白黒
シリアス×ギャグ×すったもんだの大乱闘((嘘))
黒い蝶が飛んでいくのを見かけた。
白い蝶の群れの中にただ一匹。
漆黒の蝶が、 ひらり ひらり と。
「深、またなんか見えたのか?」
少し遠くから聞こえる幼馴染の声に、
ただ頷いた。
「おーい、深聞こえてんの?」
また、頷く。
「なー返事しろってば」
生い茂る草を掻き分けて、
緑の木々の間を走り抜けて、こちらに向かってくる。
掻き分けられた草の間から、
またひらひらと白い蝶が飛び出してくる。
そして、蝶でないものも。
「慶、動いちゃだめ」
「え」
今しがた慶が通り過ぎた場所から、
乳白色の大蜘蛛が飛び出してくる。
それはしゅるしゅると見えない糸を吐き出し、
慶の体をぐるぐる巻きにしていく。
深はゆっくりと慶に近づき、
絡みついた糸を慎重にはがしていく。
乳白色の大蜘蛛は、深が近づくと同時に逃げ出した。
何者にも邪魔されることなく、全ての糸をはがし終えると、
慶の背中に産み付けられた卵に息を吹きかけて、
次また生まれてくるであろう蜘蛛の子等を始末した。
「慶は妖を呼ぶから、
僕から離れちゃだめだって、言われたでしょ、里長に」
僕はちゃんと覚えてたよ。
そう言いながらむくれる慶を鼻で笑ってやる。
慶の祖父にあたる里長は、
深ほどではないにせよ強い霊能力を持った人物で、
妖に関する知識は里で最も豊富だ。
ゆえに、妖が増え行く昨今では、里長のいうことが絶対なのだ。
見えない糸から開放されて、
体の自由を取り戻した慶は、不服気に頬を膨らませる。
「急がねぇと日が暮れるのに、
深がぼけぇっと突っ立ってるからじゃねーかっ
さっさと帰ろうぜ、ったく」
攻められて、
初めて自分が立ち止まっていたことを知った。
攻められっぱなしというのは悔しいものなので、
思わず申し開きする。
「だって、黒いやつがいたんだ」
「黒いやつって、じいさまが危ないって言ってた?」
深は頷いた。
妖には位があって、色が薄ければ薄いほど、
その力は弱く、また人にとって無害なものとなり、
色が濃ければ濃いほど強く、有害なものとなる。
だから、
透明で気配でしか感知できないものが最下位で、
黒くて確かな存在感をもったものが最上位に立つ。
木々の間から、沈み行く太陽を眺め、
里長の言葉を思い返す。
『良いか、深。
色彩が鮮やか以上の妖に近づいてはならん。
近づくだけで命を吸われるからな』
それから、口癖のように言っていたこと。
『夜になると妖の力が増す。
完全に日が落ちる前に里の中にもどれ。
さもなくば酷い目にあうぞ』
ぼんやりと眺めていた夕日は、
もう半分以上沈んでいた。
「慶、いいかげん里に帰ったほうがいいと思うよ?」
幼馴染は、眉尻を吊り上げて怒鳴り返してきた。
「おまえ人の話聞けよっ」
「それで慶にぶん殴られたのか」
手渡された手ぬぐいを頬に押し当てながら、
深く頷く。
冷水をたっぷりと吸った手ぬぐいはひんやりとして、
赤くはれた頬にはとても心地よかった。
「あれは昔からすぐに手が出るからな」
我が孫ながら情けないと溜息をついた里長は、
皺がよって細くなった目でちらりと深の方を伺い見る。
「おまえさんも昔から間抜けすぎるが」
ぼーっとしすぎた深に腹を立てた慶は、
深の左頬を沈み行く太陽と同じ色に染め、
半ば深を引きずるようにして里に帰ってきた。
家に飛び込んで山菜を詰め込んだ籠を下ろすと、
そのまま奥の自室に駆け込んみ、そこにこもってしまった。
独り里の入り口に放り出された深は、ただそこに座っていた。
いつものようにぼーっとしているところを、
里を見回っていた里長に発見され、今に至る。
「おまえには力がある。
自ら望んで手に入れた力でないにせよ、
力を持つとそれに対する責任が生まれるものだ。
だからしっかりするべきだと、儂は思うんだがな。」
聞き覚えのあることを言われて、なぜだかカチンときた。
「なにが理由でそんなにぼけーっとするもんかの…」
「だって、黒いやつがいたんだ」
慶に言ったのと、同じ事を言う。
だが、里長の反応は慶とは違うものだった。
彼は皺に埋もれかけた目を限界まで見開き、
深に掴みかからんばかりの勢いで問いただす。
「それはまことか?
里の周辺に黒い妖がおったのか?
深、答えろ。それはまことに漆黒であったか?」
自分の着物の襟を握り締めて
冷や汗を浮かべながら迫ってくる里長に引きながらも、
深は素直にうなずいた。
「白い蝶の中に一匹だけ、黒い蝶がいた」
その情景は神秘的で、美しく、思わず見とれた。
春の息吹を受けて青々と茂る若草の中。
無数の光とともに自分を取り囲んだ白い蝶。
半透明なそれに力はなく、害もない。
ただ美しく、非現実的に、空中を舞うだけ。
その群れの中に黒一点。
蝶の形をした白い波の中を泳ぐように、
ひるがえり ひらめき ひらひらと舞う。
優雅ともいえようその姿に、
危険を感じることはなかった。
それを里長に話しても、
ただ「危機感が足りない」と言われるだけだろうから、
言わずにおいた。
黙って、いい子に里長のお説教を聞いた。
「こりゃいかんな…
里の周辺はしっかりと清めておるから、
害をもたらすようなのは近づかないはずだが…
もしや慶に惹かれてきたのか…」
慶は、妖が近づきたくなる気の持ち主だという。
慶といるとやたらと妖が寄ってくるから、
それは本当のことだと思う。
だからこそ、妖が嫌いな気を持つ深が慶のそばにいる。
そうすることでバランスが保てるから、
二人と、里のみんなにとってそれが最善なのだという。
けれど、独りでぼーっとしているのが好きな深と、
大勢の輪の中で戯れるのが好きな慶とでは、
人格的な波長というものがどうしても合わず、
たびたび今日のように喧嘩別れすることがある。
といっても、限りなく鈍感な深に腹を立てた慶が
深をぶっとばすか怒鳴るかして、
一人で去っていくのが通例なので、
俗に言う「喧嘩」とは少しずれているのだが。
「里長、放してください」
いい加減不快感を感じ始めたので、
里長に着物の襟を放してくれるように頼んだ。
「いやもし慶でないとすれば…」
だが、一人で考えに浸っている里長に、
控えめな深の声は届かない。
なので、深は里長の考え事が一段落するまで、
待つことにした。
そうすれば、里長に自分に声は届くであろうから。
黒い蝶が飛んでいた。
白くて半透明の蝶の群れの中を、漆黒、
優雅に、堂々と、我が物顔で。
右も、左も、上も、下も。
視界の全てが白い蝶で埋め尽くされた世界で、
たった一匹の黒い蝶は、
黒であるはずなのに、とても色鮮やかに見えた。
そのまましばらく見とれていると、
目の端で灰色のものが ひら ひら とひらめいた。
反射的にそちらの方に目をやると、
白かった蝶がものすごい勢いで灰色に、
そして次第に黒へと変化していくのが見えた。
視界が白から灰色に、そして灰色から黒に、
黒から光通さぬ漆黒へと染め替えられていく中、
深はその情景の中心で、ただ呆然とながめていた。
このような光景を見たら、里長は恐れおののくだろう。
慶は妖を惹きつけるくせに妖の姿は見えないから、
その情景に見とれてぼーっとする深に腹を立てるだろう。
そんなことを考えているうちに、
自分が今いる場所が非現実的な空間であることに気づく。
(夢だ… いつ寝たんだっけ…)
ぼんやりとした記憶をたどっていると、
背中に何かでぶたれたような痛みがはしる。
背中の鈍痛の理由に考えを巡らせていると、
こんどは何かに押されて体が横に転がる。
頬をなにかにこすり付けて、しびれるような痛みを感じる。
どれも痛みとしてはたいしたことはないので、
特に気にすることでもないのだが、
なぜか急に寒くなってきた。
無意識の内に、手探りでぬくもりを探した。
そして、なにかやわらかいものを掴み、
それに思いっきり手を振り払われて、目が覚めた。
(慶…)
色のくすんだ敷布団の真ん中に大の字で寝ている慶は、
暖かそうな掛け布団を体中に巻きつけていた。
比べて、自分は冷たい畳の上に、布団もなく転がっている。
そこで、背中の鈍痛は慶の蹴り、
頬のしびれは目の粗い畳にこすり付けてしまったから、
そして肌寒さは慶に布団から追い出されたからだと、
今の自分の状況をしっかりと理解した。
おそらく、あの時自分が掴み、
そして振り払われたのは慶の腕だろう。
腹が立ったので、慶が寝ているにもかかわらず、
どんな脅し文句よりも彼に劇的な効果を発揮する、
『怒ったときのみ発生。深様の不適な笑み』を浮かべる。
けれど、にっくき慶のおばかは、
相変わらず気持ちよそうに寝ているのでもう諦めた。
気迫で悪夢でも見てくれるかと思ったが、そうでもないらしい。
武器である笑顔を引っ込めると、畳の上で横になり、
特に何を考えるでもなくぼーっとしていたが、
やがて夜明けを告げる鳥のさえずりと、
障子にあいた無数の穴から差し込む弱々しい朝日に気づき、
ゆっくりと状態を起こし、座って、それを聞き、眺めた。
どれほどの間そうしていたのか。
障子に、ひらひらと舞う何かの影が映った。
右に、左に。
通り過ぎてはまたもどってくるその影をしばらく見つめてから、
それが蝶の形をしているということに気づく。
上へ、下へ、ゆらゆらと揺れるようなその動きに
呼ばれているような気分にさせられ、深は立ち上がった。
