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氷の女王

作者: クロネコ
掲載日:2013/12/27



   むかしむかし、四季の巡る世界がありました。


  花々の咲き誇る春。


  木々が青々と茂る夏。


  豊かな実りの秋。



  極限と極寒の冬。


  それらの四季は、国中を均等に巡ってゆきます。


  互いに助け合い、支え合う世界でした。





   ある小国に、それは愛らしいお姫様がおりました。

  

  光り輝く黄金色の髪に、象牙色の白い肌。


  天使を連想させる鈴のような声色。

  

  彼女が微笑めば、暖かい春を連想させるよう。


  彼女が、歌えば、花々が咲き誇る。


  お姫様は、世界を心から愛しておりました。


  そして、自然に住まう妖精や精霊からも、慕われていたそうです。


  故にお姫様は、人々から『愛しの姫』と呼ばれておりました。


  優しい両親とお姫様を見守る国民と共に、幸せに満ち溢れた世界を夢見ていたのです。


  その心優しいお姫様に、癒される人々は大勢いたそうです。





   時は流れ、お姫様は、美しい姫君へと成長しました。


  可憐で、お転婆な妖精のように。


  近隣諸国の王族や貴族達が、姫君に愛を囁いてきます。


  けれど姫君は、どんな甘い言葉にも耳を傾けませんでした。


  なぜなら、彼女の心は、ある(モノ)に奪われていたのですから。


  見麗しい容姿を持った、冷たい視線を持った青年です。


  世界では数が少ない、魔術師でした。


  でも、姫君の願いを叶えてきた両親も、彼女を支えてきた臣下達も、その想いを応援できません。


  なぜなら、姫君の想い(ビト)は、人ではなかったのです。


  ヒトの形をしているとはいえ、冷たい氷の化身でした。





   彼は、精霊の中では上級位。


  自然界に住まう、強い力を持った精霊でした。


  元々は、姫君の曽祖父と契約を結んでいたそうです。


  本来ならば、契約を交わした主が死んだ場合、精霊は自然に還ることが決まりでした。


  けれど、ヒトの世界に興味を抱いた青年は、自然には戻らず、ニンゲンとして暮らし始めたのです。


  自然界におけるルールは守った上で、ヒトに様々な知識を与えてくれました。


  中でも姫君は幼い頃から、彼のことを慕い、教えを請いていたそうです。


  誰もが通る、淡い初恋。


  周囲の人々は、いつか敗れるであろう恋を、見守ることしかできませんでした。





   ある時、姫君に縁談が持ち込まれます。


  お相手は、よりも強い力を持った皇国から。


  帝国には、姫君の他、既に数名の側室がいるそうです。


  皇帝は、女性に目がなく、気に入った女性がいれば、すぐに手を出してしまう人物。


  当然、姫君は拒絶します。


  どんな煌びやかな宝石やドレスが贈られても、首を縦に振りません。


  そしてとうとう、相手は、武力見せつけることで、姫君の想いを覆そうとしました。


  最初こそ、姫君の心を尊重しようとしていた両親でさえ、姫君を説得し始めようとします。


  けれど姫君の心は、頑なでした。


  周囲が反対すればするほど、反発するのです。


  これが、悲劇を生むとも気付かずに。





   痺れを切らせた皇国は、戦を仕掛けてきました。


  生まれ育った国から、出てこないのならば、その居場所を奪ってしまえばいい。


  力の差は、圧倒的です。


  近隣諸国も、皇国と手を結び、攻撃してきました。


  人々は、国を捨て、他国へと亡命してゆきます。


  そしてとうとう、国に残ったのは姫君と両親、国に忠誠を捧げた数名の臣下達だけとなってしまいました。


  敗北は、誰の目でもわかること。


  けれど皇国の攻撃は、緩みません。


  皇帝が筆頭となり、姫君の拠り所を、消そうとしておりました。





   次々と世界から消える人々。


  姫君は、押さえつけられる中、見せつけられます。


  大切な者達の命が奪われていく、その光景を。



   「わたし、なんて無力なの・・・?」

   「チカラガホシイ?」


 

