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心機(仮題)  作者: 山葵
第一章 「アンドロイドと心」
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第二話 「依頼」 7

 雪月花を出たと同時に鈴の音が俺を見送る。きっとこの鈴が擬人化したら可愛い女の子で恥ずかしがりながら『また来てね、お兄ちゃん』ってさよならの挨拶を掛けて見送っているんだろうな。早く擬人化の時代来てくれ!俺の寿命が尽きる前に一度でもいいから見てみたい。

頼むよ日本の変態技術者達!今や日本の未来は君達の手に掛かってるんだからね。これが日本の技術力だってのを全世界に知らしめてくれ!

 自分勝手の妄想は日本の技術者へのエールになっていた。主に俺の願望を叶える為でしかなかった。

あれから雪月花の経営回復のプランを脳内で構築しチェーン店までの道のりを考えたのだが、肝心のマスターがやる気ゼロってことに気付き考えるのをやめた。何事も諦めが肝心だよね。今回に限りいい言葉だと心底思った。それからはどうでもいい雑談をして店を出たってところだ。


 空を見上げると上弦の月はやや雲に隠れているが、月光が弱まってもなお地上を照らしてくれている。俺の恋人は働き者だなと感心して帰路に着く。正直、今日の出来事は今でも夢じゃないかと疑っているがやはり現実のようだ。出来れば夢であって欲しかった。これをきっかけに俺の平穏だった日常が崩れていきそうで不安いっぱいだ。…頼む!夢であってくれ!

 そんな願いは叶うわけもなく帰路をひたすら進む。途中で野良猫に出会ったが俺の姿を見るなり走って逃げていった。猫にまで嫌われたか。俺も流石にケモナーではないから動物達よ安心していいからね。

先程の公園を過ぎるとアパートまであと僅かだ。街頭の数は少ないが迷わないように道を照らしてくれる。僅かな明かりでもないよりはマシだ、暗闇はやっぱり怖いからね。

いや、ビビりだと思われてもいい。歳をとっても怖いものは怖いんだよ。人間なかなか恐怖を克服するってのは難しいんだ。特にトラウマなんてものは克服するのに大分時間がかかるものだ。


 因みにトラウマの語源を知っているだろうか?今では一般会話で普通に使っているが意外と語源は知られていない。一般的なトラウマの解釈は、過去に精神的な傷を負ってしまった出来事が脳に記憶され同じような境遇に遭遇した際、過去の記憶がフラッシュバックし極度の緊張感や精神的なダメージを受けてしまうことをトラウマと解釈しているはずだ。では語源について説明しよう。

 まず、トラウマってのは日本語ではない、虎馬なんて意味不明だしな。じゃあ何語かと言われればギリシャ語だ、ちなみにトラウマの意味は『傷』って意味だそうだ。それでは、なんでトラウマの解釈が変化したかというと、1917年に心理学者フロイトが物理的な外傷が後遺症になると同様に、過去の強い心理的な傷がその後も精神的障害をもたらすと発表したことが始まりだ。その時に、精神的外傷を意味する用語として用いられたのが『traumaトラウマ』だ、そして世界中に広まっていったわけだ。まぁ詳しくは自分で調べてみてくれ。独学するのも勉強のうちだ。…面倒なことはぶん投げておく。

 解釈としての意味合いは変わらないが語源を知っているってだけでトラウマの見方が変わってくるのではないだろうか。これもマスターが言っていた視点を変えるってところだろうか。…でもそれを知ったところで別になんの得にもならないからね。これがトリビアってやつだな、無駄知識最高!

 

 そうこうしている内に自宅玄関までたどり着いていた、本当はトラウマの話をする前に着いていたわけで、玄関前で一人脳内会話をしている自分を客観視するとものすごく気持ち悪い。そりゃ通報されるわけだ。今後、脳内会話は自室でするよう自重しないとな。

 鍵を取り出し玄関を開ける。出掛ける前と状況は変わらないが部屋の中は真っ暗だ。…やっぱり暗闇は怖いよな。いくつ歳を重ねても暗闇だけは克服できない。これが俺の『トラウマ』なのかもしれないな。

ビビりであることを適当な理由を付けて隠そうとする自分がそこにはいた。


自宅に入るといつものルーティンワークが待っている。電気をつけ洗面台へ、うがい・手洗いは入念にする。先日大家さんにこっぴどく怒られたからだ。ちょうどインフルエンザが流行ってた時期で、何気ない会話の中に手洗いの話題が出てきた、その時の俺の発言が大家さん火をつけてしまった。案の定説教をくらったという始末。それ以来俺のルーティンワークに手洗い・うがいが入り込んだという訳だ。

いや、健康の為だからね。大家さんが怖いとかそんな理由じゃないから…ほ、本当だよ。

手洗い・うがいを済ませ定位置に座る。もちろんパソコンの前だ。電源をつけ立ち上げている間に飲み物を手に取る。いつもはコーヒーなどのカフェインたっぷりの飲みの物をチョイスするのだが今日は昼夜逆転を治すため炭酸水を選択。大家さんが監視しているかもしれないし。


