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心機(仮題)  作者: 山葵
第二章 「心理と心」
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第一話 「新たな依頼」 8

「私ヲ頼レバ、イイノデス!」

「…………はぁ?」

八雲は胸に手を当て自信満々答える。俺の口から出た言葉はなんとも得心を得ない疑問符だった。

一体何を言っているんだこいつは?私を頼れだって?八雲のどこら辺に頼ればいいんだよ…頼れるところの方が少ない気がするんだが。

俺が困惑していると、八雲はようやく的外れな答えだったと自覚したようで慌てふためく。

「エッ、私ッテソンナニ頼リナイデスカ?コレデモ、アンドロイドナノデ、力仕事ナラアル程度ハ、出来マスシ、記録ヤ情報ノ整理ナラ、私ノデータベースヲ利用スレバ、必要ナ情報ハ、イクラデモ出テキマス。コウ見エテ便利ナ機能ガ沢山アルンデスヨ」

急に自分をアピールしだしたのはいいが、その長所はどのアンドロイドにも備わっているので残念ながら八雲だけの長所とは言いづらい。饒舌にアピールする姿は、さっきの俺とそっくりだっただろう…

「さっきと立場が逆転してるぞ…八雲もなにか悩みでもあるんじゃないか?」

「エッ…悩ミ…デスカ?アリマスガ、今ハ砂月様ノ悩ミガ最優先事項デス」

そうですか、アンドロイドでも悩みはあるんですね…八雲の場合は特別なアンドロイドだから仕方ないね。

ぜひ彼女にもこの甘くてクリーミィで、素晴らしいキャンディをあげようじゃないか。なぜなら、俺と一緒で彼女もまた特別な存在なのだから…

妄想の中でおじいちゃんの気分に浸っていると八雲の話はまだ終わっていなかったらしく、話を続けていた。

「ダイタイ、雲英モ砂月様モ…氷華様ダッテ、イツモ自分ノ力ダケデ、問題ヲ解決シヨウトシテイマス。ナゼ身近ナ人ニ頼ラナイノデショウ?砂月様ハ雲英ヲ止メラレルカ、不安ダト言ッテイマシタガ、独リデ止メヨウトスルカラ、不安ナンデスヨ」

「うっ…確かに…」

無意識に手を胸に当ててしまう、このアンドロイド案外痛い所を突いてくる。

確かに、三人とも相談するような人柄じゃない…相談と言うより人に頼りたがらないってのが正解か?

他の二人が人に頼らない理由は知らないが、俺の場合は今まで周りに人がいなかったから自分の力で乗り切るしかなかった。今までそのスタイルを貫いてきたので根っこまで染み付いてしまっている。

それを今更変えられるのか?それはぼっちの俺にとって些か酷な様に感じてしまう。

ぼっちってのは、いかに周りに迷惑を掛けず、存在を完全に消すわけでもなく、"そういえば、そんな奴いたな!"ってリア充の集団に思い出として残せる位がベストなのだ。そして、久しぶりの再会で"おう!久しぶり、えっと…佐々木君!"って名前をさらりと間違えられるまでがテンプレ…誰だよ佐々木君って、そんな大魔神みたいな名前じゃねーよ!って心の中でツッコミを入れる寛容さがあれば満点だ!

つまり、ぼっちは人に頼らず、かつ自力で問題を解決するマイスターである。

…あれ?これってぼっち最強説が浮上した感があるな。そうか…俺が人類において最強だったか…

みんなには悪いが、俺は先を行く人類…いや、人間を超越する!おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーッ!


悪ノリはここまで…実際、八雲言い分は間違っていない。自分で解決できない問題は身近な人に頼るとか、相談すればおのずと解決の糸口が見つかる。見つからなくても時間が解決してくれる場合もある。

今回は時間が解決してくれそうにないが、俺の性分を曲げる気にもなれない。

じゃあ誰に頼ればいい?このボッチマイスターには頼れる人物なんていないぞ…

雲英からの依頼なので雲英を頼る訳にはいかず、氷華は初めから手伝う気はないだろう…

そろそろお友達ってのを売ってくれるお店が出てきてもいい頃合いだと思うのだが、世間はそう簡単に売ってはくれないようだ。

俺は首を傾げ唸っていると、八雲は俺の様子を伺うようにポツリポツリと言葉を紡いだ。

「独リガ不安ナラ…私ヲ……頼ッテ下サイ……コレデモ、アンドロイド…ナンデスカラ…」

今にも泣きそうな声音が俺の耳に響く。八雲は視線を落とし静かにテーブルを見つめていた。


外見はアンドロイドなのに、中身は小学生のような童心をもっている。

無表情だが、仕草や声音で感情を表すことができる。

アンドロイドとも人間とも言えない不安定な存在。

それが今の八雲だ。そのアンドロイドが役割を求めている。

本来なら人間から頼りにされたり、仕事を任せられるアンドロイドだが、今の八雲は人のお世話になっている…いや、お世話どころか足を引っ張っているのだ。

八雲に心が宿っていたとしても、アンドロイドのシステム自体は消失はしていない。システムが生きているのに、なぜアンドロイドとしての性能を発揮できないのかは不明だが、それでも八雲は人に頼られたいのだ。