  頭に響き渡った声。


  疑う余裕など、姫君にはありませんでした。


  なぜなら、目の前で両親が侵略者によって、手にかけられようとしているのですから。


  他のみんなは、既に事切れております。



   「力が手に入るなら!何だって、するわ?!」

   「ナラバ、ソノココロヲ、ワレニ」



  声と同時に、姫君の手の中に氷でできた短剣が現れました。


  姫君は、何の躊躇もなく、短剣で胸を貫きます。


  痛みはありませんし、血も出てきません。


  貫いた胸からは、何かがこみ上げてきました。


  まるで、押さえつけられていた力が、解放されたかのように。



   「 コ レ が … … … チ カ ラ な の ? … … … わ た し だ け の 。 ナ ン て 、 ス バ ら し い の か し ら … … … 」



  姫君の異変に気づいた皇国の兵達は、ハッとしたように顔を見合わせます。


  けれど、もう間に合いません。


  狂気は、既に姫君の中に宿っていたのですから。




    「ふんッ!最初から、歯向かわなければよいものを………。安心するがいい、お前達の娘は、我が後宮にて、愛でてやる。余が飽きるまで………な?」



  姫君の両親の命を砕き、吐き捨てるように言い放ちました。


  足元には、国を捨てた者達とは違い、馬鹿げた忠誠心のみで歯向かってきた者達の亡骸が転がっております。


  けれど振り向いた瞬間、皇帝の目は驚愕へと変わりました。


  何と、姫君の周りが凍てつき始めていたのです。


  彼女を拘束していた皇国の兵達は、氷漬けとなっております。



   「 ユ ル さ な い 」



  姫君の声は、ゾッとするような冷たさを持っておりました。


  光り輝いていた黄金色の髪は、色を無くし、冷気を放っています。



   「魔物と契約を結んだのか」

   「 だ か ら 、 ナ ニ ? お マ エ は 、 わ た し タ チ に 、 ナ ニ を し た ? 」



  皇帝は、舌打ちします。


  これほどまでの強大な力です。


  いくら、精霊達から慕われていた姫君でも、身につけているとは思えません。


  おそらく、魔の囁きに耳を傾けてしまったのでしょう。


  姫君は、皇国の屈強な兵士達を、瞬時に氷漬けにしております。


  その力は、楽観できるものではありません。


  人の命を簡単に凍らせてしまう力。


  本来、人々の間に伝えられている魔法の中には、そこまで大きな力はないのですから。


  けれど、魔と契約を結んだ者は、通常ではありえない力を発揮すると言われておりました。


  しかも契約した魔と同じ寿命を持つと言われているのです。


  倒す方法は、契約を結んだ直後、力が互いに馴染む前に殺してしまうしかありません。





   皇帝は、美しい姫君を惜しいと思う反面、異形と化してしまった侮蔑を込め、剣を振り下ろしました。


  けれど、その攻撃は、姫君へ届きません。


  なぜなら、剣は氷によって、遮られてしまったのですから。


  一撃で終わらせる為、渾身の力を込めていた。


  けれど、いとも簡単に、止められてしまったのです。



   「 お マ エ は 、 わ た し の テ キ 」



  姫君は、凍てついた微笑みを浮かべておりました。


  もう、あの暖かい笑顔ではありません。


  氷のような生気を失った笑みです。


  その後、国中が凍てついてゆきました。


  まるで、全てを拒絶するように、氷で囲まれていったのです。


  そして、近隣諸国の前に、冷気を放った王が姿を現しました。


  透き通った白い肌に、銀色の髪をなびかせた美しい女です。


  その美しさには、冷酷なまでの刺があります。


  彼女の心は、決して溶けない氷によって、閉ざされておりました。





   その後、世界の四季から、冬が消えました。


  春から夏、秋へと巡ってゆき、また春が世界に訪れるのです。


  まるで最初から、存在していなかったかのように。


  人々は、口々に言います。


  氷の女王に、決して歯向かってはいけない。


  1人でも、彼女に刃を向けてしまえば、その者の大切な者達も、冷酷な裁きを受ける。


   凍てつく心は、誰にも溶かすことはできないと。


   親は、子供達に忠告します。


   悪いことをすれば、氷の女王が微笑むと。


   女王の微笑みで、氷漬けにされても知らないぞと。


   氷の女王は、何もかも見ているのだから。


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