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心機(仮題)  作者: 山葵
第一章 「アンドロイドと心」
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第一話 「出会い」 1

パソコンの明かりだけがほのかに室内を照らす、その室内にキーボードを弾く音だけが響き渡る。

あれからどれくらい時間が経ったのだろう…ふと時計に目を向けると午後6時48分、外を眺めてみると既に陽は傾き、だいぶ過ごしやすい気温になっていた。

ようやく俺の活動時間になってきた訳だ。キーボードを弾く音に混ざり腹の音が鳴る。

「そういえば今日はなにも食べていなかったな…」

食べ物を探しに台所へ向かい冷蔵庫を開ける。しかし、その行動は無意味で俺は結果を知っていた。

「そうだよね…寝て起きたら食べ物が入っているわけなよね……はぁ~~…」

渋々買い物に行く準備を始める。まぁ毎日の事なので特に気負いはしていない。

適当な上着を羽織り、その辺に転がっていたジーンズを履く。だが、靴だけは厳選するほど拘りがある。

お気に入りの靴は、ビンテージで一点物の革靴だ。

おしゃれは足元からって言うだろ?まぁ足元で終わってるんですが…でも靴に拘りがあるのは本当だ。外に出る機会は少ないが、よくこの革靴を履いては買い物や散歩に出かけている。周りからみれば変人と思われても仕方ない…

"なんでこの人革靴で散歩してるんだろう?"

と思われていそうだが、俺は気にしない。だってこの革靴がお気に入りなのだから…他人にとやかく言われる筋合いはないのだ。

革靴は手入れが大変だとよく敬遠されがちな靴だが、俺はあまり手入れをする方ではない。革靴が好きな方から言わせれば邪道かもしれないが、俺は汚れている革靴に魅力を感じるのだ。なんというか…


"革靴はその人が歩んできた人生を物語っている"


…みたいな感じだろうか、長年履き潰した革靴には、汚れ・しわ・革紐のねじれ等、新品では味わえない魅力が詰まっているのだ。なんと言っても長持ちするからコスパ的にも最高だ!愛用の革靴は、ほとんど手入れをせずに5年は履き続けている。因みに、長持ちさせるコツはこまめに手入れをするか、俺みたいにあまり外に出ない人限定。


革靴への愛を、脳内で独り言のように語りながら靴ベラを手に取る。

踵を滑らせるように革靴を履くと妙にテンションが上がった。履く時にも一手間いるってのが妙に愛着が沸いてくるってものだ。急いでいるときはストレスしか溜まらないが…

革靴の話はこの辺で一旦閉幕し、ニヤついた顔を引き締める。このまま外に出ると通報されかねないからな…念には念を入れておく。


玄関を開けると、視界には夕日に照らされた住宅街が広がる。空は藍色に染まり街頭がポツポツと明かりと灯す。太陽は半分ほど沈みかけており、これが"逢魔が時"と言う自然現象なのかと、どうでもいいことを呟きながら階段を下りていく。

空を見上げると月はまだ見えず、一番星だけが独り寂しく輝いていた。

俺にとってこの時が一番心地よい時間だ、哀愁が漂う空気がなんとも言えない。

その次に好きなのは夜明け間際の時間帯だ。そう考えると俺の場合は昼夜逆転ではなく、これが正しい生活リズムなのかもしれないな。

月と共に起きて月と共に眠る。俺の恋人は月だったか…


月への恋文の内容を考えていると、誰かが声を掛けてきた。

「こんばんわ、砂月さん。今からお出掛けですか?」

声の方を振り向くとそこには妙齢の女性が箒を持って立っていた。妙齢とは言ったが実際の年齢は知らない、俺の見た限りでは30代前半だろうか?しかし、見た目はずいぶんと若く感じる。人によっては20代前半と答える人もいるだろう。茶髪にウェーブがかかったロングヘアー、化粧も濃くなく薄くなくと絶妙なラインを維持している。服装はロングTシャッツにカーディガンを羽織り、膝下まであるタイトスカートはシックな雰囲気を醸し出す。軽装とも見て取れるが部屋着とまではいかずお洒落な軽装と言ったところか…軽装なのにお洒落って、ほぼ何を着てもお洒落に見えちゃうってことだよな?