慶を起こさないように足音をしのばせ、
障子を開けるときも、
音を立てないよう、細心の注意を払った。
外に出ると、先ほどまで飛んでいた蝶の姿はなく、
ただ弱々しい朝日が東の空からこぼれるばかり。
左を向いて、花壇の菜の花を見る。
右を向いて、立ち並ぶ木造の小さな家々を見る。
振り返り、相変わらず熟睡中の慶の姿を確認する。
そして前に向き直り…
鼻先を、黒いものが掠めた。
甘いような、苦いような。
かぐわしいとも、不快ともいえない、
けれどどこか心惹かれるもののある匂いが、
鼻先を掠めた黒いものからただよい、
深の周りを漂い続ける。
「うー・・・」
はっとして、振り返った。
同時に、先ほどまでしていた匂いが消える。
「ぅあぁあー・・・ごめんなさいぃー・・・っ」
慶が、自分で自分にまきつけた布団と格闘しながら、
寝言を言っていた。
手足をとろりとした動作でばたつかせ、
眉根を寄せて、何かから逃れようと、もがく。
なんだ。
気迫で悪夢を見せれたではないか。
ざまぁみろ慶。
この僕の睡眠を妨害した罰だ。
「かっかあちゃん・・・、ちゃんと全部食うからぁあ・・・っ」
夢の中の慶は、食事を残して母親に怒られているらしく、
悲痛な掠れ声をあげていた。
慶曰く、『かあちゃんは妖が尻尾巻いて逃げるくらい怖ぇえっ』
のだそうだ。
けれど、深にしてみればどこにでもいる普通のおばさんで、
怖いどころか、むしろとても優しいと思う。
現に、山にポイ捨てされた深を拾ってくれたのは、慶の母。
育ててくれたのは別の女性だが、
彼女は二年前のはやり病で命を落している。
その後、間抜けでぼーっとしていることの多い
深の生活の援助をしてくれているのは、慶の母だ。
「がぁあっっっ」
慶が悲痛な叫びを上げたので、我に返る。
一瞬だけ目を閉じ、そして開いた瞬間。
黒くてひらひらとしたものが、再度鼻先を掠めた。
そして、またあの不思議な匂いが空中に広がる。
今度こそ見失うまいと、匂いをたどるように空を仰ぎ見る。
すると、空中に群れを成して飛ぶ、銀灰色の蝶を見つけた。
そしてそのなかにただ一匹、漆黒の蝶が混ざっている。
それらは深に見つけられるのを待っていたかのように、
深がそれらの姿をはっきりと認識すると同時に動き出した。
行ってしまう。
そう思ったから、裸足のまま縁側から飛び降り、
走って蝶の群れを追う。
ちらちら と ひらひら と。
早いわけではないけれど、決して遅くはない速度で。
現のものでない蝶の群れは移動続ける。
里を出た。
人が作った道から外れた。
獣道を走った。
急になっていく山の斜面を駆け上がる。
木々の間をすりぬけ、太い尾根を飛び越え、
生い茂る草を掻き分け、ただ、ひたすら。
何かに取り付かれたように、夢中になって、
ただただ、蝶の群れを追った。
目が覚めると、
昨晩隣に運び込まれたはずの深がいなかった。
先に起きたのだろうと思い居間に行くと、
ちょうど米を炊いていた母が振り返って問いかける。
「慶、深ちゃんはどうしたんだい」
「深の間抜け面なら、今日はまだ拝んでなぁあっつっっっ」
頭のてっぺんに落ちてきた鉄拳が、慶の言葉をうばった。
しびれるような痛みに自然と涙目になりながら、
『愛の鞭!』をかました母を上目遣いに睨む。
「いってぇなぁ!」
「当然だよっこのバカ息子!」
「ば…っ 俺が深にバカって言ったら怒るくせに!!」
「文句なら深ちゃんより賢くなってから言いな」
これは酷い。
今の言葉はあまりにも酷い。
慈愛に満ちた母が息子に対して口にする言葉ではない。
「それが母親の言う言葉か!!」
「あんた生みの親の顔も忘れたのかい」
「ぐ…」
やはり母は強かった。
口では勝てないと悟った慶は、最後の手段に出る。
「もういい!家出してやる!!!」
叫ぶ途と同時に踵を返し、慶は外へと駆け出した。
そんなバカ息子を見送る母の目は、
呆れを隠せずにいるものの、どこか優しかった。
「夕飯までには帰っておいで」
「栗ご飯じゃないと帰ってこない!!」
照れくさそうに叫び返した小さな背中は、やがて見えなくなった。
開けた場所に出た。
突き抜けるような晴天の空に、蝶の漆黒は良く映えた。
それを囲む銀灰色の蝶達も、日の光を浴びて輝いていた。
しばらくその光景に見とれていると、
方々から色とりどりの蝶の群れが集まり、
ここまで深を導いてきた群れと合流し、
やがて大きな渦となる。
それはもう、近づくもの全てを飲み込まんとするほどに、
強力で魅力的な大渦に、そしてやがて竜巻に。
吸い込まれる
そう思ったときにはもう、別の場所に飛ばされていた。
そこは、薄紫の霧に包まれた豪奢な部屋。
広いそこは数々の装飾品でごったがえし、
足の踏み場がない。
ところどころに燈された蝋燭の灯りが、
薄紫の霧の向こうで怪しい青に揺れる。
状況の飲み込めない深は、
とりあえずぼーっとそれらを眺めることに決めた。
薄紫の霧は、あの不思議な匂いを放っていた。
霧の向こうに透ける華奢な鏡台。
足元に転がる高価な酒の数々。
無造作に放置された煌びやかな髪飾り。
部屋を囲むように立ち並ぶ大小さまざまの棚や箪笥。
それらがないところには、
座るのが躊躇われるほど豪華な椅子や、
その上に物を置くのは失礼かと思われるような高貴な机。
薄紫の霧に包まれたそれらはみな美しく、
異様で、妖艶に怪しかった。
惚けたような顔をしている深を、何者かがクスリと笑った。
少なからず驚いて声の主を探せば、
薄紫の霧が立ち込める部屋の最奥、
影でしか形を確認できないほど霧の奥に沈んだそれは、
優雅な曲線を描く、巨大な長椅子。
しかし、椅子が笑うなんて話は、聞いたことがない。
ぼんやりとした意識の中でおっとりと焦る深に、
長椅子はもう一度笑いかけた。
その笑い方から、長椅子の楽しそうな心情が伝わってくる。
笑う長椅子なんて奇怪な伝説を始めようというのだから、
それは楽しいことこの上ないだろう。
また、椅子が笑う。
ただ突っ立って考えるだけでは
長椅子に笑われるだけだと判断し、
深は滑稽この上ないことを承知で長椅子に話しかけた。
「なにがそんなに楽しいの」
長椅子が、さらに楽しそうな笑いを零した。
なんだかもう、
いろんな意味でこの訳の分からなさに腹が立ってきた。
深の苛立ちを感じ取ったのか、
長椅子は焦ったように言葉を紡ぐ。
「ごめんなさいね、笑ってしまって。
ただあまりにもあなたが可愛らしかったから」
その声は艶やかで、落ち着いた、
けれどどこか悪戯っぽさのある、知らない女の声だった。
そうか、この長椅子は雌なのか。
てっきり推すかと思ってしまった深は、
自分の失礼さを恥じて頭を下げた。
「あら、どうして」
「僕はあなたを雄椅子だと思っていたから」
深はいたって真面目に答えたつもりなのだが、
長椅子の笑いは楽しげにはじけた。
腹が立つほど楽しそうに笑う彼女に、深は少し困惑する。
「どうしてそんなに笑うの」
「だって…っっ」
笑いをかみ殺しながら、長椅子は答える。
「わたくしは椅子ではありませんもの」
真面目な顔で間違ったことをけろりと吐くあなたが、
どうしようもなく楽しかったのだと、彼女は言う。
椅子でないなら、じゃぁなんだ。
浮かんだ疑問をそのまま口にすれば、
椅子でないそれは少し寂しそうな口ぶりで答える。
「いやだわ。あなたをここまで連れてきたのは、わたくしなのに」
「だって、長椅子の影しか見えないから」
非難されてむくれた深は、自分なりの真面目さで言い返す。
霧の向こうから、はっと驚く気配がした。
「あら、それはごめんなさい。
わたくしにははっきりと見えるものだから…」
言いながら、影の形がゆらりと変わる。
長椅子から、そこに寝そべっていた何かが立ち上がったのだ。
ゆっくりと、長椅子とは別の影がこちらに近づいてくる。
「わたくし、
少し前にあなたの里の近くにある森に流れ着いたのだけど」
その影には、みっつのでこぼこがあった。
「おいしそうな匂いのするお友達といるあなたを一目見て」
近づいてきた影には妙な威圧感があったので、
深は反射的に数歩後退った。
足元にあった酒瓶が、空っぽな音をたてて転がる。
「あなたの強い力を感じて、目の当たりにして」
霧にかすんで見えなかった影の姿が、
深の目にはっきりと焼け付く。
「あなたのことが気に入ったのよ」
目の前に立っていたのは、
漆黒の翅をもつ、優雅な黒髪の女性だった。
「しぃいいーーーん!!」
里の中を一通り探した慶は、
もしや里の外にいるのではと、近くの森まで深を探しに来ていた。
もう日は高く上っているし、
ちょっと山菜を取りに行ったというのなら、
もう十分な量をとって帰ってきてもいいころだ。
なのに、深はどこにもいない。
行き着けの池にも、
大量の山菜がとれる秘密の場所にも、
こっそりと作った秘密基地にも、
深の姿はどこにもなかった。
「どこいったんだ、あの万年脳内ぽっかぽっかの春野郎…」
親愛なる幼馴染に対して
限りなく失礼な真実をぼやきながら、
それでも慶は深を探し続けた。
だって深は、
昨日この森で『黒いやつを見た』と言ったのだから。
『力の強い妖は、人の心を惑わす』と、
じいさまが言っていたのだから。
昔から何かと流されやすい深だったからこそ、
強い妖になんぞや吹き込まれて、
容易に連れて行かれたりしそうで心配なのだ。
「くっそぉー深!
