学校で。
席は教壇を前にして、列は六列あって、男女交互になっている。
俺の席は窓際一列目の一番後ろだ。
本当にいい席である。
尋斗は三列目の真ん中らへん。
祐磨は四列目の一番後ろ。
友理乃も四列目の一番前。
なんか、俺だけが仲間外れにされているような感覚に陥る。
(ああ、俺しか「指令」の内容知らないし。この教室に守護精霊を身に宿している奴がいるかも知れないし、見てみるか。)
俺はぼんやり教室を見回す。
特に女子を万遍無く見たが、すぐにこの教室にいないのがわかって、(ですよね~。)と心の中で呟く。
「お~い、そこのぼんやりしてる奴」
すると、左耳から何となく聞こえてきた若干けだるそうな声の主を見る。
そいつは椅子の背もたれに頭を置いて、俺を見ている。
「お、自覚あったんだな」
「初対面の相手にそれはないだろ」
「いやいや、初対面じゃないぞ。ほら、入学式のときに一緒に愚痴ったじゃ
ねぇか」
「ん、あ~、前から話しかけてきた。え~と」
「俺は草部敦喜だ、よろしくな」
整えているのか、それとも寝癖なのかわからない髪型をした草部敦喜は頭をあげて自己紹介しながら握手を求めてきた。
「俺は清水八束。よろしく」
握手を交わした。
どうやら、俺にも高校の友達ができたらしい.....いや、まだ気が早いな。
友達候補と言うべきかも。
「清水か。あいうえお、かきくけこ、さしすせそ。だから」
手を離すと、草部は何かを考え始めた。
「何を考えてんだ?」
こいつからも守護精霊は感じられない。
「いや、俺は草部で、お前は清水だろ」
草部は自分に指をさして、次に俺を指さす。
「それがどうしたんだ?」
「席はだいたい、あいうえお順で並んで、俺達は男の一列目にいる訳だ」
「ああ、そうだな」
「縦に七席、横に六席。きれいに並んで、計算だと四十二席だ。あ、これはどうでもいいな」
「何が言いたいんだ」
「俺が言いたいのは!」
草部がそういうと都合よくプリントの束を持った先生が入ってきた。
「あ、先生が来た」
すると、急いで俺に向けていた体を前になおして、ちゃんと座る。
「おい、何なんだよ! 気になるじゃないか!?」
「そこの君、うるさいですよ」
「す、すいません」
俺は思わず、大きな声を出してしまい、先生に怒られてしまった。
教室中の視線が俺に注がれる。
尋斗は「あっちゃ~」と言わんばかりに手をおでこに当て、夏実は俺を見ながら握り拳をつくり、友理乃は苦笑いをしていた。
草部の背中が小刻みに揺れている。
(笑ってるな? 笑ってるよな!? こいつ、わざとやりやがったな! 後で覚えてやがれ!)
「今日、このクラスの担任になる鈴木先生は体調不良で休んでいます。ですので、今から配るプリントをもらい次第、他のクラスの邪魔にならないよう、静かに下校してください」
教団に立ち、そう言った四角い眼鏡をかけたその男の先生は配りやすいように積まれたプリントを手早く列の先頭に渡していく。
(そういや、入学式の時、五組の担任だけいなかったな。しかし、先生が体調
不良は問題だろ。もしかして、担任は病弱なのか?)
俺はそんなことを考えながら、草部から回ってくるプリントを受け取って軽く目を通して全部もらい終えるとまとめて鞄の中に納めた。
「プリントを配り終えたので、静かに下校してください」
眼鏡先生はそう言うとさっさと教室を出ていく。
(帰るとするか。人探しとは言え、他のクラスの邪魔をするわけにはいかないし。)
「清水、またな」
「ああ、って帰るの早いな。あいつ」
草部はカバンを持った手を肩において、教室を出ていく。
その後ろ姿を見ていると夏実が近づいてきた。
「あんた、また余計な事したわね!」
「いや、あれは俺のせいじゃなくて。この席の草部がだな! あっ、仕返しす
るの忘れた!」
「そんなことどうでもいいのよ! あんたが変に目立つと関わってるアタシ達にも迷惑なの! わかってんの!?」
夏実は俺を睨み付け、まっすぐ指を差す。
「うっ」
「まぁまぁ。夏実、落ち着いて」
「そうだよ、皆がこっち見てるし」
尋斗の言う通り、注目の的になってしまっている。しかも、こんな大声を出しては他のクラスの迷惑だ。
「ああ、もう終わった。アタシの平穏無事な高校生活.......」
夏実は脱力して、ぺたりと床に座り込み俯く。
悪い兆候だ。
「そんなに落ち込まないで。あ、そうだ。これから遊ばない?」
ぱんっと手を叩いた友理乃が機転を利かして、俺達に目配りをする。
「いいね、入学祝いにパッと遊ぶか」
俺は友理乃の提案に迷うことなく乗っかる。
「でも、制服で行くのは嫌よ」
まだへたり込んでいる夏実は顔を起こして、無気力ながら言う。
「じゃあ、一度、家に帰ってからあの公園で集合でどうかな? あそこなら駅も近いしさ」
尋斗がそう言うと友理乃は二回頷き、夏実もゆっくり頷く。
「そうと決まれば、早く帰ろうぜ。夏実も、ほら」
俺が手を差し伸べると、一度掴もうとしたが、すぐに手を引っ込める。
「いい、自分で立てるから。遊んでストレス発散するわよ!」
夏実はそそくさと立ち上がり、自分の席のカバンを手に取り、教室を出ていく。俺達もその後ろについていく。
「やれやれだね」
「まったくだ」
「八束君のせいだからね」
「わかってるよ」
「三人で何、話してんの?」
「何でもねぇよ」
「あっそ、どこにいこっかな~♪」
落ち込んでいる夏実はすごく無気力で何もしたがらない。でも、上機嫌になると、後ろ姿を見るだけでも活力に満ちているのがわかる。伊達にこの四人で一緒に中学時代を過ごしていない。各々がどういう性格か、わかりあっている。
(そういえば、今、探している女子もこの輪の中に入ることになるのだろうか)
俺はなんとなく後ろを振り返り、思っていたよりも長い廊下を眺めた。