ブスがお洒落をしてもブスなのが変わらないと一緒で、美人はなにを着ても美人ということなのだろう。…この発言は全世界のブスを敵に回したように思えたが、そんな事はどうでもいい。

ブスにすら見向きもされない俺には気に留める必要はないのだ。

取り敢えず声を掛けられたのだから、挨拶を返すのが常識だ、挨拶は大事。小学生でも知っている事だ。

「おはy…じゃなかった。こんばんわ、大家さん。ちょっとコンビニまで買い出しに行くところです」

起きて三時間程しか経ってないので、俺は朝の感覚で挨拶をしてしまう…世間は既に夜の帳が降りている事を忘れていた。訂正しながらも社交辞令的な感じで適当に返したが、それを見逃してはくれなった。

「おはようって、また徹夜していたんですね!昼夜逆転は体に毒ですよ?しっかり夜は寝て、日中に活動しないと!この前もテレビで言ってましたよ……寝る前に……とか………起きてすぐに………とか………」


そう、ここの大家さんは美人で有名だが説教好きでも有名である。因みに名前は「雲谷 陽」(うのや あさひ)俺の住んでいるアパート"雲峰壮"の大家をやっている。喋らなければ本当にいい人なのに…もったいない。

あと未亡人という設定だそうだ。雲谷さん曰くその方が言い寄って来る男を避けるのに、言い訳が簡単なんだと、

………なんだよ設定って…。

大家さんの解説が一段落したのだが、説教はまだ続いていた。適当に聞き流すつもりでいたが、態度に表れていたみたいで、説教が更にヒートアップしていく。

「ちゃんと聞いてましたか砂月さん!?いつも死んだ魚のような目をしていますがDHC足りてます?DHCは青魚にたくさん含まれていると言われていますが、実は………」

さりげなく俺の目をディスられた気がしたが、ここで口ごたえをすると延長戦の突貫しそうなので無視。

しかし、黙っていても説教は終わりそうにない、説教の合間を見計らい無理矢理俺のペースを捻じ込んだ。

「わ、分かりました、分かりましたから大家さん。昼夜逆転を治すよう努力しますし、今夜の夕食は青魚をメインに考えてみます」

取り敢えず、尤もらしい嘘をつきこの場を逃れる。嘘がバレれば想像が出来ないほどの仕打ちが待っていそうだが、これくらいの嘘ならバレないはずだ。

大家さんも納得ように俺の言い分を聞き入れた。

「そうですか、分かればいいんです。私もお説教が出来てストレス発散ができました。また付き合って下さいね!…それと、この前も言ってたんですが……」

急にモジモジしだす大家さん。なにか変な事でもいったかな?と自分の言動を顧みたが心当たりはなかった。なので平然とその続きを促す。

「んっ?なんですか?」

「私の事は大家さんじゃなく…名字で読んで下さい……ね。」

上目使いでお願いをしてきた雲谷さん。美人なうえに、そんな仕草を目の当たりにすると惚れてしまそうなので止めてほしい……ってか男避けの設定はいいのかよ。

溜息交じりで雲谷さんのお願いを了承し、俺は再び用事を伝えた。

「はぁ…では、雲谷さん買い物にいってきます」

「はい!夜道は危ないので気を付けていってきて下さいね。では、また…」

満面の笑みで俺を送り出してくれる雲谷さん。結婚するとこんな幸せな家庭を築きたいなぁ、なんて妄想が広がリング!

すっかり暗くなった夜道を歩いていると、雲谷さんの"ストレス発散"という言葉が何気に引っ掛かった…

「……あれ、俺ってただのストレス発散機?」


雲峰壮を出てから数十メートル歩いたところで、何気なく後ろを振り返る。既に雲谷さんの姿はなく雲峰壮が街頭の明かりに照らされ静かに佇んでいた。雲谷さんの説教を思い返しながら、雲谷さんに何回ディスられたか数えてみる…

コンビニに向かう足取りが徐々に重くなっていくのを感じながら歩みを確実に進めた。

大家さんへの腹いせと思われるかもしれないが…今夜のディナーはカップ麺で決定だ。

※8/19 推敲・校正済み

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