ちょっと計算はやくて字の読み書きできるからって、
調子にのって隠れてんじゃねぇぞこのぉーー!」
独特な気合の入れ方をして、慶は深を探すため、
力強く大地を蹴った。
「わたくしの元へいらっしゃい」
見ている者の頬を染める、
妖艶な笑みを浮かべて彼女は言った。
「新しい名をあげる。
そして新しい居場所をあげる。
あなたをあなたのまま、新しい存在にしてあげる。
わたくしには、それをやり遂げる力があるのだもの」
そこで言葉をきって、彼女はじっと深を見つめた。
「それに何より…」
切れ長で一重の瞳は、怪しく紫に輝いていた。
「それに何より、あなたは元来、
"こちらがわ"の存在なのだから」
言われた意味が、理解できなかった。
彼女が漆黒の蝶であることは理解した。
気に入られたのも理解した。
今までの名前や住処、
その他諸々の全てを捨てて仲間になれ、
と言われたのだって、理解できた。
けれど、今のは理解できなかった。
どんなにがんばっても、
深の理解できる物事の領域から完全にはみ出していた。
「でも」
沈黙。
「でも、だって僕は」
白くなりつつある頭で、必死に言葉を考える。
「僕は人間なのに」
そう。
どうあがいたって、深は生まれてこの方、
それこそ今までずっと人間だったのだから。
妖と人間とは、根本的なところが違っていると、
里長が言っていたのだから。
だから、深が彼女と同じ側の存在だなんてありえないのだ。
なのに
「違うわ」
漆黒の蝶は、あっさりとその真実を切り捨てた。
それが、彼女にとっての真実ではないから。
「あなたは長い間"人間"と過ごしたから、
"人間"に近くなってしまっただけ。
"人間"に付けられた
"人間"でいるための"名前"を名乗っているから、
"人間"だと思い、思われているだけ。
だから…」
だから、
"人間"としての"名"を捨て、
"人間"から離れれば、
"彼女と同じ存在"に戻れるのだと、彼女は言う。
深は、ただただ首を振る。
自分は慶をおいしそうだと思ったことはないし、
悪戯をして里の人たちに意地悪をする妖が好きではない。
いくら綺麗だと思うことがあっても、
それは異相のものに対する客観的な評価であり、
決して親近感などからくる
親しみをこめた優しい評価などではない。
違うのだ。
深は人間なのだから。
「僕は人間だから、できないよ」
だから、震える声で、そう告げる。
「できるわよ」
そして面白いほどにあっさりと、否定される。
「だってあなたの母親は、
あなたの命の半分が人間でないから、
あなたに恐れをなして山に捨てたのだもの」
目の前から景色が消えた。
視界にあるのはただの白。
耳に届くものはことごとく排除された。
もう何も見えない、聞こえない。
だって知らなかった。
誰も教えてくれなかった。
そんなこと言われたのは初めてだ。
そんなこと夢にも思わなかった。
だから。
だから、
「ウ、 ソ、ダ」
潰れてへちゃげた声を、
感覚が麻痺した喉から搾り出す。
「嘘なんかじゃないわ。
だってわたくし人間なんて嫌いですもの。」
「ウソダ」
ろれつが上手く回らなくて、
それは日本語によくにた異国の言葉のように発音される。
「あなたは"人間"に縛り付けているのは、
その"人間"と共に"人間"として生きるための"環境"と、
なによりも"人間"がつけた"人間"でいるための"名"」
紫の瞳が細められる。
「それら全てを捨ててしまいさえすれば…」
薄紫に彩られた、薄く形の良い唇が弧を描く。
「あなたは汚らわしい"人間"の皮を脱ぎ捨てられる」
死人のごとく白い手が、深の頬に伸ばされる。
漆黒の爪先が、深の血色を失った頬を掠めた、瞬間。
バシッッ
いままで、これほど強く、何かを拒絶したことはなかった。
「嘘だ」
振り払われた白い手が、ほんのりと赤く染まる。
「僕の両親は"人間"だ」
自分が捨てられたのは、
そんな安くて愚かな過ちから目を背けるためではないと、
そう思いたかった。
「僕は"妖"になんてなれない」
自分は完全に"人間"なのだと思いたかった。
「だから今すぐ、里に返して」
もう、ここには居たくなかった。
じゃないと・・・
「ふざけないでちょうだい」
ピシャリと、深の言葉は切り捨てられる。
「現実逃避もいいかげんにしてくださる?
わたくしはあなたがほしいの。
気に入ったのよ、このわたくしが。
だからわたくしの城へ招き入れたの。
わたくしだけの場所に、あなたを受け入れたの。
それほどあなたがほしかったのよ。
そのわたくしのありがたい申し出を、
そんな子供じみた愚かな現実逃避で振り払うつもり!?
それほどまでに不躾で失礼なことなどなくってよ!」
あまりの言い草に、さすがの深も腹が立った。
それは困惑や戸惑いから来る苛立ちなどではなくて、
ただ深の意見を聞く耳持たない、
目の前の女の暴虐武人な態度が、物言いが。
彼女のもたらした混乱が、そして落胆の嵐が。
深から、優しくておっとりとした深らしさを奪い去る。
「里のみんなを苦しめる妖が、何様のつもりだ!」
漆黒の蝶は黒くて形の良い眉を吊り上げる。
「わけのわからないことをずっとしゃべって。
勝手に僕のこと気に入って。
何の遠慮もなく自分のわがまま僕に押し付けてきて。
いったい何様にそんな態度が許されるんだっ!!!」
「長よ」
それは、しごく真面目な顔で紡がれた。
「似通った属性の妖を束ねる、漆黒の長よ」
「それでも妖にかわりはないじゃないかっ
悪さしかしない傍迷惑な謎の生命体じゃないか!!」
「それは愚かな人間の無知がもたらした無礼な誤解だわ」
凛とした声が薄紫の空気を切り裂く。
「妖は生物を超越した存在。
どこまでも自然と近しい場所にあり、
それとともにあることに誇りを抱くもの」
「里のみんなだって…っ」
「一緒にしないでいただけるかしら?」
それは空気がしびれるほどの、憎悪に満ちた拒絶。
「人間は自己満足の元に正義を名乗り、
私欲の元に破壊をもたらす。
そして自我の元に不吉を呼び寄せ、
愚の元に絶望をかみしめる。
妖はそんな人間に対する憤りの結晶。
大地の怒り。
大海の悲しみ。
大気の憎しみ。
そしてそれら全てを抱く星の想いの結晶なのよ。
根本的なところが違う。
存在意義が違うのよ。
私達は想いの結晶体。
もたらすものは凶でもなく、吉でもない。
ただそこに、想いの結晶として存在するだけ。
人間は諸悪の権化。
もたらすものは滅びと破壊。
彼らは破壊者なのよ。
邪神によって作り出されたこの世の邪の結晶なのよ」
「じゃぁ・・・」
漆黒の長は、首をかしげる。
「じゃぁどうして、僕みたいなのが生まれるんだよ」
そうまでも妖が人間を嫌うなら、
どうして"愛の結晶"といわれる"子供"が生まれるのだろう。
それはやはり、
妖が人間に良いところを見出したからではないのだろうか?
「よくある話よ。
人間同士の間にできた、強い力を持った子供。
それに引かれてやってくる貧弱な妖。
存在が曖昧なほどに力の弱い妖は母親の腹を貫通して、
存在が曖昧なほどの新しいその命と融合する。
あなたみたいな子供は、そうやって生まれるのよ。」
今度こそ、頭の奥が真っ白になった。
身体が芯から冷え切ってゆくのを、遠くに感じる。
除々に手足の感覚がなくなり、視界がかすみ、
物音や温度が手の届かない場所まで離れていく。
気づいたら、白に染まっていた。
「おいこら、もう泣くな。
チンチクリンのクソガキでもお前は男だろう!」
「うぅう…ありがとう、
慰めるフリして貶してくれやがってよぉ、コン畜生!!」
「黙れ涙垂れ流しの鼻水小僧!
どこまでもみっともねぇんだよ泥と垢の化身めが!!」
「言いやがったなっ
女一人まともに口説けないヘタレ野郎が!!」
「ああかわいいなぁ!
近頃のクッッッソガキはどこでこんなすごい言葉覚えるのかな!?
お兄さん知りたくてたまらないなー!
