第一話 「出会い」 2
夜道をダラダラと散歩気分で歩いていると目当てのコンビニが見えてきた。
この辺りは住宅街なので周りには一戸建ての住宅や、マンション・アパートが立ち並んでいる。お蔭でそこまで暗くはなく、コンビニからも照明が明々と照らされ遠くからでも視認できた。
最近は防犯対策で街頭の数を増やす等、様々な防犯対策が施策されているが、この辺りはまだ街頭の数は少ない。まぁ住宅街ということもあってか比較的に明るいし、その施策は不要だと思うのだが…
それに、あまり明るいと俺が不審者と間違われて通報されるかもしれないし…街頭を増やすのは反対だ!
あまり明るすぎると睡眠に影響が出ると聞いたことがある…明るいところで寝ると体が熟睡できないらしい。だから皆はちゃんと電気を消して寝るんだぞ。電気代、節約、大事!
そうなると街頭の明かりが邪魔でこの辺の住民が睡眠不足になるのは大変だ!この反対案を提示して街頭の数は減らしてもらおう。そうしよう!
くだらない反対案を考えている間にコンビニの前に到着。自動ドアが開くと同時に無機質な挨拶が飛んできた。
「イラッシャイマセ。」
レジカウンターには定員の姿を模倣したアンドロイドロボがこちらを向いてお辞儀をしている。
いつもの見慣れた光景に軽く会釈をし乾麺のコーナーへ向かった。
今の時代、ロボットもしくはアンドロイドなんてどこにでもいる。
なんの不思議でもないし驚く事でもない。逆に言えば今やアンドロイドがいない生活の方が考えられない位に人間はアンドロイドに依存している。
昔は携帯電話がないと震えが止まらいとか、不安になってしまう"携帯依存症"なんて現代病があったというが、今の時代にはアンドロイド依存症なんて病気がある程だ。
アンドロイドが普及し始めた最初期の頃は、金持ちの道楽や、物珍しさに買う人達くらいで一般人には見向きもされず低迷状態だったのだが、徐々に姿・形が人間に近づくにつれて世間の見解が徐々に変わっていった。それに伴いAIの効率化と作業効率・コストパフォーマンスに優れていることが証明され始めると、その人気は飛躍的に上昇し、普及のスピードもまるでウイルスが感染するように拡大していったのだ。
そして今となっては人間にとって代わるように仕事の場すら奪いつつあるアンドロイド達…
そりゃ経営者は人件費の安いアンドロイドを使うに決まっている。今では日本の就職者40%程はアンドロイドが働いているとの統計が出ているが、本当かどうかは怪しいところである。まぁ実際に失業者が増加しているのでアンドロイドの影響は計り知れないな。
そんな感じで今の時代ではアンドロイドが溢れかえっていると言っても間違いではないだろう。でも人間が少なくなった訳ではないので人間も溢れかえっているのだが…
ただ一つだけロボットに搭載されない機能がある。それは"感情"いわゆる『心』ってやつだ。これにはいくつか理由があるのだが、公には"作業効率の低下を防ぐ為"と公表されている。ほかの理由は悪用される可能性を考慮して公表されていない。…まぁ大体は検討がつくけどな、俺の憶測からするに…
「コチラハ、温メマスカ?」
俺の脳内に直接喋りかけてきた!!?
…ってのは思い違いで、レジの前でカップ麺の支払いを済んだ後にアンドロイドが尋ねてきただけだった。だが、俺が購入したのはカップ麺であって、温める必要はない。俺は丁重にお断りをする。
「いや、これはラーメンなんで温めは結構です」
「分カリマシタ。コチラハ30秒程、カカリマスノデ、シバラク御待チ下サイ」
断ったはずなのに店員アンドロイドは電子レンジにカップ麺を投入…そのまま電子レンジが稼働を始めた…
あれ?俺は今断ったはずなんだけど…このアンドロイドなにしてくれちゃってんの?