一口含み口を潤すと程よい炭酸が口内をリセットしてくれる。時計に目をやると、ちょうど22時を回ったところだ。まだ起きて数時間しか経っていないのに今日の疲労感は尋常じゃない、普段堕落した生活が仇となったか…明日はいつ迎えが来るか判らないし今日は早めに休んでおいた方がいいだろう。そう決意したものの俺のルーティンワークは変わらない、ネットの海にどっぷりとハマってしまうのだった。


サイトの巡回中、ふと脳裏によぎったのは東雲雲英の名前だった。

「そういえば東雲ってどこかで聞いたことがあるな。ちょっと検索かけてみるか…」

キーボードを軽快に叩き素早く検索をかける。エンターを押すとすぐに検索結果が表示された。そこには、この世で一番有名な企業名がトップに掲載されていた。

『東雲コーポレーション』

現会長・東雲雲照しののめ うんしょうが率いる日本ではもちろんのこと、海外でも有名な東雲グループだ。様々な分野を手にかけるオールラウンドの企業といっても間違いではないだろう。

どおりで聞いたことがあるはずだ、しかし、雲英が東雲グループに繋がりがあるかは微妙なところだ。もしかしたら、たまたま名字が一緒だっただけという可能性もある。まぁあれほどのお嬢様待遇を見せつけられては少なからず接点はあるかもしれないな。接点があると仮定するなら俺の個人情報がダダ漏れだったことに説明がつくかもしれない、会長に手助けしてもらっていたなら一時間もかからずに情報が手に入るだろう。

情報化社会って本当に怖いわ、自分で情報を遮断しても人を通じて情報が漏れている場合がある。人から情報が漏れるのは情報化社会になる前からあったとして、それに情報を拡散するネットワークが構築されてしまい現在では拡散するスピードが段違いに速い。情報が早いのはいいことだが、すべてが正しい情報とは限らない。ましてや悪意がある情報などが流れると一斉に批判の対象となりえる。要は発信する側と受け取る側の問題なのだが、容易に情報を不特定多数に拡散できるシステムはいつでも危険と隣り合わせだと危惧している。みんなも気をつけようね、なにが火種で炎上するか分からない世の中だから発言には十分注意するように。匿名の掲示板も案外容易に特定されやすいしID憶えられると誰も相手にされなくなるからね。ネットっでもぼっちとか本当に虚しい気持ちになる。


話を戻すが、これはマジで面倒ごとに巻き込まれた可能性がある。あの大企業に繋がりがある人物の依頼なんてきな臭い感じがするし、だいたい俺は東雲コーポレーションって嫌いなんだよな。あそこの職員で対応が良かったことなんてほとんどなかったし、なんというか意識高い系があつまる企業なんだよな。意識だけが高い系の間違いだったか。

よくいるんだよ、頭は良くても仕事が出来ないやつだったり、会議の時だけ発言しまくって普段の仕事は適当なやつとか。俺の周りってそんなやつらばっかり…そういえば今の俺はぼっちでした、無職だし。

東雲コーポレーションの主観的イメージはそんなところだ。よくそんな人材でやっていけるよな、一度組織図を見てみたいものだ。でも働かずに給料が貰えるなら最高の職場と言えるかもな。

俺の勝手なイメージなんで実際は優秀な部下がいるんだろうけど、そういう部下は大切にしてあげてね。


東雲コーポレーションの部下はさて置き依頼を聞いた後どうするかだ、正直俺にはなんのメリットもない依頼だ。しかし大手企業だから、なにかしらの報酬を得られると思うがそれに見合った仕事なのか怪しい。雲英のことは信用できても、あの企業を信用することは出来ない。

取りあえず明日の迎えを待つしかないのだが、心構えは必要だ。なにか脅迫じみたことを言われても言い返せるようにイメージトレーニングをしておくことにした。場合によっては嘘も必要だろう。嘘も方便って言うくらいだし付焼き刃の知識でも役に立つことがあるかもしれない。

そう自分に言い聞かせながらネットの海に再度潜り込んでいく。


ようやくルーティンワークと言う名の巡回が終わったのは深夜2時を回っていた。俺にとってはこれからが本番なのだか流石に疲れがみえ始めた。本気で今日は休んだ方がよさそうだ。

シャワーを浴びリフレッシュしたら急に眠気が襲ってくる、自然と体はベッドに向かい床に入る。

今日一日を振り返るつもりだったが眠気に勝てない、そのまま睡魔に誘われ意識が薄れていく。

眠りに入る間際、俺の意識が一瞬だけ戻ってきた。


『また、あの夢をみるのかな…』


寝言のように呟きまどろみの様な深い眠りに沈んでいった。

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