いやぁ、子供って成長が早くて見てて楽しいよ!
あぁ、でも残念だな。
あんまり成長が早いと極楽への道のりが短くって困っちゃうよ!
うん、お兄さん寂しいけど、嬉しいから泣かないよ!!!」
「嬉しいのかよっっ っていうかやめろクソ兄貴っっ!
ちょ、本気で・・・っっ 首しめっっ・・・・ぐはぁあっっっ!!」
「なにしくさってんだいバカ息子ども!!
さっさと深ちゃん探せってんだよ役立たず!!!」
兄と共に母ちゃん必殺『愛の鞭!』を頭に食らった兄弟は、
そろって頭を抱え込みながらうなる。
「もう日も沈みかけてる。
早く見つけないと、
深ちゃんは妖がそこかしこにいる里の外で、
一人で、一晩過ごすことになっちまうんだ。」
五時間ほど深のことを探して野山を駆け回っていた慶が、
『深がなんかに持っていかれた!!』
と、泥だらけの半べそで里に帰ってきたのは、
三時間ほど前のこと。
それから混乱状態の慶に、
頬をひっぱたくことで正気を取り戻させた里長は
涙垂れ流しの慶から事情を聞きだし、
苦虫を噛み潰したような顔で里のものを集め、
"深捜索"にのりだしたのだ。
それでも、これだけの人数で探しているというのに、
深の姿は一向に見つからない。
恐れていたことが起きたのではないかと、
里長は皺だらけの顔にさらに数本の皺を増やし、
皺で埋もれかけているその顔を苦渋の色に歪ませた。
夕暮れの森の中で見るその顔は、
なんだか妖よりも怖くて近寄りがたい気がしないでもない。
「やはり、深は妖に連れて行かれたのでは…」
たまたま傍にいた慶が、目を見張る。
それに気づいた里長はさらに顔中をしわくちゃにしたが、
それでも視線と気配で説明を求める慶に、
しかたなく自分の考えを話して聞かせた。
他のものには聞こえないように、ごくごく小さな声で。
「ごく稀に、腹の中の子供に妖が取り付くことがある」
慶の目は、さらに見開かれる。
それこそ、
それ以上開いたら目玉が飛び出るのでは、と思うくらい。
「そうやって生まれた子供は、たいてい人の姿をしていない。
だから気味悪がられ、殺される。もしくは遠くへ捨てられる。」
「じ、じゃぁ…?」
これ以上無理なくらい顔を皺だらけにして、
里長は厳粛な雰囲気をかもし出しながら頷いた。
「儂の娘…。お前の母は、都より帰郷する途中、深を見つけた。
そのときの深には名前がなかったから、
それは人とも妖ともつかぬ異形な姿だった。
けれどそれを恐れず、お前の母は深を里に連れ帰った。
この儂の娘だけあって、深になにかを感じたのだろう。」
夜中にこっそりと里に戻ってきた慶の母は、
里長を里の外で待つ深のところまで連れて行き、
彼を驚かせたとのことだ。
「人型をした、けれど人でない、五歳ばかりの男の子だった。
頭髪は白く、その肌は闇夜に解ける黒。
うつろな瞳は深海のごとく厳かな藍。
纏うのはやはり異形のそれで、
その強い力はどこまでも儂をとまどわせた。」
それでも、彼はこういう存在を、どうすればいいかを知っていた。
「儂はその男の子をこちらがわに繋ぎ止めるべく、
人間の儂が、人間としてその子を生かすための、
人間に名をくれてやった」
その名は、存在が中途半端な少年の中で、
もっとも際立つものにちなんで付けられた。
彼の持つ瞳は、深海のごとく、厳かな藍。
深。
「その名には、根元まで人であってほしいとの願いも込めた」
だが、と。
里長はどこか諦めたように、小さく笑った。
「人の名を付けて、人の姿になった深は、
それでも、相変わらず強い力をもっていた。
名に込められた願いにより、
妖を寄せ付けぬ気となったそれだが、
これではいつか、強い妖が深の存在に気づいたとき、
気に入って連れて行かれると思った。
もしくは、邪魔だと思って消されてしまうとな」
そして今日。
彼の心配事は、現実となった。
「まさかここまで早いとは…」
悲嘆のにじむ、その声。その言葉。その姿。
自らの祖父からあふれ出るその"諦め"の気に、
慶の怒りは爆発した。
「ふっざけんなよ狸じじぃ!皺の化身!!良い子の敵!!!」
急に意味不明なことを怒りを込めて怒鳴り始めた慶を、
里の者達が驚きに振り返る。
「深のドアホが俺達をほっぽって妖のとこに行ったって!?
はぁああ??
ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ!
歳かよ! 老化現象かよ! 寝言は寝て言えってんだよ!!」
慶がかなり立てる内容に、里の者達は眉を潜める。
「あの間抜けは間抜けすぎてここじゃなきゃやってけねえんだよ。
ボケっとして何も考えてない割にはちゃんとわかってんだよ。
自分の居場所がどこかぐらいちゃんとわかってんだよ。
だからあいつは山の中で迷子にならない。
俺が調子に乗って振り回して一緒に迷子になっても、
いい加減な時間になると
黙って俺の手ひっぱって里に戻ってくるんだよ。
俺が散々悲嘆にくれる姿をとくと見物してからだけどな!!」
それは、深が通った道には深の力の残り香が漂い、
彼がそれをたどることに長けているからだ、と。
知っている内容なのに、その言葉は喉の奥にひっかかって、
上手く出てこない。
歳かな、と、自らの孫に怒鳴られながら思う。
「他のとこに行きたくないから帰ってくるんだ。
なんだかんだ言って深はしっかりしてるんだよ。
一人で飯作れるし、裁縫もできるし、字の読み書きも計算もできる。
全部俺よりもずっとうまくできる。
深のやつすごく頭がいいんだよ。
それだから変なところで腹黒いけど!!
あいつ貧弱だから畑仕事苦手だけど、
土の具合とか、雲行きとか、
食いモン作るのに大事なこと、すごくよく分かってんだよ。」
なんだかもう、めちゃくちゃだった。
話があっちゃこっちゃで飛んでいる。
たとえそこを気にしないにしても、
それは全部、深が嫌いな畑仕事から逃れるために、
里長とかわした交換条件。
実地で働かないなら、働くものを支える知識をつけること。
それを深は、あのなんともいえない虚ろな顔で素直に受け入れ、
当然のように日々それをこなしていた。
その事実も、里長の喉の奥にひっこんだっきり出てこない。
「何も考えてないようで、他人のことちゃんと考えてるんだよ。
だから深みたいな意味不明で宇宙人な
万年脳内ぽっかぽっかの春野郎でも、
みんなそれなりに受け入れてるんじゃないかっっっ」
最後のは、なんだか少し悲鳴に近かった。
喉がかすれて、ひりひりする。
けど、そんなことはどうでもよかった。
"深"のありかたを否定して、"深"を諦めるようなくそじじぃに、
心底腹が立っていたから、これでいい。
「深は、いつだって、里の一部だったんだ」
真っ直ぐに、皺で埋もれた目を射抜く。
気持ちで。
視線で。
気迫で。
いま感じている感情の全てで。
「いまだって、これからだって、それは変わらない」
数歩下がって、不適な笑みを浮かべてやる。
怒ったときの深が見せる、稀なそれのまねをして。
「あいつはずっと、俺の親友なんだよ」
何があっても、そうだから。
だって結局、深はいいやつなのだから。
慶が大切に思う、里のいいやつらの一人なのだから。
「じゃ、友情に厚ぅーい慶様は、
迷子になりやがって心細い思いをしてる
ざまーみろこんちくしょう!な深を探してくるから。
んで、一緒に里に帰ってくるから。
首長くして黙って待ってろよ
この死に損ないのくそじじいが!!!」
そういって、いく当てもなく駆け出した。
ただ、深という名のあんちくしょうを連れ戻すことだけ考えて。
そんな慶が迷子になるのは、もう少しあとの話。
「新しい名前は何がいいかしら?
あなた綺麗だから、名前も綺麗なほうがいいわよね?」
他の漆黒の長達にかわいい手下を見せびらかすのだと、
妙にうきうきと楽しそうな漆黒の蝶は、
名を黎と言った。
なんでも、ある程度の力をつけた妖は、
本能以外の自我を持つのだそうだ。
そして自分が名前をつけてほしい妖の下に付き、
自立してある程度の妖と土地を収める力をつけたら、自立。
それを"黒の巣立ち"と呼ぶのだと、先ほどそう聞かされた。
「違う名前っていわれても、なんだかしっくりこないな」
黒い肌をもつ少年は、
白い爪の生えた手で頭をかいた。
"人間"としての名前をつけられてから、
"人間でも妖でもない存在"
であったときの記憶はかなりぼやけていたのだが、
それがいま"人間"の名前を放棄し、
"人間でも妖でもない存在"に戻ることで、
その記憶は随分と鮮明になった。
村人達にやっかまれながら、
自分を捨てるべく遠い山まで出向いた母。
山奥深くに放り投げられた自分。
母だった人は、
自分を憎悪と恐怖がみなぎる瞳でねめつけ、そして去っていった。
その帰り道で、夫とともに待ち構えていた村人達が、
その身を八つ裂きにすべく待ち構えていることも知らずに。
後々その切り刻まれた醜い姿を発見した自分が、
どうしようもない不快感と吐き気を感じることも知らずに、
彼女は無様にずたずたにされたのだ。
本当に、どこまでも浅はかで傍迷惑な女だと思う。
「ねぇ、あなた。
いまは中途半端な存在だからその容姿だけれど、
完全にこちら側にきたらどうなるのかしら?」
そんなこと聞かれても困るのだが、
これから世話になるであろう相手なのだし、
たとえ曖昧でもしっかりと答えるのが礼儀というものだろう。
いつになくすっきりとした意識のなかで、
少年は黎に返すべき言葉を捜した。
「どうかな。
名前をつけるのは黎だから、あなたの影響を受けるのかな」
「あら、そうかしら?