「御待タセシマシタ。御箸ヲ入レテオキマスネ」
30秒が経ち、店員アンドロイドが俺にレジ袋を渡してきた。その中には蓋が開いていないのにカップ麺から湯気が出ている不思議な物体があった…これ食べれんの?
俺はコンビニの責任者にクレームを言う度胸はなく、渋々不思議な物体を受け取る。
「アリガトウゴザイマシタ。マタノオ越シヲ、御待チシテオリマス」
「……どうも、お疲れさん」
精神的に疲れたのは俺なんだけど…別に店員アンドロイドを労うつもりもないが、習慣的に"お疲れさま"の言葉が出てきた。
その前に、もしこのカップ麺が食べれなかったらお前を分解して、食べ物の恨みは恐ろしいとAIに刷り込んでやるからな…憎々しい視線をアンドロイドに向けたが、一向に気にしていない様子だったので諦めて出口に向かう。まずアンドロイドに食べ物なんて概念がないから意味はないんだが…あるとしても電気もしくはエネルギーなのだろう。
自動ドアを越えると、来るときよりも帰り道の方が足取りが重く感じた。今日が始まってまだ4時間程しか経っていないのに、既に最悪な一日を過ごしている気分だ。
空を見上げるといつの間にか月がほっこりと顏を出していた。上弦の月が頭上に浮び、星々もまばらに煌めきをはなつ。それだけで少しは気分が晴れた気がした。
さっきのコンビニで買い忘れていた缶コーヒーを自販機で買い一人トボトボと帰路に着く。この時期でも熱い缶コーヒーは体に染み渡る、カフェインも同時に摂取出来ていい感じに頭が冴えてきた。
来た時と同じように帰路をゆっくりと時間を掛けて散歩がてら歩いていると、俺のアパート"雲峰壮"の前にうずくまっている少女が目に入ってきた。
ちょうど街頭で照らせれるように蹲っていたので、少女である事がすぐに判明したが顔は見えない。セミロングの金髪は肩下まであり見慣れない制服姿である…いや、あの制服はどこかで見た気がするが思い出せない。少女の容姿を観察しているとすすり泣く声が聞こえてきた。
このまま進むと鉢合わせしてしまう為、俺は足を止め暫し思案する。
これって口裂け女とか都市伝説の類じゃないよね?俺の知っている都市伝説にこんな少女は出てこないが、俺の知らない都市伝説が世間に広がっているのだろうか…いや、まず都市伝説ってのは本人が伝説を認知していないと現象は起こらない訳で…俺が知らない都市伝説を体験するのは不可能ってことになるよな…となると地縛霊とか幽霊の類なんだろうか?でもこの辺で幽霊の話なんて聞いたことない。
墓地とか廃墟なんてものは周囲にないようだし…しかし、世間では噂になっていて俺だけが知らないってこともあるよな。そうなると幽霊って線が一番近い気がする。
まぁ俺って霊感ゼロなんだけど。
結局、納得がいく解答を得ないまま歩を進める。幽霊だったときはその時でいいだろ、楽観的にいこうぜ!…しかし足はガクガクと震えてなかなか足が前に出ない。正直ものすごく怖いです…
じわじわと少女との距離が迫ると同時にすすり泣く声も大きくなる。
こんな緊張感を感じるのは久しぶりで背中にじんわりと冷や汗がつたう、なんなら自室まで走った方がいいのだろうか?いや、追いかけられるのは嫌だし走りにも自信がない、このまま気配を消して静かに通り抜けよう。
そう決意をした瞬間だった…
「「うっさいんじゃクソガキ!!泣くなら他所で泣けやボケィ!!!!」」
アパートの向かいに住んでいる住人が窓を開け叫び散らかした。いかにもヤクザみたな風貌も相まって、その迫力は鬼のようにだった。その声に反応し少女はすすり泣く声から、サイレンのような泣き声に変わりここ一帯に響き渡る。
