サイハテへ向けて②
「……ねぇリオン。サイハテって地図には載ってないんだよね?」
「そのハズだが」
「でもこれ、明らかにサイハテって書いてる気がするんだけど」
「あぁ確かにそう書いてるな」
「「いや何故だ?!」」
思わず二人の声が被る。結構な声量なせいで店のあちこちから怪訝な視線が向けられた。それに苦笑を返した後、リオンがヒソヒソ声でオズを問い詰め出す。
「おいオズ。お前、この地図を何処で手に入れた?!」
「何処でってこれ、(一応)貰いものだし……」
そう。この地図はあの変態幼女から一方的に渡されたものだ。地図についてなど知る由もない。
だがリオンは、そんなオズの言葉に顔を歪める。
「貰った?一体誰に」
「え、えっと。王都でリオンに会う前にぶつかった、幼女に……」
「幼女?」
何故か幼女というキーワードに反応を示したリオンに、畳み掛けるように言い募る。
「そ、そう!その幼女に無理矢理これを!」
そこまで言うと、リオンは考え込む様に顎に手を当てた。
「───お前、これからその幼女とは一切接触するな。いや……、見たら逃げろ」
苦々しげな表情でそう告げるリオンに思わずたじろぐ。だがその顔は真剣そのもので、オズは頷かざるを得なかった。
何故あの幼女に近寄ってはいけないのか。オズには全く分からぬ所だったが、リオンの言葉には何処か説得力がある。
(地図、いつか返せると良いんだけど……)
そんなオズの心中を察してか、「使える物は使っときゃ良いんだよ」とリオンが言い放つ。それに少し心が軽くなった気がしてはにかんだ。
不意に時計を見る。一時半が近く、大分話し込んでいた事に気がついた。どうりで店に入った時よりもお客さんの数が減ったように感じる筈だ。
「そういえばリオン」
「何だ?」
「店出た後、どうするの?」
もちろん今後ともリオンに同行し、《サイハテ》とやらにも着いて行くつもりだが……。そういう意味も込めて尋ねると、オズの出した地図に身を乗り出しながらリオンが指をさしていく。
「イドリーンスには《賢者の地》と呼ばれる聖地が四つ存在するんだ。一つ目はさっきちょろっと言ったけど、王都のかなり外れに当たる、小高い草原」
「あ、あそこの……」
リオンが指した場所は何の因果か、オズがこの世界に飛ばされた場所だった。
(凄い偶然だな)
そんな事もあるのかと思いながらふと疑問を浮かべる。
「ちょっと待って。《賢者の地》って何?それに、リオンの目的地……《サイハテ》と何の関係があるの?」
するとリオンは、顔を顰めながら椅子へと凭れ込んだ。
「この大陸には古い御伽噺があるんだ。結構有名で、他の国でも語り継がれてるぐらいのな。で、その御伽噺の元になったのが《賢者の地》。まぁ簡単に言うと、その話の中に出てくる『約束の四賢者』って奴等を祀ってる場所って事だな」
欠伸をしながら嫌そうに喋るリオン。
よっぽどその御伽話が嫌いなのかこれ以上聞くなと言う様に手を振って、再び地図へと指を戻した。
「とりあえず、今から行くのはこの《賢者の地》。四つ全ての地を訪れてから《サイハテ》に向かう」
確かに、一つづつ通過していけばそのまま一直線に《サイハテ》へと辿り着く。「王都のは行ったからあと三つだな〜」と言うリオンの言葉に、了解の意を込めて頷きを返した。
「取り敢えず、今日は一泊して明日早めに王都を出よう。次の街との間には魔獣が出る地点もあるからな」
何だ。魔獣なんて如何にもおどろおどろしい生物までいるのか。
怯え半分絶望感半分で身震いしながらも、それを隠す様にして一気にキッシュを平らげた。