わたくしは最初から蝶だったから、良くわからないけれど。
もしそうなら、綺麗なだけでなく、優雅な名前がいいわね!」
明るく、朗らかに。嬉しそうに黎は笑う。
そんな彼女に釣られるように、少年もわずかに頬を緩める。
切れ長で細い、一重の目は形が良いし、紫の瞳も綺麗だ。
長い漆黒の髪はどこまでも真っ直ぐで艶やかで美しい。
体つきはしなやかだし、顔の造作も整っている。
なにより、
彼女が背負う漆黒の翅が謎めいた魅力の中心となっている。
それとなく鋭利な印象こそあるものの、
彼女が魅力的な容姿をしていることに変わりはない。
たとえそれが人のそれとはかけ離れていたとしても、変わりはない。
くるくると踊るように部屋の中を放浪しながら、
黎はうきうきと少年の名前を考える。
少年の未来を、期待を込めた明るい声で予想する。
「ねぇ、どうしましょう。
わたくしたちの名前は基本的に一文字なのだけど、
なんだか沢山付けたい名前がありすぎて困るわ」
落ち着いた藤色の打掛の袖が、
彼女が動くのとあわせて優雅に揺れる。
そこでふと、少年には疑問が浮かんだ。
「あなた達も人間と同じ字を使うの?」
すると、黎はきりりとした眉を吊り上げ、
薄紫の唇を尖らせてふてくされた顔を作る。
「しょうがないわ。
人間達がいろいろなものを作り始めるまで、
わたくしたちは無欲この上ない質素な生活をしていたのだもの」
ようするに、人間が頭を使った行動をするので、
それに張り合って自分達も似たような文化を発達させてきたわけか。
「でも、やはりまったく同じなのは悔しいから、
わたくしたちはもっと沢山の象形文字を作ったわ。
あなた、これから覚えるのが大変ね」
そこまで朗らかに言われるとあまり大変そうに聞こえないのだが、
そこはあえてつっこまず、
良い子な少年は人好きのする笑みを浮かべた。
その後も、黎があまりにも長い間心の葛藤を
独り言で生中継しながら部屋中を放浪するものだから、
しびれをきらした少年が自分なりの提案をする。
「あなたが考え付いた名前を、いくつかあげてほしいな。
そしたら、その中から僕が選ぶから」
「あらだめよ!
それではわたくしが付けたことにならないでしょう?
どうしてもわたくしが決めないと!」
「それじゃ、早く決めて」
そろそろ待ちくたびれてきた少年は、
思わず言葉がそっけなくなってしまった。
が、再び自らの思考のなかに沈み込んでしまった黎は、
特に気にするそぶりは見せなかった。
その後さらに長い間、辛抱強く静かに待っていた少年は、
ついにしびれを切らした。
しびれが切れたついでに意識も切れて、
睡魔の手中に落ちてしまった。
誰かに名前を呼ばれた。
つい先ほど、捨てたばかりの人の名を。
なんだか、それは無礼な叫び声のように聞こえた。
どうしてそんなに自分を不快にさせるものに満ちているのか、
少年には良くわからなかった。
理解しかねるからこそ、理解しようと近づいた。
世界は真っ白で、かと思えば真っ黒。
そうでもないかと思えばそこは虹色に輝いていた。
白と黒の間を永遠とさ迷うような、そんな感覚。
けれど、次第に近くになってゆくその腹立たしいな声は、
自分が確かに目的の場所へ進んでいるのだと教えてくれた。
あと、少し…
「くそぉおおおおおおおっっ
深のばかぁあーーーーっ!
裏切り者!薄情者!考えなし!恩知らず!
腹黒!大間抜けぇえええええええええ!!!!!」
見たこともない場所を彷徨いながら、
慶は叫び続けていた。
これだけ正直に心の叫びを口から流していれば、
相当の距離を隔てていても自分の居場所が分かるだろう。
そしてわかったら、あの腹黒は自分の言葉に報復しにくる。
ぼんやりとしたお人良しのようで、実は腹黒い狡猾狐野郎なのだ。
幼馴染で親友の慶は、深のそんなところを身をもって知っている。
「いかれ!すかたん!へっぽこ!!
お前実は迷子になってるんだろう!?
俺が迷子になったら散々じいさまにチクる癖に、いい度胸だな!
それだけ見事に迷子になれればもう最強だぜ!?
向かうとこ敵なしだな!!おめでとう!!!!」
なんだか自分でも言っている意味が掴めないが、
それが今の自分の心情なのだから、良しとする。
「うわぁ俺やだなぁ!深がついに最強になっちまったよー
その勢いで狸じじぃのところに押しかけたら、
あの死に損ないぽっくり行っちゃうかもな!
いやー人生の別れって悲しいね!
この言葉では表しきれない悲しみの表現として、
俺はじいさまの葬式で赤飯食ってやる!!!!」
がむしゃらに叫んでいたら、木の根に躓いてこけた。
顔をあげて、身体を起こしながら叫び続ける。
「くそぉ!!そろそろこの偉大なる慶様の毒舌も尽きてきたぜ!?
なのになんだこのあらん限りの罵声でも足りない憤りは!?
ん?なんだって?ああ!その声は森の妖精さんだね!!
俺君にあえて嬉しいよ!!え?良いこと教えてくれるって?
それは俺さらに嬉しいな!!!なになにー?
あぁ!!そうか!!!この憤りの原因はバカ深なんだね!!!
あのいかれで腹黒で性格と根性がぐにゃぐにゃ歪んだ、
方向音痴で迷子になってる可愛そうだけどざまぁ見ろ!!な、
ド畜生で見事に期待を裏切る万年脳内ぽっかぽっかの春野郎こと
深の大バカっちんのことなんだね!!!!
俺わかったよ、うん!すっごく理解した!!!!!!
もともとわかってたけど
すごく哀しい一人芝居に付き合ってくれてありがとう!!
愛してるよ森の妖精さん!!
所詮俺が作り上げた嫌味の産物だけど、
君の心温かい友情出演には大感激さ!!!
俺嬉しさのあまり泣いちゃう!! えーん、えーん、えーん」
ひとまず、次の罵声を考え付くまでも時間稼ぎとして、
わざとらしすぎる嘘泣きを繰り返すことにした。
さて、これからどうしてくれたものか。
空にはもう月が出ているし、星も輝いている。
妖を引き寄せてしまう慶としては、
もっとも外出を遠慮させていただきたい時間帯。つまり夜。
このまま深が見つからなかったら、
きっと自分は妖に悪さをされてしまう。
連れて行かれるかもしれない。
食われてしまうかもしれない。
どうしよう。困ったものだ。
でも、もし、どうせ妖に遭遇する体質なら…
「畜生! どーせならさっさと深のとこまで誘拐しやがれ!!!」
そうしてくれたほうが、きっと話が早いから。
なんだか、不愉快な声は、
急に悲痛さに満ちた叫びをあげたようだった。
もう少しで、
発している言葉の内容が正確につかめる距離まで近づける。
けれど、何かがそれを阻もうとする。
否、何かが足りないから、先に進めない。そんな感覚。
妙な焦燥感。
記憶の中に穴が開いたような、心地の悪い部分的な虚無感。
それは、行こうと思えば進める。
距離なのだから、歩けば縮む。
けれど、そういう問題とはなにか違うものが、
少年の足を止めようとする。
不愉快だ。邪魔するな。
自分はこの不愉快な声に、
がつんと一発言ってやらなくてはいけないのだから。
この、懐かしい、よく知っている、その不愉快な声に…
誰の声?
気配を感じたような気がする。
怒った深が無理やり笑ったときに出す、
あの不吉さ全開の雰囲気のような、そんな気配が。
それは、慶の周りをふわふわと漂い続けているのだが、
どれだけ見渡してもその気配の正体を掴めない。
けれど、その気配が、自分の行動の成果のような気がして、
疲れと尽きかけた罵声に対する焦りで
働かなくなっていた頭を叱咤して、叫ぶ。
「ばぁああああああかぁあああああああああああ!!!
ばーーかーーしーーーーんーーーー!!
深はばぁかだぁ!
すっごいおーおーばーかーやーろーうーだー!!!!!」
声の限りに
「俺がこんだけ探しても出てこないとはいい度胸だ!
さすがは我が親友!幼馴染!宿敵たる腹黒野郎!!!」
思いつく限りの
「いい加減にしろっての!
なに?その諦めの悪さという気長な嫌がらせ根性!?
すっごくネチネチしてて俺本当に怖いな!!
ついに深が"溺愛する息子の嫁に対する姑のそれ"
みたいなひっっどい仕打ちを俺にするようになったとはな!!!」
深の気を引くことのできる
「あーぁあー!ひどいなーー!!
今日は深の嫌味な姑進出の記念すべきひだから、
みんなで良い子の看板に菊の花を捧げなきゃなぁあ!!」
言葉を
「それにしても宴会の主役はどこに行ったんだろうね!?
まさかこんな夜中で迷子かな!?」
叫び続ける。
「うわーだっせー! ほんっとかっこ悪いなー!!
