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桜の夢と私たちの未来  作者: ゆりかストロベリー
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第1話 新しい朝

「おはようございます、お嬢様」

「おはよう。五月」

翌朝。執事に起こされた少女、この少女がこの物語の主人公、愛華(あいか)です。愛華は小学3年生の9歳。王子様に憧れを抱いています。

「本日より新たな生活が始まりますね」

「うん。とっても楽しみ、なんだけど・・・」

「どうなさいました?」

「新しい生活が始まる事に楽しみな気持ちはあるんだけど・・・同時に緊張してるんだよね」

「なるほど」

「こんな事言うのは私らしくないかもしれないけど・・・」

「畏まりました。それでは食堂へ参りましょうか」

「えっ?」

「この私がお嬢様を笑顔にしてみせましょう」

「本当に?」

「はい。私にお任せください」

五月の言う事は信じられる。それを知っている愛華は更なる質問を空気と共に飲み込みました。そして食堂に着くと、食卓に置かれたブルーデンファレとかすみ草が活けられた花瓶を見ていたのです。

「お待たせ致しました」

「五月」

「本日の朝食はお嬢様の好物をご用意させていただきました」

「本当!?」

執事である五月の言葉に愛華は目を輝かせました。自分の好きな物が目の前にあると、ついつい目を輝かせてしまう愛華。ちなみに家族にしか見せない表情なのだとか。

「こちらでございます」

「うわぁ~!」

愛華は思わず満面の笑みを浮かべました。目の前にはカリカリにローストしたベーコンとスクランブルエッグをマフィンで挟んだサンドウィッチとコーンポタージュスープ、さらにデザートとして苺ムースが置かれていたのです。

「さすが五月!私の好きな物、分かってる!」

「ありがたき幸せ」

「何だかさっきまで感じてた緊張、忘れられた気がする」

「それはよろしゅうございました。さぁ、絞り立てのオレンジジュースで朝食をお召し上がり下さい。制服へのお召し替えの時間もございますので」

「そうだね。初日から遅刻したら印象悪いし」

そうは言いつつもマイペースな愛華はゆっくり食べています。五月は愛華のその癖を見越しているので、出発する1時間半前(=5時30分)に起こしているのだとか。

「おぉ、愛華。早起きだな」

「あっ、聖夢(せいむ)お兄ちゃん」

「おはようございます。聖夢様」

「五月、俺はいつものを頼む」

「畏まりました」

五月が用意をする為に食堂を離れると、聖夢は愛華の正面に座りました。聖夢は愛華より7歳年上の高校1年生。理系の教科が特に好きで、ほぼ実験オタクと呼べるほどです。

「そうか。今日から新しい毎日が始まるんだな」

「うん。楽しみなんだ」

「せっかく実力で引っ張ってもらえたんだ。頑張れよ」

「もちろん」

実は愛華、音楽に、特にピアノに関して優れた才能を持っているのです。今回の転校は先月にあったピアノコンクールから実現した話なんだとか。

「お嬢様、そろそろお召し替えを」

「もうそんな時間?」

「はい。新しい制服ではお召し替えに時間がかかりますから」

「そっか。じゃあ準備して来る」

そう言って急ぐように愛華は食堂から飛び出して行きました。そんな妹の姿をカプチーノを飲みながら見送った聖夢は、苦笑いを浮かべながら執事を見ました。

「まだ出発まで時間はあると言うのに」

「あのご様子では遅れる可能性が大いにありますので」

「相変わらずだな。五月は」

敢えて妹を急がせる五月に聖夢は呆れるような声を出しました。しかし五月のお陰で愛華のマイペースが直りつつあるのもまた事実。しばらくして桜色のセーラー服に身を包んだ愛華がやって来ました。

「着替えて来たよ」

「今度のところはセーラー服か。桜色で可愛いな」

「でしょ?でもこの若葉色のスカーフが結べなくて・・・」

「俺がやってやる。その代わり、明日からは自分でやるんだぞ」

「は~い」

妹の可愛い姿を見れるのは自分だけだと自負する聖夢は、丁寧にスカーフを結んであげました。それから小さな箱を取り出したのです。

「愛華、ほら」

「お兄ちゃん、これは?」

「プレゼントだ。父さんからのな」

「お父さんから!?」

「あぁ。開けてみな」

「うん!」

愛華はワクワクしながら箱を開けました。すると中には桜色のベルトで文字盤に桜の花が描かれている、シンプルながら可愛いデザインの腕時計が入っていたのです。

「うわぁ~!」

「良かったな、愛華。ずっと腕時計が欲しいって言ってたもんな」

「うん!早速今日から着けて行こうっと」

「そうだな」


「お嬢様、ご支度はよろしいでしょうか?」

「うん。大丈夫」

「では参りましょうか」

「はい」

そして予定通りの朝7時。愛華は自宅の玄関先に停められたリムジンに乗り込みました。聖夢は自分の通う学園までスクールバスで登校しているので愛華と一緒には行きません。

「それじゃあな。愛華」

「うん。帰ったら何があったか教えてあげるね」

「あぁ。楽しみにしているよ」

「お嬢様、そろそろ」

「はい。じゃあ行って来ま~す」

そしてリムジンは愛華が通う学園に向かって走り始めました。今日から通う学園は愛華が暮らす家から40分ほどかかるのです。

「ねぇ、五月」

「何でございますか?お嬢様」

「私が今日から転入する学校ってどんなところなの?」

「桜林学院でございますね。こちらは小学校から大学まで一貫した女子校でございます。そして他校と異なる点は様々な習い事が授業として組み込まれている事です」

「例えば?」

「そうですね・・・、茶道や華道などがそうでしょうか」

「そうなんだ」

「それからもう1つ。桜林学院の規則により、行事の時以外は父兄の立ち入りが禁止されております」

五月から聞こえた言葉に思わず愛華は言葉を失くしてしまいました。今までであれば、例え愛華が断っても五月や兄の聖夢は一緒に居てくれたのです。

「そっか・・・」

「大丈夫でございますよ。お嬢様」

「どうして?お兄ちゃんも五月も居ないのに・・・」

「お嬢様は周りのどなたにでも親切にできます。その優しさがあれば、直ぐにご友人ができますよ」

「そう、かな?」

「はい。そうですとも」

「そっか。五月に言われたら何だか安心して来た」

「それはよろしゅうございました。お嬢様、間もなく到着でございます。右側の窓をご覧ください」

五月に言われた通り右側の窓の外を見ると、桜色の明るい通りの先に純白の時計塔が見えて来ました。そして、その先には桜の紋様が刻まれた重厚そうな門があるのです。


「到着でございます」

「此処?」

「はい。こちらがお嬢様が本日より通学なさる桜林学院でございます」

「綺麗な学校」

愛華は五月にエスコートされて車を降りた場所から正門に向かいました。愛華が正門の前に立つと、門が開いたのです。

「開いた・・・」

「では、お嬢様。私がご一緒できるのは此処まででございます」

「もう平気よ。1人でも平気にならないと」

「左様でございますね。では行ってらっしゃいませ」

「行って来ます」

さぁ、新しい日々の始まりです。

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