、八雲の羞恥心が爆発した。

「変態ダァァァアアアアア!!!!」

その怒声は耳鳴りがなる程の声量で吐き出され、反射的に耳を塞ぐ。俺の距離でも凄い音量だったんだ、日月はひとたまりもなかっただろう。

流石に日月の手が止まり、その隙をついて八雲はがっしりと日月の右腕を掴んだ。そのまま態勢を低くし日月を背中に乗せたまま右腕を引き抜く。まさしく一本背負いの態勢だ。

綺麗に宙を舞った日月は背中から無事地面に着地した。その着地音は地鳴りが起きたような錯覚を感じたが…これ死んだんじゃね?


ようやく耳鳴りが治まり、ゆっくりと日月に近寄る。

顏を覗き見ると綺麗な死に顔が確認できた、その表情はなんとも幸せそうな顔をしており、この世に未練なんてないような顔つきだった。


綺麗な顔してるだろ?嘘みたいだろ?これ、死んでるんだぜ。


…ってのは冗談でまだ息があった。流石はアンドロイド研究の権威これぐらいじゃ死なないか、ゴキブリ並みの生命力だな…

俺は日月の上体を起こし、声を掛ける。

「だから言っただろ、人の忠告は素直に聞いておくもんだぞ」

「そのセリフ…何処かで聞いた事があるような…ははは、アンドロイドに殺されるならそれも本望だよ…」

「そうか、んじゃ安心して死んでこい…っと言いたいところだが、ここで死なれると面倒だ。いい加減生きろ!」

思いっきり背中を平手打ちすると、日月はその衝撃で立ち上がった。相変わらず面白い体してんなぁ。

「痛いじゃないか!女性には優しくしろって学校で習わなかったのかい!?これは暴力に値するよ!訴えてやる!」

「はいはい、それはいいから…まず謝罪をした方が身のためだと思うぞ?ほれ、後ろ見てみろ」

日月の背後には、異様なオーラを纏い仁王立ちで御座る八雲がいた。

「あははは…こりゃ本当に生命の危機を感じるよ…」

「砂月様、殺シテモ構ワナイデスヨネ?」

別に俺の許可なんてなくても殺しそうだけどな、止めたとしても半殺し位は確定かな…何かを得るためには代償が必要だ。今回は八雲の胸を揉みしだいた代償が半殺しで済むなら安いものじゃないか?…俺には関係ないけど。

特に止めるつもりもなかったので二人の様子を傍観者気取りで眺める、ジリジリと日月との距離を詰める八雲はまさしく獲物を狩る肉食動物だった。その時、八雲に待ったの声が掛かる。

「八雲、止めなさい。貴方もお世話になっている先生を殺すつもりなの?少しは冷静になって状況の把握に努めなさい」

雲英の一言で八雲から発していた禍々しいオーラが消え失せ、いつも通りの八雲に戻る。

どうやら半殺しも免れたようだな、全く雲英様様だぜ。こいつにはもう少し灸を据えてやらんと反省しなさそうだが、今はそれどころではないので放って置く。

雲英は身なりを正すと改めて日月と挨拶を交わす。

「日月先生ご無沙汰しております。お怪我はありませんか?先程の八雲のご無礼をお許し下さい」

「いいの、いいの!さっきのは私も欲望が抑えられなかったのが悪いんだし。最近は徹夜ばかりで色々と溜まっていたもんでねぇ。それで、今日は珍しい御仁もいるみたいだけど~?どしたの?」

ニヤニヤとした表情で日月は俺の方へ視線を向ける。俺はこいつのペースに付き合わされたくなかったので自然と視線を逸らした。

雲英はその様子を見て感じ取ったのか、代わりに俺の紹介をしてくれた。

「では、御紹介しますね。彼は砂月 悠。元・心理学者の方ですわ。今は色々とお世話になっていて今日も私の我儘に付き合って下さっていますの」

「どうも。って別に初対面じゃないけどな…お前の事だ、既に忘れたか記憶にないだけだろ?」

「そうかい?確かに他人の名前と顔を覚えるのは苦手だが、君みたいな面白い人を忘れる私じゃないけどな~?まぁ過去なんてどうでもいいか!取り敢えず宜しく~!」

なんともいえない空気の中、俺たちの簡単な挨拶は終わった。日月は続けるように再度同じ質問を繰り返す。

「それで?今日は私に用事って訳じゃないみたいだけど。こんな辺鄙なところ用事がない限り誰も来たがらないからね、今日はどしたの?」

「えっと、今朝がた救急で運ばれてきた方のお見舞いに来たのですが…今、救急外来に向かっているところですわ」

すると日月は小首を傾げ不思議そうに答えた。

「なるほどね~でも救急外来は反対方向だけど…こっちはアンドロイド研究施設しかないよ」

「「え?」」

三人同時に出た声がその一言だった。

ナビ通りに進んでいた俺達だったが、まさか反対方向へ進んでいたとは…やはり雲英も方向音痴だったか…別に責めるつもりはないが自然と雲英に視線が向いてしまう。

雲英は下を向いたまま肩を震わせていた。うん…まぁ元気出して……人間失敗する事なんて多々あるもんだよ。

その状況を見て日月は察したらしく、一つ提案をしてきた。

「雲英ちゃんに免じてここは私が案内してあげよう。皆の諸君!付いてきたまえ!」

こちらの様子など気にすることなく颯爽と俺達の前を歩き出した日月。あいつの先導されるのは不本意だが、日月の方がこの病院に詳しいのは事実。仕方なく俺達は日月に付いて行くのだった。

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