どうかしてるよ深の頭は! うん! おかしい!
おかしさ満点!! 脳みそには栄養れー点!!
まぁったくどうなんだろうねぇ、それぇえ・・・・―――っっ!?」
突然、なにかにぶん殴られた。
腹が立つ。腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ。
不愉快だ。
自分の不愉快指数はもう限界を超えているのではないだろうか。
この温厚で優しい良い子で通っている自分を、
ここまで腹黒く狡猾な報復に燃える
悪の大魔王な気分にさせてくれる傍迷惑な愚か者は、ただ一人。
怒りこめた笑みを浮かべて、
目的の人物に狙いを定めながら腕を振り上げる。
そして…
「なんか今すっごく爽やかな気分だな。
それはもう慶の頭を思いっきりぶんなぐっても足りないくらい、
それはそれは爽快で満ち足りた、
とんでもなく何かをもぎとりたい気分だよ。
例えば慶の嘘ぺらぺら流す口とか口とか口とか…ね?」
背後から聞こえた朗らかな声は、
殺気にもにた壮絶な空気とともに、慶の耳に突き刺さった。
言い知れぬ恐怖のなか、慶はゆっくりと振り返る。
「・・・・・」
そして、また前方に顔を戻す。
あらゆる理由で全身に鳥肌が立つのを感じる。
なんだか、膝が笑っているような気がする。
「ねぇ、君は何か僕に言わなくちゃいけないことがあると思うんだ」
相変わらず明るく朗らかな声は、
容赦なく慶を追い詰める。
困ったな。
こんな底知れぬ恐怖と遭遇したいんじゃなかったのに。
とりあえず、その声の朗らかさに答えるべく、
精一杯の強がりと引きつりまくった笑顔で振り帰った慶は、
恐怖に掠れて裏返った声で言った。
「こん、ばん、わぁ!…だよね?」
腹部に拳がめり込むのを、遠のく意識のなかで感じた。
目が覚めたときには、月明かりに透ける見知った横顔があった。
それはいつもと同じぼーっとしたものだったけれど、
その目には
いつになくはっきりとした意思が宿っているように見えた。
「・・・深」
うずく腹部をかばいながら、なんとか上体を起こす。
空を見上げて突っ立っていた深は、慶を見下ろす形で振り向く。
見慣れた顔の向こうに、森の木々が透けていた。
慶は、絶句する。
混乱する頭で考えに考えた結果、とある結論にたどり着いた。
「おまえ実は透明人間だったんだろ!?」
ビシッ
間髪いれずに慶の頭は平手で殴打される。
けれど、それは気絶する前の二撃に比べればなんでもない。
まったくあの生っ白くて細っこい腕のどこにこんな力があるのか。
人体の謎であると慶は思った。
「透明なのはね、僕が今半分しかここにいないからだよ」
言われてる意味が、良くわからない。
なので首をかしげて視線で先を促すと、
深は軽く頷いて説明を始める。
「僕は元々"人間"でも"妖"でもない中途半端な存在なんだけど、
今日は…」
「あ、それ狸じじぃに聞いた。俺その辺の事情知ってる」
深は一瞬押し黙ってから、
やがて慶の発言の意味が脳に浸透したのか、驚きに目を見開く。
やつは狡猾なのだが、やはり所詮は深。どこかとろい。
「深が里に来たあらましとか、名前がどうとか、その辺は聞いた」
だから、その辺の説明は端折ってもかまわないと、慶は言う。
深は一泊おいてから自嘲気味に笑い、頷いて先を続けた。
慶は分かっていなかったが、
深は正直に驚き、そして安堵していた。
一重に人間とは呼べない自分を、そのまま受け入れてくれる者が、
今、半透明状態である自分の目の前で、平然と座っている。
そしてその頼りない四肢には、山の中を散々彷徨ったのだろう、
切り傷や擦り傷、痣や泥に塗れていた。
自分にとっては鬼門である、"夜"という時間も無視して。
彼は深を探してくれていたのだ。
―――ぞろぞろと妖の群れを従えて。
「慶」
慶が連れてきてしまった妖の群れを払うのに苦労した深は、
少しだけ声を低くして、不本意そうに傷だらけの少年の名を呼ぶ。
「ん?」
「君ってすごく面倒なやつだと思うよ」
「なっ…!」
「けど、だから僕が傍にいないとね」
深の失礼な発言に対して怒ろうとしていた慶は、
勢いをそがれてそのまま黙り込んだ。
深は、偽りでない、だがかすかな笑みを浮かべて、
慶と視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「ありがとう」
驚きによる、沈黙が落ちる。
やがて状況が飲み込めたのか、
照れくさそうな、不服気な、微妙な表情で慶は頭を掻いた。
「なんかその言い方だとさぁ、告白っぽくて微妙…」
「僕も今そう思った」
「ちょっとアレだよな、アレ」
「言っとくけど僕にそういう趣味はないからね」
いつになく強く断言されて、慶は固まる。
なんだかこう… 色んな意味で鬼気迫る表情の深に驚く。
かわいらしい友人間の冗談を、そこまで真面目にバッサリ切るか?
「なぁ深、冗談だってば…」
「慶はね。けど僕は真面目に言ったから吐き気がする」
そういって、深は本当に心底気持ち悪そうに顔をしかめた。
「あぁ、そう。そっちなの…そういうことなの…」
なんだか深の過去に触れる内容だったりしたのか!?と、
焦って後悔した慶なのだから、
反応が生ぬるくなってもしょうがない。
「感謝の意をこめて、これからも慶の尻拭いはしてあげるよ」
なんだかむかつく言い方だったのだが、
どこかでなにかが失せてしまった慶はおとなしく聞いた。
「けど慶もそれなりに勉強して一人でその
半端なく面倒な体質で生きていく術を身に着けるべきだと思う。
大変なことを断言してしまった優しい僕の負担を減らすために」
突っ込みたいところはあった。
言ってやりたい言葉は頭の中を駆け巡っている。
けれど、もういい。先ほど慶の中で失せたのは、気力なのだから。
相変わらず真面目な顔のまま、深は立ち上がり、空を見上げた。
つられて、慶も空を見上げる。
月は上弦。
瞬く無数の星々は、普段と少しも変わらない姿でそこにある。
今日はこんなにも、色んなことがあったというのに。
「黒い妖は、それぞれの妖の群れを束ねる長なんだ」
慶が深の半透明の顔に視線をずらし、また空に戻した。
深はかまわずに続ける。
「僕は"黎"って名前の人に連れて行かれた。
そこで自分の生い立ちとか、存在の形みたいなのを聞かされた。
それから、名前を付けてあげるから妖になれって言われた」
二人とも、眉一つ動かさず、ただ空を見上げる。
「他にも色々――"人間"と"妖"の違いみたいなの、聞かされた。
それで、僕はいったん"深"になる前の僕に戻ったんだ。
けど、黎があんまり長いこと名前を考えているから、
僕寝ちゃって…」
深らしいなー…と、慶は思う。
「そしたら慶の声が聞こえたから、
幽体離脱みたいな感じでここに来た。
けど、抜け出せたのは"深"だけだから、僕は今半分。
だからほら、こんなに透け透け」
ふらふらと、深は自分の腕を慶の前で振って見せた。
慶はそれを横目に見ながら、
深が言ったことを飲み下そうとしていた。
「"名前"っていうのはとても強力な"呪"なんだ。
だから僕は"深"になってから、
名前がなかったときの記憶が朧だった。
それで、"深"の前の僕になったときは、"深"の記憶が朧だった。
だから、慶の声に反応して出てこれたのは、"深"だけなんだ。
けど、魂なのかな?やっぱり向こう半分と繋がってるから、
"深"じゃないときの記憶も今ははっきりしてる」
慶は少しの間考え込む。
「それだと、もう半分はまだその…黎ってやつのとこに居るわけ?」
「うん。たぶんそういうことになると思う」
「じゃぁ、"深"が人間の部分だから、
黎のところに残ったもう半分は妖の部分ってこと?」
「きっとそうなるだろうなー…困るね」
そりゃぁ、もう…
身体が半分という時点で困って当然なのだが…
「どんなふうに?」
具体的に、それがどいう結果に繋がるのか、
勉強嫌いで単細胞な慶では今一理解に及べない。
深は心底嫌そうな顔をしてから、口を開く。
「たぶんね、黎はそろそろ名前をつけてると思うんだ。
それで、黎は力があるから、
"名前"をつけるとある程度相手を支配できる。
だから向こうに居るのが半分だけなのに気づいたら…」
一瞬、世界が真っ黒になった気がした。
唐突な現象に二人が困惑の色を表していると、
艶やか声がその空間に響いた。
「連れ戻しに着たわよ、宰」
はっとして、二人が急いで振り返る。
純粋な驚きの色を示す慶の隣で、
深の顔は半透明ながら真っ青だった。
無数の黒灰色の蝶の群れを従えて立っているのは、
落ち着いた藤色の打ち掛けを纏い、
漆黒の翅を背負った、紫の瞳と唇をもつ、長い黒髪の女。
「ひゃー美人!」
こんなときに何を言うか。と、思ったのもつかの間。
黎の容姿に対しての感想をのべる慶に驚きで目を見開く。
「慶、黎のことが見えるの?」
「え、あれが黎?じゃぁなんで俺見えてんの!?」
「それはわたくしの存在が確かなものだからよ」
凛とした、けれどやはり艶やかな声が、答えを提供する。
「そこらの"人間"でも見えるほど、わたくしの力が強いからよ」
唖然とした後、慶の顔が嫌そうに歪む。
力の強い妖なんて、あまり愉快な存在ではない。
その横で、相変わらず顔色の悪い深はあるものを見つけて、
青いどころか、顔色をなくした。
半透明な深の視線の先には、半透明の生物が居た。
それの肌は薄青く、ところどこ鱗に覆われていた。
手足の指の間には水かきのような膜が存在し、
指は比較的細長いのに対して指先は多きめで、尖っている。
頭髪と思われるそれは風もないのにゆらゆらと揺れ、
月明かりの下で白銀に輝く。
耳と思しきものは尖っていて、そして小さい。
そしてその耳の後ろからは、
鰭じみたものがにょっきりと生えている。
一目で分かる。人間でないと。
深い藍色の瞳と、灰色がかった茶色の瞳が交差する。
「かわいらしいでしょう?
