未だ見ぬ幸福に
どうも、緋絽と申します。
短編です。非常に短いです!
彼女に言わせると、幸せを運ぶ青い鳥は、いつでも飛んでいるらしい。
「だって、そうでしょ? そうでなきゃおかしいわよ。私はいつだって、幸せだもの」
辛いことも悲しいことも、幸せが前提で起こり得る。つまり、幸せだからこそ辛苦の感情を得るのだと。
「君はなんていうか、お手軽だな。君にかかれば、どんな悲惨な人生も幸福に見えてしまう気がする」
僕には無理だ。苦しいことも悲しいことも、それすら幸せの一部だとは到底思えない。
「お手軽なんて失敬ね。幸せにもランクがあるの!」
「どうやって鳥でそれを見分けるんだよ」
意地悪のつもりで言ったのに、彼女は意を得たりとばかりに微笑んだ。
「歌を歌うか、歌わないかよ」
鳥が歌を歌ったなら、とびっきりの幸せが訪れるらしい。
「まだー?」
「待って、あと少し」
僕は溜息を吐いて待つ。このやりとりを、すでに四度行っていた。
女の子の支度が長いって、本当だなぁとしみじみ思う。あぁ、身に染みる。
使い古しの時代遅れのタキシード。彼女が一生懸命洗ってくれたので、何とか白に見える。
僕は歩くことにした。一五分もしてから戻れば、きっと終わっているだろう。
木々の隙間から日がきらきら零れ落ちていた。
お金のない僕達は、今日ここで、式を挙げる。
いい場所を見つけたとご満悦な彼女の言葉を、正直僕は信じていなかった。彼女はどんなささいなことも“いい”ものとして受け止めるきらいがあるからだ。
だけどここに連れてこられたとき、僕は思わず「いい場所だ」と漏らしていた。彼女は嬉しそうに「いい場所でしょ」と返した。
その顔があんまりにも綻んでいたので、また皮肉りそうだった口を、僕はなんとか縫い付けた。悪癖を、今日は出さないんだ。
僕は彼女が決して幸せな人生を歩んできたわけじゃないことを知っている。だから彼女の言う幸せには、偽りがないことも。
途中でシロツメクサの群集を見つけたので花冠を作っておく。彼女のドレスはあまり豪華じゃないのだ。
僕は、あの子を幸せにしたいのだ。小さな幸せを、幸せだと言わなくなるまで。それを、当たり前だと思うようになるまで。
花冠を渡すと、彼女は泣いて喜んだ。
「どうしよう、すごく幸せだわ。どうして鳥が鳴かないのか、不思議なくらいよ」
青い鳥が、空を飛ぶ。
僕はそれに、思わず笑ってしまった。
「まだ、幸せには程遠いんじゃない?」
まだ鳴くな、青い鳥。
彼女がいつも笑っていられるように生きるから。彼女がそれを当たり前だと思うまで、幸せを溢れさせてみせるから。
だからそれまでは、鳴くな、青い鳥。
御読了ありがとうございました!