それが、アンドロイドのシステムとしての欲求なのか、それとも感情から出た言葉なのかは分からない。

だが一つだけ分かる事がある。それは、この現状に甘えてはいけない。という向上心だ。

俺自身、八雲を甘えさせている自覚はないのだが、八雲は今の現状を甘えていると判断しているらしい。

確かに、ここ一ヶ月を振り返ると居候のような生活を送っている。家事は任せられないし、買い物も人目が付くのでなるべく避けてきた。俺が養っているようなものだった。

初めは仕方がないと思っていたが、俺も八雲もこの生活に慣れ始めていた。だが、八雲は気付いてしまったのだろう、私には役割がない事に。

気付いてしまったら最後、罪悪感で押しつぶされそうになる。何もできない、不甲斐ない自分に苛立ち、憤りを覚えてしまう。

…なるほど。それで、氷華に家事の教えを乞いたのか…通りで今日の荒れ方は一段と激しかった訳だ。

家事を少しでも憶えて、俺の役に立ちたかった。それが八雲なりに考えた結論だったのだ。

まるで小学生だな…こんな無機質な小学生見たことないけどね。

それなら、八雲にぴったりの役割を与えよう。そう、俺が今望んでいる存在だ。

不敵な笑みを浮かべ、俺は八雲の問いに答えた。

「八雲、そんなに役割が欲しいならとっておきのポジションを与えてやるよ」

「…エ?トッテオキノ、ポジション?…ソレッテナンデスカ!?」

先程まで沈んでいた顔が、勢いよく浮上し俺を見つめる。無表情だが瞳の奥には嬉々とした感情が見える。

俺は右手を差し出すと、穏やかな口調で八雲にお願いをした。

「俺と友達になって下さい」


再び静寂が訪れる自室。僅かな機械音だけが定期的に一定のリズムを刻んでいた。

差し出された俺の右手は握り返されることなく、未だ独りで空気と握手している。

八雲は俺の言葉に無反応で、ただ俺と見つめ合っていた。やだ、そんなに見つめられると妊娠しちゃいます~!

思わず視線を外し、差し出されていた手で頭をガシガシ掻いてみる。あんまり女の子と視線を合わせる事に慣れてないから恥ずかしいんだよ…まぁ女の子じゃなくても人と視線が合うのは無性に気恥ずかしい。視線を逸らさずに会話ができる人って尊敬するわ、営業の人とか本当凄い!絶対視線を逸らさないもんね!その視線は獲物を狙う肉食獣のようだけど…怖っ!

俺の照れ隠しが終わった頃、ようやく八雲が動き出した。

「スミマセン、砂月様ノ言葉ヲ理解スルノニ時間ガ掛カリマシタ。アマリニ高度ナ、ボケニ、ツッコミヲ入レルノヲ、忘レテイマシタ…デハ、改メテ…ナンデヤネン!!」

八雲は右手の甲を俺に向け典型的なツッコミを入れる。しかし、無表情な上、今更感がハンパない…ツッコミのクセが凄い!

「いや、ボケとかじゃないから…しかもなんで関西弁なんだよ、お前関西で製造されたの?出身は大阪で、なにわのアンドロイドだったのかよ!」

「ハハハっ…チョット何言ッテルカ、分カラナイデスネ」

「なんで分かんないんだよ!」

今度は俺がツッコミを入れてしまった…

「いや、そうじゃなくて俺は漫才の相棒を探しているんじゃないんだよ、友達が欲しいの!」

「アァ~ソウナンデスネ、デハ此方ガ、オプションニナリマス。マズ、サイズヲ選ンデ頂キマスネ。小サイ方カラ、S・M・A・L・Lニナリマスガ、ドレニ致シマショウ?」

「いや、それSmallじゃねーか!小さいサイズしか選べないし、それに友達のサイズってなに?老若男女選べるのかよ、俺そこまでストライクゾーン広くないからね?」

「……ソノ話、モウ少シ詳シク聞カセテモラッテモ、イイデスカ?」

「そこは軽く流せよ!いいよこの話は!」

「デハ、今カラ友達ヲ探シテキマスネ!ダイタイ5年程掛カリマスガ、ヨロシイデスカ?因ミニ料金ハ先払イデ御願イシマス」

「掛かり過ぎだろ!いい加減にしろ!どうも、ありがとうございました!」

綺麗に締まったところで二人でお辞儀をする。

違う、そうじゃない…俺は漫才をしたい訳じゃないんだよ…


「あの…八雲さん?真面目に聞いてくれないかな?」

漫才も無事に終わり俺は改めて八雲に問う。

「スミマセン、ツイ癖デ、ヤッテシマイマシタ」

だからそのクセ凄すぎるだろ!なんでいきなり漫才が始まるんだよ、そんなクセがあってたまるか!