この子、きっともう少し大きくなればとっても綺麗になるわ。
黒でない今でもこれだけの力があるのだもの。
あとほんの少し力をつければ、それこそどこにでも自慢できるわ」
それはもう恍惚とした表情で、黎は楽しげに語る。
異形の肩に腕を絡ませて、唇を寄せて、
口付けるようなしぐさを繰り返す。
深は、震えていた。
こんな異形なものが自分の片割れだと思うと、寒気がした。
けれどその一方で、その異形が醜いとは、決して感じない。
人間とは自分と違うものを恐れる生き物。
恐れ、嫌悪し、その存在を否定することで、
やがてそれを追い詰めて滅ぼすのが本能。
けれど深には、目の前のそれを完全には否定することができない。
人間の部分だけが抜け出しているはずなのに、
今の自分は確かに"深"であるはずなのに、
異形のそれを、その姿を、当然にして自然なことのように感じる。
ただ、本当に自分が人間ではない、
別の存在であったかと思うと、そのことが妙に恐ろしかった。
そして自分が人間になりきれていない気がして、怖かった。
そんな深の姿を舐めまわすような目で観察しながら、
黎は薄紫の唇から言葉を紡ぐ。
「わたくし、あなたに宰って名前をつけたの。
"司る者"と書いて、"宰"。良い名前でしょう?
あなたがそのうち、とっても立派になるのが見えるから。
わたくしそのときのあなたに相応しいように、と思って付けたの。
どう?気に入ってもらえたかしら?」
表情の読み取れないその存在―――宰は、
先ほどから微動だにしていない。
不安定な上に、いままで表に出たことのない存在なのだから、
それは自然なことなのかもしれない。
けれど、その姿は表情豊かな黎の隣で、とても浮いていた。
深が、無意識のうちに一歩後退する。
「なんか俺さー拍子抜けしちゃった」
唐突。
そしてその場の緊張感にそぐわない。
なんだか反応を返す気になれず、とりあえず深は無視をする。
だが、特に突っ込んでほしいわけではないのか、
慶はそのまま、のんきな調子で続ける。
「強い力をもった妖とかいうからさー
どんな怖いやつかとおもったら美人のねーちゃんだもん。
しかもなんか透明人間に絡んでる酔っ払いみたいなことするし?
俺なんかもう、散々びくついてたのに… 笑っちまうよなぁ」
へらへらーと、おばかさん感全開で微笑む慶に、
深はただただ唖然とするしかなかった。
それは黎も同じらしく、戸惑いと驚愕以外の感情が読み取れない、
なんとも説明しがたい表情でかたまっていた。
『透明人間に絡んでる酔っ払い』の部分は、
それは慶には宰が見えていないのだから、そう見えるかもしれない。
けれど、やはり立場上の関係でそこまで正直な感想は危険だと思う。
冷や汗を浮かべて、
深は相変わらずおかしな表情なままでいる黎を見やる。
頼むから、キレて慶を殺したりしないでほしい。
「そりゃぁ人間じゃないのは見ればわかるんだけど、
なんかなー…
俺美人の姉ちゃん好きだから複雑なんだよなぁ…」
深を誘拐した悪いやつは、実は好みの美人だった。
先ほどの慶の発言から、
彼が遠回しに言おうとしていることを正確に理解した深だが、
しかし慶のことがかぎりなく分からなかった。
怖いもの知らずなのか、混乱しているのか、
おバカすぎて警戒できないのか、状況が分かっていないのか、
それともただバカでバカでバカで限りなくバカなのか。
さて、どれだろう。
「なぁ、それより俺深がいないと困るんだ。
じいさまに喧嘩売ってきたから。
深が味方してくれないとさ、
俺あの死に損ないに締め上げられるて死んじゃうと思う」
だから深の片割れをこっちに帰してくれと、慶は要求した。
黎は相変わらず困惑しきったまま、
宰の肩を抱いて自分のほうに引き寄せた。
それからしばらくして、きりりとした眉を跳ね上げる。
ようやく怒りが浸透してきたらしい。
「人間風情が、ふざけたことを言わないでちょうだい」
低く凄んだ声で、黎は慶を睨む。
「そっちこそ宰の片割れをこちらにおよこしなさい。
この子はわたくしのお気に入りなの。
そこらじゅうに見せびらかして自慢するの。
長らく弟子のいなかったわたくしを散々コケにした輩に、
自分の弟子を戸棚に隠したくなるような気分を味わわせてやるのよ」
「そんなんで俺から命綱取り上げるなよ!
弟子なら他当たれ。深は里に残るんだ。
あんたのばかげた復讐の道具にはならない」
「『ばかげた』とはなにごと?人間風情が何を言うの!
たかが人の子がわたくしに知った風な口を利かないで」
ピシャリと慶の言葉をはねつけて、黎は深を睨む。
「さぁ、こちらへいらっしゃい」
死人のごとく白い腕を伸ばして、
深に手を差し伸べるような格好をする。
「行きましょう。
穢れた生物と、これ以上の時間を過ごす必要はないわ」
「嫌だ」
黎の目が驚愕に見開かれ、やがて怒りの炎を燃やした。
深は、驚いたように自らの口に手を添える。
今のは、本当に無意識の行動だった。
「何を言うの。
"妖"と"人間"の在り方はしっかりと説明したでしょう!
あなたは"人間"でいなくてすむのよ。
どう考えてもわたくしの手を取るべきでしょう!」
「嫌だ」
今度は、自分の意思だった。
「僕はあなたが言う"人間"とは違う"人間"を知ってる。
里のみんなを汚らわしいと思ったこともない。
だからあなたの言い分には賛同できない」
確かな、それは意志。
「僕は"宰"にはなりたくない。
"深"のままでいたい。
だから僕の片割れを僕によこして」
きっぱりと、深は言い放った。
そして。
「僕も"深"にはなりたくない。
"宰"のままでいたい。」
きっぱりと、宰は言い放った。
その場の全員が、その表情を驚きを表すそれにする。
だがやがて、深のそれは苦渋に、黎のそれは歓喜に変わる。
「名前が違う。
僕らは孤立した、別々の一 固体。
二度と一つには戻れない」
淡々とした無表情なそれは、とても冷静に、真実だけを告げる。
「だから、このまま別々に在ればいいと思う」
その提案に、黎はその整った顔を極限まで歪めて抵抗した。
がっしりと掴まれた宰の肩に、黎の爪が食い込む。
滲んだのは、赤い血ではなく、銀色をおびた透明な液体。
「それはだめだわ。
もともと一つの存在が二つに分かれたら、
それはもう不安定で不確かな、弱々しい存在でしかないわ。
不完全なのよ。
すぐに消えてしまうわ。
それでは意味がないのよ!」
「不完全ではあっても、不確かではない。
すぐに消えてはしまわない」
相変わらず、無表情で単調なそれは、ますます黎の怒りを呼ぶ。
「何を根拠にそんなことを言うの?
今まさに分離した、生まれたての赤子も同然のあなたが、
いったい何を知っているというの?
百年以上の時を生きたこのわたくしにむかって、
どうしてそのような態度がとれるというの!!」
「ばぁさんだったのか…」
慶の不謹慎なつぶやきは、
小さかったおかげで宰に噛み付く黎の耳には届かなかった。
「根拠は本能。
"深"は人間だから良くわからない。
"宰"は妖だから自分の在り方がよくわかる。
妖は自然に属する限りなく無に近い存在。
力をつけて自我を持てば、それは無ではなくなる。
黎が嫌う人間に近くなる。
黎はそれを受け入れないから、自分勝手に驕る。
弟子ができない理由は、それ」
黎の顔から表情が消えたとたん、周囲の蝶が動いた。
それは見る見るうちに黎の身体にまぶりつき、
黒灰の鎧となり、大剣となり、盾となった。
宰を切り刻むべく振り上げられる凶器を前に、
深と慶はわたわたと慌てるものの、
声はでないわ手足も思うように動かせないわで結局何もできない。
そのなかで、
ことの当事者である宰は相変わらずの無表情でそこに居る。
それがますます黎の気を逆なでするのか、
もはや美しさの欠片も残らない鬼の形相で、
黎は宰に向かってその大剣を振り下ろす。
瞬間。
地表から湧き出した白銀の波が、
その禍々しい凶器を受け止める。
黎の顔が、驚愕と屈辱に色を変える。
いままで少し俯いていた宰は、ゆっくりと顔を上げた。
その深い藍の目は、無表情の奥に侮蔑の光を宿し、
そしてその口元には、どこまでも不自然な、
作り物の笑みが浮かんでいた。
ぞっとする、冷たいものを、黎は感じた。
「黎は愚かだから、僕が説明してあげよう。
"宰"と"深"は不完全な存在。
完全じゃないから、完成していない。
これからそれぞれが"妖"として、"人間"として生きることで、
それぞれの欠けた部分が補われる。
その理由は、力の弱い透明が、
やがて力の強い漆黒になるのと同じもの。
だから別々に生きても、それぞれの命になんら支障はない」
「どうしてよ…」
宰の話を少しも聞いていなかった黎は、
震える薄紫の唇から地を這うようなおぞましい声を出す。
「どうして!?