俺はというとヤクザみたいな人の叫び声で腰を抜かしていた…あと若干ちびった。
「「うわわわわああああああああんんんん!!!!!!!!」」
泣き声は徐々に勢いを増し、腹の底まで響いてくるような錯覚を感じる。
あんな小さい少女がここまでの声量を出せることに驚きつつ、汚れを叩きながらようやく立ち上がり呼吸を整える。ヤクザの人はこの泣き声に驚いたか、または諦めたのか、窓を閉めだんまりを決め込んでいた。
呼吸が整いようやく思考が正常に戻ってくる。幽霊ではないと分かった時点で俺の心にも余裕が生まれてきた、このまま無視して自室まで逃げ込むってのもいい案なのだが、アパートの前で泣き叫ばれたままでは夢見が悪いし俺の生活リズムにも支障をきたす。
そう考えるとまずは泣き止んでもらうことが先決だな、その後は警察にでも任せておけばいいだろう。
しかし、子供のあやし方なんて正直経験もないし今までの人生で考えたこともなかった…まず、なぜ泣いているのか、原因を突き止めなければいけない。
お腹が空いているなら何か食べ物をあげればいいが、今の持ち合わせはカップ麺だった謎の物体Xしかなく缶コーヒーは飲み干してしまった。
いや、待てよ?まず話しかける時点で結構まずいんじゃないか?
俺が話しかけている途中で運悪く通報されてしまったら俺は不審者扱いでそのまま逮捕され、免罪なんてものは通らずブタ箱行きが決定するだろう。これは意外と難問だな。
「「うううわわわわわわわわわわわわあああああああああああああんんんんん!!!!!」」
俺の思索を邪魔するように泣き声はさらに大きくなっていく。
……仕方ない、こうなったら一か八か、今まで俺が培ってきた心理論を試すしかない!
そう意気込んで少女の所まで足早に駆け寄る。
少女との距離を急激に詰め寄り、あと数メートルの所で俺は勢いよく倒れこむ。少し膝を擦りむいて痛みを伴ったがここは我慢。少女をうつろな目で見つめ俺は一言だけ伝えた。
「………………み………水…………水を……下……さ…い…。」
そこで俺の意識は途絶え気付いた時は見知らぬ天井があった。
……そんな事はなく地面に顔を擦り付けて死んだふりをしている。膝だけじゃなく肘・手にも激痛が走り顔を歪ませたが、ここで少女に気付かれる訳にはいかない。歯を食いしばりなんとか堪える…
予想通り少女の足元へ倒れこむことが出来た、顏を横に向け薄目で少女の顔を確認する。
しかし、街頭の明かりが逆光で顏がよく見えない。泣き止んではくれたようだが少し残念な気持ちになった。
少女が泣き止んでくれたおかげで、無事この一帯は閑静な住宅街を取り戻す事が出来たようだ。
「あ……あの………大丈夫……ですか?」
可愛らしい声で俺を介抱してくれる少女。しかし俺は意識を失っている設定だからなにも返さない。
反応がない俺をどうしたものかと辺りを見回す少女。しかし、周りには人影はなく野良猫一匹すら見えない。少女は困り果てたすえに、俺の脇を抱え引き摺るように移動を始めた。何処かへ連れていくつもりみたいだ。
所々を擦れているから若干の痛みが定期的訪れる、あと中年男性が少女に引き摺られるというシチュレーションは俺の心を痛めつけていた…そこで俺はふと気付く。
これって俺が拉致られてるけど大丈夫なのか?今の子供は大胆なんだね。取り敢えずは落ち着くまで少女に任せ気を失ったふりをしておこう。
楽観的な考えでその場から現実逃避をする俺の悪い癖だ。
これが、俺と少女の出会い。
この物語の始まりとも言える出会いだった。
※8/21 推敲・校正済み。




