サイハテへ向けて①
ガヤガヤと賑わう街。道の端にはまるでお祭りのように出店が並んでおり、その中のどれもがオズにとって新鮮なものばかりだった。
「ねぇリオン。この街って、いつもこんな風に賑やかなの?」
右を見ても左を見ても人ばかり。旅のお供ができた事で周りを見る余裕が出てきたのか、オズはキョロキョロと忙しなく目を輝かせた。
「あぁ……この街は一応、王都だからな。外れにはなるけど、城下町でもあるからああやって商人やら腕に覚えのある戦士が集まってくるんだよ」
リオンの言葉通り、重たそうな武器を持った男女や客込みをしている人が大勢見掛けられる。その誰もが生き生きとした表情をしており、此処が良い国なんだという事が感じ取れた。
「へぇ……。!じゃあ、何でリオンは王都に来たの?」
「オレか?オレはある場所を目指してるんだが……そこへ行くには王都を通過しなきゃ行けないからなんだ」
「ある場所?」
「あぁそれに、此処よりも王都の外れにあたる所に探しものがあって……まぁ。それはもう見つかったんだけどな」
何所か重々しいリオンの声音に違和感を覚える。だがそれは一瞬の事で、オズは気のせいかと流した。
「ええっと、探しものって何だったの?」
「ん〜そうだな……。まだ言えない」
まだとは、その内教えてくれるという事だろうか?変に気になるんだから、今この場で言ってくれれば良いのに。
そんなオズの心境を読み取ったのか、リオンが話題を逸らす様に伸びをした。
「そういえば腹空かねぇ?オレ朝何も食ってなくてさ。お昼時が過ぎない内になんか食べとこうぜ」
リオンの言葉に今はお昼時なのかと密かに驚いていた。
今が昼なら、オズがこの場所に飛ばされたのはちょうど午前中という事になる。目覚めた時に見た晴天で何と無くは分かっていたが、雪那を探していた時と時間帯が大幅にズレている事に不信感を抱かずにはいられなかった。
だが、今考えても仕方がないという事とお腹が空いている事に変わりはない。
リオンが「オススメだってさ」とガイド片手に示したお店を見て、激しくお腹が鳴った。
そして、二人が店に入り数分後。
「ふぁいはて?」
リオンから聞かされた耳慣れない単語に、口をモゴモゴさせながら疑問詞を浮かべるオズがいた。これも店に入り注文したキッシュ(というらしい)が運ばれてきた後、周りを伺っていたリオンが徐に口を開いたためである。
その内容とは、先程彼が漏らしていた『ある場所』について。名を《サイハテ》というらしいその場所が、彼の最終的な目的地なのだそうだ。
「ふぁいはてじゃなくてサイハテな。食べ物を口に入れて喋るなよ」
リオンの言葉に慌ててキッシュを飲み込む。
「ご、ごめん。……で、その《サイハテ》ってどういう所なの?」
「《サイハテ》は、王都から南西に進んで行った先に位置する、謂わば辺境の地だ。普段誰も寄り付かない荒れた土地だから地図にも載ってない。だからそこがどんな場所なのか知っている者もおらず、唯一王族しか把握していないと言われている」
そんなリオンの説明に疑問を抱く。
「なんで王族がまた?」
「さぁ?ただ、王族の管轄って事だけは確かだな」
何故そんな地図にも載っていない土地をわざわざ王族が監視しているのか、納得できない。
オズは妙な違和感を覚えながら、「そういえば」と懐からあの地図を取り出した。地図に載っていなくても、最低何処ら辺にあるのか教えて貰おうとそれを開いたのだが……
「───ありゃ?」
あるハズのない名称に、思わず間抜けな声を上げた。そんなオズに反応しリオンも地図を覗き込んでくる。
「なんだ。随分と立派な地図だな……って、はっ?」
かなりの規模で描かれたその地図の左端には、明らかに目立つ字で『サイハテ』と書かれた土地が存在していた。