あなたに名前をつけたのはわたくしなのに!
あなたは少しもわたくしの意思を受けない!
自分勝手に動く!
おとなしく切られるように命じたのに!
どうしてわたくしの命に応じないの?
どうして今のあなたにそんな力があるの!!!」
「黎は本当に愚かで何一つ分かっていないから、
親切な宰が説明してあげよう。
"深"が離れて"深の片割れ"になった僕は、
それはもう生まれたての赤子よろしく無力だった。
けれど黎は愚かだから、
見場を良くするために、自分の部屋に力を撒き散らしていた」
撒き散らされた力があの薄紫の霧であると、
深は無意識の内に理解していた。
それはやはり、なんらかの形で"深"と"宰"が繋がっているから。
「それを黎にばれない程度に吸収したら、自我を持った。
自我を持ったら、黎が愚かで、
それゆえに貧弱であることに気づいた。
だから、取り込んだ黎の力に僕の意思を交えて、流した。
黎は絶えず無意味な独り言をつぶやいていたから、
息も無駄に大きくしていた。だから僕の意思を吸い込んだ。
そして僕の意思のとおりに動いた。
黎は僕の意思で、僕に、僕が僕につけたのと同じ名前をつけた。
だから、"宰"は黎がつけた名前じゃない。
"宰"は黎に支配されない。
けれど"宰"の意思を吸収した黎は"宰"に支配される。
なぜなら、"宰"とは"司る者"であるから」
宰は、賢い。
とんでもなく賢く、それはそれは狡猾だ。
人間が親から子へと受け継がせる知識を、
自然から生まれる妖は本能として持っている。
宰はそれを最大限に生かすことのできる頭脳を持っている。
そしてなにより力の桁がちがった。
長年"深"の中ではぐくまれてきた"宰"の力は、
賢さや素質の違いも相まって、黎のそれを軽く超えたのだ。
感嘆と尊敬に満ちた気持ちでいる深の目の前で、
宰が動いた。
正しくは、宰が従えている白銀の波が、だ。
それはしゅるしゅると滑るような動きで黎を包み込み、
そのまま彼女を飲み込みはじめた。
宰の姿が見えない慶に、宰が従える波の姿も見えるはずがなく、
彼は、ただただ困惑した表情で、
硬直する黎の姿を凝視することしかできない。
「宰…?」
かすれる声を搾り出して呼びかけた深に、
宰はその深い藍色の目をゆっくりと動かし、片割れを見やる。
「慶は宰の存在が不完全だから、
黎より強い宰が見えない。
黎が愚かな弱者であるぶんそれが悔しいから、
黎を取り込んで存在を完全なものに近づける」
これから自分がやろうとしていることと、
その動機を簡潔に説明して、宰は黎に視線を戻す。
彼女はもう、完全に白銀の波に包み込まれていた。
黎の姿が、どんどん白っぽくなっていくのを、慶はただ見ていた。
白くなった黎の身体がどんどん小さくなって、
やがて半透明の小さな蝶になり、ついには消えてなくなるまで、
慶はそれをただ見つめていた。
他に、見えるものがなかったから。
この場でもっとも困惑しているのは、慶だ。
彼には宰の姿は見えないし、声も聞こえない。
深と黎には聞こえていた宰の丁寧で無機質な説明も、
慶には聞こえていない。
けれどむやみに口を開くべき空気ではないと感じたから、
慶にはめずらしく、黙ったままおとなしくしていた。
その横で、白銀の波が少しずつ黎を取り込み、
同時に黒っぽく染まっていくのを、深は見ていた。
あの黒灰色の蝶の群れが黎の一部であったように、
この"波"もまた、宰の一部なのだろう。
じわじわと、波が取り込んだ黒が、宰に浸透していくのだろう。
その証拠に、宰の透明感は少しずつながら失せ始めていた。
「慶…」
唐突に名前を呼ばれて、慶は喉の奥を震わした。
困惑のあまり、まともに声を発することができないのだ。
声帯がへしゃげた猫のような、ゴロゴロとした変な音が出る。
「宰が、黎を取り込んだ。
黎よりも宰のほうがずっと頭が良かったから、
黎は宰の罠にはまって自業自得な状況」
深が状況を説明してくれているのだと、一泊遅れて慶は気づく。
全身の筋肉が固まってしまったかのような状態のなか、
慶はなんとか浅く頷いた。
それを気配で感じ取ったのか、深は先を続ける。
「で、宰はいま黎の力を消化中。
もう少ししたら、きっと慶にも見えるようになる」
深が言ったとおり、慶には宰が見えるようになり始めていた。
薄っすらと浮かび上がる蒼い影に、慶は目を見張る。
とてつもなく遠くに感じるが、
それでも言葉が聞き取れる程度には近い声が耳に届き、
慶は元々大きなその口を、さらに大きくあんぐりとする。
その声は、深のそれにとても良く似ていたから、
きっとそれが宰の発するものなのだろうと、意識の隅で判断した。
徐々に、姿と声がはっきりしていく。
表情のない、深い藍色の瞳。
ところどころに鱗がはえる、見事なほどに蒼い肌。
漣のそれのように銀に揺れる短い頭髪。
纏う衣は上質な黒。
水かきや耳鰭、衣の裾から除く尾鰭は、
月明かりに透けてほのかに蒼く見えるが、しかしそれは黒。
色違いでわんさかと付録付きの深が、
真夜中の荒野にぼんやりと浮かび上がった。
「この程度じゃ、まだ慶には半透明に見えるかな」
おっしゃるとおり、透け透けでございます。
異形のそっくりさんを目前に、慶は声が出なかった。
そんな慶の代わりと言っては何だが、
付き合いの長い深が慶の代わりに言葉を返してくれた。
「そうらしいよ。
――見かけが少し変わったね」
もっと色が濃くなって、鰭やらなにやら、やたらと付いたね。
とは言えず、控えめな発言にとどめておいた。
けれどさすがは片割れ。
深の思考を見透かしたように鼻を鳴らして、
衣の裾から覗く自分の尾ひれを足でつついた。
「僕も鬱陶しいと思う」
そういって宰はくるりと背を向け、
背骨に沿うように一直線に生えた背びれを指差す。
「仰向けに寝転べないよね」
なんだか、先ほどの壮絶な光景を見た後だと、
宰のこういう行動がとても間抜けに見えてしまう。
「すげー…」
慶が、やっと声をあげた。
深と宰がそろって慶のほうに視線を投げる。
「一卵性双生児」
そうつぶやいて、慶は笑った。
「お前らそっくり!
俺怖いなぁ、腹黒野郎が増えちゃったよ!!」
なんとなく、その場の空気が和んだ。
宰と深は同時に少し微笑んで、
「「腹黒なんて安い言葉で僕の頭脳を片付けないでほしいな」」
見事にハモった。
慶が腹を抱えて爆笑し、
深と宰が顔を見合わせて複雑な表情をつくる。
もちろん、宰の表情の変化は、
相変わらずごくごく微かなものなのだけど。
「とりあえず僕が里まで送ろう」
宰は地面を転げまわって爆笑し続ける慶を見下ろして、
付いて来いという風に堂々とした足取りで歩き出した。
短い銀髪がさらさらとゆれる。
「わかるの?」
無に近い空間を慶の声頼りに移動してきた深は、
自分の気配をたどれないから、道がわからない。
「わからないのに先頭にたって歩かない」
即答した宰の声はやはり淡々としていた。
思い出したように転げまわって笑うのをやめた慶が、
地面に腹ばいになった状態で宰を見あげる。
「にしても本当にいたんだな、魚人」
宰の眉が引きつったのは、おそらく気のせいではないだろう。
「慶、あんまり失礼なこというと捨てていかれるよ、
色んなものを」
「そうだね。たとえば慶の命とか命とか命とか…ね?」
呆れのにじむ声が深。
無表情に淡々と恐ろしいことを言う声が宰。
「いやだなーそんなぁ!仲良くしよう!!
俺一生懸命良い子に宰の後付いて歩くから、
仲良くしよう!お友達になりましょ!?」
なんだか引きつったその声は、慶のもの。
三つの声が暁へと向かう夜空の下、
獣道ですらないような場所を通って移動する。
向かう先は、暖かな場所。
心配しながら帰りを待ってくれる、
そんな人たちが居る場所。
『ただいま』
という声に
『おかえり』
と答えてくれる場所。
あぁー…長かったよ!
本当になんだか長かったんですよ!
短編ってこんなに長いのかな!?
もう書き終わった喜びで御節がおいしかった!!
どうも始めまして。
誘森と申します。
いかがでしたか?『白黒』
個人的には比較的自信のある一作が故に、
投稿させていただきました。
ご感想、ならびに評価などいただけましたならば、
幸いなことこの上ございません。
あらすじにも表記させて頂きましたとおり、
シリーズ化させていただく所存ですので、
もし興味がございましたらば、どうぞご観覧ください。
最後まで読んでいただき、
まことにありがとうございました。