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心機(仮題)  作者: 山葵
第零章 目覚め
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第零章 目覚め

見渡す限りの花畑は地平線の向こうまで続いている。

黄・赤・青・紫と色とりどりの花々が咲き乱れ俺の周囲を取り巻く。咲いている花に見覚えはないが、なにか不自然だ。注意深く花畑を眺めると、全ての花がちょうど俺の膝下ぐらいの高さを均一に保っていた。また、これだけの花があるのに花特有の匂いもなく無臭。

違和感を感じたにもかかわらず俺は平常心だ。辺りを見渡すがここにいるのは俺一人のようだった。

 

特に行く当てもなく一歩ずつ歩みを進める。

しっかりと歩いているつもりだが地に足が着いていないような錯覚を感じた…不安になり足元に目を向けると足はしっかりと地に着いて安堵の息が漏れる。しかし、足元の花達に視線を向けると、そこに錯覚の原因があった。

花達は俺に踏まれないと歩幅に合わせるように俺を避け、元の位置に戻っていたのだ。

まるで生き物のように、俺の存在を認知し避けているようだった。後ろを振り向くと花達は何事もなかったように元に戻り、俺を監視しているような視線を感じる。

俺はこの異空間に初めて嫌悪感を感じると同時に焦燥する。感情に呼応するように自然と歩みが早くなっていた。


走るまではなく早歩きで先を進むと花畑の終わりが見えてきた。終わりが見えると心に余裕が生まれる、いや油断とも言えるのだが…早歩きのまま花畑の終わりを迎え、安心したように胸を撫で下ろす。

一呼吸置き、前を見据えると一面砂だらけの砂浜…いや砂漠と言った方が正しいだろう。視界一面を黄土色の砂だけが支配する。しかし、砂漠と言っても凹凸はなくグラウンドのように綺麗に整地されていた。空は雲一つなく青空が広がっており地平線を境に青空と砂漠だけが広がっている。


花畑を抜けたと安心した矢先に、この光景は辛い。少し眩暈を起こし反射的に手で顔を抑える。

その時、後ろから体を押される程の突風が吹き荒れ、再び目の前に花達が現れる。

恐らく突風で花びらが巻き上げられたのだろう、だが花びらの量がしだいに増えていき視界は花びらだけで埋まっていった。

流石に異常だと思い、気になって後ろを振り向く。そこに花畑はなく一人の少女が立っていた。


小学生にも見えるが中学生とも見て取れる曖昧な容姿。艶のある黒髪は肩に掛かりボブカットが少し伸びたような髪型だ。服装はどこかの制服だろうか、見慣れないセーラー服を着ている。しかし、容姿とは似合わず着慣れていない感じが俺の目に映った。

まるで今年から中学生になり初めてセーラー服に袖を通した少女のようだった。


その少女は無表情で自分の足元を見据えていたが、俺の存在に気付くと笑顔になり声を掛けてくる。

「お兄ちゃん!」

本当に無邪気な笑顔は無垢と例えても間違いではないだろう。その笑顔につられ俺も微笑を返す。しかし、返す言葉が出てこない、喉に手を当てるもその行動は無意味で言葉が出ないことに焦燥感が俺の心をジワジワと支配していく。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

ゆっくりと近づいてくる少女に声を掛けようと試みるが言葉が出ない。試しに喉が潰れるほど叫んでみるが、出てくるのは掠れたような声だけで言葉を伝えることは出来なかった。

ただ、喉の奥だけが熱くなる…その姿を見ている少女は俺の心配をするどころか一人で話を進めていた。


「お兄ちゃん…私、お願いがあるの」

俺は言葉を出そうと試行錯誤していたが、その言葉に違和感…いや僅かな恐怖を感じる。

気が付くと言葉を出すの諦め、ただ、少女を見据える。


「お兄ちゃんにしか頼めないし、お兄ちゃんにしかできない事なんだけど聞いてくれるかな?」

少女の表情は先程と変わりなく笑顔だが、目は笑っていなかった。

声が出ない代わりに頷くことは出来るが、俺は頷くことが出来ず硬直していた…いや頷く事すら拒否していたのかもしれない。

俺の反応など気に留めることなく少女は話を続ける。


「面と向かって言うのは恥ずかしいな…でも、言葉にしないと伝わんないことだってあるよね?」

少し顏を紅潮させ照れくさそうに下を向く少女。仕草は可愛らしいのに目が笑っていないので正直嫌悪感しか感じない。背筋に伝わる悪寒は危険信号のように思えたが、俺は身動きすらとれず、少女を見つめることしか出来ない。


「それじゃあ、恥ずかしがらずに言えるよう、後ろを向いて伝えるね。ちゃんとそこで聞いててよお兄ちゃん…」

少女は軽快に踵を返し俺に背を向ける。

一方的な会話、いやこれを会話と呼んでいいものか疑問だが…どのみち俺は少女の言葉を待つしか選択肢はない。俺と少女との間には極端な温度差を感じ、眩暈に加え吐き気も彷彿してきたが必死に耐える。


「じゃあ、言うよ………わたしね…えっと……わたし……ワたしを……」

俺は眩暈と吐き気に耐えるのに精一杯だった。だが、少女の言葉を聞いていると異変に気付く。


「わたしをね………ワタシを……ワ・タシ・ヲ………わたシw……」

先程の人間らしい抑揚のある声と違って機械的な口調。気が付くと俺は少女の肩に手を掛けていた。


…その瞬間、少女が振り返り、願い事を俺に伝えた。


「ワ・タ・シ・ヲ・コ・ロ・シ・テ」


少女の顔は黒く塗りつぶされ表情は読み取れなかった。しかし、俺には様々な表情に見てとれた。

それは少女の感情が俺の心に流れ込んできたのか…それを確かめる術はなかった。



ゆっくりと目を開けると見慣れた天井。

"またあの夢か…"と心でボヤキながら手で汗を拭う。目覚まし時計を確認すると午後3時35分。

ほぼ昼夜逆転な生活に嫌気がさす、取りあえずカーテンを開け窓を全開にした。先日梅雨入りしたばかりだというのに、日差しは強烈で真夏並みの暑さだ。

時計が間違いでないことを確認すると、窓とカーテンを閉め洗面台へ、顔を洗い歯を磨く。

いつもと変わらないルーティンワーク。しかし、夢のことが脳裏を過る…思い出すのは、あの少女のこと…


「妹か……今では、あまり顔を思い出せないが…あの少女の顔はどんなだったか……」

そんな解答を得ない問いが脳内でグルグルと回り始める。

気が付けば起床後のルーティンワークは終了し、いつものようにパソコンの前に居座る。

「さて、今日も怠惰な生活の始まりだ。」

その言葉と同時に夢のことを考えるのは諦め、静寂な部屋にはキーボードを弾く音だけが響き渡った。

作品タイトルは仮題のため、後々変更するかもしれません。

※8/19 推敲・校正済。

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