またツッコミそうになるのを、グッと堪え言い止まった。

「…それで、返答はどうなんだ?友達になってくれるか?」

「友達…私ガ友達デイインデスカ?ダッテ、アンドロイドデスヨ?家事デキマセンヨ?部屋ヲ汚シマスヨ?」

八雲は自信なさげに視線を落とし俺に問いかける。最後のフレーズが気になったが俺は八雲を励ますように力強く答えた。

「部屋は汚さないで欲しいが…友達にそこまで求めないよ。アンドロイドだろうが、家事が下手くそだろうが友達になれない理由はではない。ただ相談や愚痴に付き合ってくれ、そして必要な時がきたら力を貸して欲しい。勿論俺も力を貸す。そんな関係を俺は望んでいる」

俺の言葉に八雲は視線を上げ、自然と俺と目が合う。八雲の表情が変わることはなかったが、その瞳の奥には安心を得たかのような穏やかさが見えた。そして小さく笑いゆっくりとした口調で答える。

「フフッ…相変ワラズ砂月様ハ、オカシナ人デスネ。分カリマシタ。快ク承諾シマス」

「それはお互いさまだろ?じゃあ宜しくな八雲」

こうして俺にとって初めての友達ができたのだった。これでボッチと呼ばせないぞ!

…え?アンドロイドは友達に含まれない?それはオヤツにバナナが含まれないと、どう違うのかな?

果物とお菓子の違い?人間とアンドロイドの違い?

…ちょっと何言っているか分からないですね…

自分に不利益な事は先延ばしにし、俺は初めて友達が出来た優越感に浸るのだった。


時刻は既にてっぺんを越え、更に夜が更けていく。

八雲と一つ屋根の下で過ごすようになり、俺の生活リズムも徐々に戻りつつある。朝早くから起こされるのだから夜になると自然と眠くなってしまう。

だが、今日はどうにも寝心地が悪い。昼間の出来事のせいなのか、もしくはこの寝苦しい熱帯夜のせいだろうか…体は疲れて眠いのに頭は覚醒している。いわゆる金縛りの一歩手前だ。

八雲はアンドロイド専用ポッドに入り、既にスリープモードに入っている。こういう時にすんなり眠りに入れるアンドロイドは素直に羨ましい。

布団から体を起こし八雲の方に歩み寄る、ポッドに手を当てるとひんやりと無機質な感触が手に伝わり、温まっている俺の体温を静めてくれた。

ポッド越しに見る八雲は、目を瞑りひっそりと佇んでいる。まるで西洋人形のように美しく、アンドロイドと思えない程気品に溢れている。しかし、同時に儚いと思った。

アンドロイドとも人間とも言えない存在。その不確かな位置にいる八雲。

不安定な存在ほど脆く、壊れやすい。それは八雲も例外ではない、ちょっとした衝撃で予想もつかない結果を生んでしまう可能性だってある。

だが、儚い存在だからといって希望を捨てるには早い。ちゃんと導いてあげれば予想以上の結果を出す事だってあるのだ。

アンドロイドと人間。両方なれる可能性だってある、もしかしたら新たな種族として認められるかもしれない…その為に俺は…八雲の為に出来る事はあるのだろうか…

手を伸ばし八雲の頬に触れようとしたが、ポッドに邪魔をされる。仕方なくポッド越しに頬を撫でてみたが、特に反応はなく俺の手には無機質な感触だけが残っていた。


そういえば先程の会話で八雲は悩みがあるっと言っていたが、どんな悩みだったのだろう?俺の悩みばかり優先されて聞きそびれてしまった。

今度、研究の合間に聞いてみるか…学者・研究者としてではなく、八雲の友達として…

ひっそりと青白く光るポッドを眺めていると、徐々に心が落ち着き始め睡魔を誘う。

このまま眠りについても良かったのだが、もう少し八雲を眺めていたい気もある。

だが、睡魔に勝てる訳もなく、意識を失うように夢の中へと引きずり込まれていった。

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