繋がり
「さて、本当のような冗談はこれくらいにしておいて、本題に入りましょうか」
牢獄じみた教会の話から、ここに居るみんなのこれからの話になる。
八束たち人間側とティナや守護精霊たちの異世界側のこれから。
「皆さんもお気づきだと思いますが、私たち異世界の住人は元の世界に戻り、八束さんたちとの接触を切ることになります」
みんな黙り込む、水鏡も目をつむり、何も言いださない。
元々は離れて存在し合っていた世界が今のようにつながっていることの方がおかしなことなのだ。
それが元に戻るということ、ただそれだけ。
「悪魔姉妹はもちろん、皆さんの守護精霊たちと私は元の世界に戻ることになります。ただ、一つだけ例外があります。それは、穂紀さんとラファさんです」
「え??」
「ん??」
穂紀はきょとんと目を丸め、ラファは可愛らしく首を傾げる。
「八束さん達とは違い、お二人は特別は繋がりを穂紀さんが幼い頃に持っていました。つまり、今回のこととは全く別の案件になるため対象外になるんです」
「じゃあ、穂紀とラファは俺たちみたいに別れずに済むってことか」
「そうなります」
「わ~い!! これからもほのりといっしょ~♪」
「そ、そうだね~……でも」
ラファは穂紀の手を両手で包み、軽く兎のように可愛らしく跳ねる。
しかし、穂紀は申し訳なさそうに八束たちを見る。
自分達だけ良いのかなと。
「僕たちに気を遣うことないよ」
「あ、ありがとう」
後ろめたさはあったが、やはり、ラファと一緒に居られる事が嬉しい。
「喜んでいる所、悪いのですが、二人の関係が発覚したことでまた違う案件が浮上してしまいました。それはこの世界と精霊界との繋がりが完全には切れないということ。二つの世界が小さな事でも繋がりがあれば、どこからか、何かが変わっていく可能性が出てくるのです」
「何か……」
「何が起こるかわかりません。私の主様もわかりえないとのことです。強制的に二人の関係を断ち切るのも可能ですが、私も主様もそれは望んではいません。お二人は特別な関係ですし、運命めいたものを感じます」
「それじゃあ、どうするの? 二人の関係があれば、良くも悪くも何かが起きちゃうんでしょ?」
「はい。なので、対策として、八束さんとヴァスクさんにも特別な繋がりを持ってもらおうと思います」
「「はい?」」
声は重なり、こちらも息があっている。
「八束達だけ? 私達はダメなの?」
「はい。天使以外の守護精霊は、宿り主に影響を与える事があります。ドラゴンなら口から火を吐くようになり、グリフォンでは背に大鷲の翼が生え、妖精は体が小さくなってしまい、こちらの世界を混乱させかねません。ですが、天使は目に見えない所で影響を与える事が出来るんです。影響は様々ですが、自発的に混乱を招くことはないでしょう」
「そう」
夏美は少し納得がいかないまでも、ティナの言うことはこれまで嘘は無かったことから仕方なく肩を落とす。
「特別な繋がりっていったい、どうすれば、成り立つんだ?」
「やり方は様々ですが、今回はお二人の体調が整い次第、儀式で執り行う事に致しましょう。繋がりが強く結ばれますから、不安定なままでは私が居なくなった後に何かあっては困るので」
「ということは、まだしばらくはみんな一緒に居れるってこと?」
「そうなりますね。悪魔達の身柄も確保出来たので指令もありませんから」
すっと立ち上がったティナは、窓辺まで歩いていき、窓に頭を持たれさせていた。
ティナの顔を見た水鏡は、今まで目立って動いていなかったが、決まり悪そうに首をさする。
「さてと、もう夕暮れですね。皆さんはちゃんとお家に帰ってください。そして、守護精霊と短いかも知れませんが、一緒の時間を分かちあってくださいね」
「俺とヴァスクも帰っていいのか?」
「私が帰すと思いますか?」
「ですよね〜」
ティナの満面の笑みにたじろぐ八束は苦笑いで返す。
「大丈夫です、八束君の家族には皆さんとお泊まりしてもらうって事にしておきますから。あっ! なんなら皆さん、ここに泊まっていきますか?」
「「「牢獄みたいな教会には泊まりません」」」
「ざーんねん」
少し冗談が過ぎたかしらと思うティナと、そんな教会に泊まるのかと心配になる八束だった。
そして、席を立ち、椅子を片付けた水鏡は一人静かに扉を閉めるのであった。
その夜、八束とヴァスクはいつもの寝床ではなく、寝付けぬ夜を過ごしていた。
二人共、枕が変わっては眠れない質のようだ。
「話の流れで俺達が特別な繋がりを作って、ヴァスクも元の世界に戻れなくなっちまったな」
「オレは別に構いやしねェんだが、ラファの居場所がわかった事たんだからせめて、叔母さん達に直接言いたかったな」
そう、ラファは魔法で人間界へと辿り着いた。
そこで初めて出会ったのが幼い穂紀で、ラファが気に入って、自ら穂紀の守護精霊になったと聞いた。
ヴァスクとラファは天使ということもあって、親戚にあたる関係だった。
しかも、関わりも少なからずあったとか。
ラファを見つけた後、ヴァスクがこっぴどく叱っていたが、その後はラファも安心したのか、あたかも妹のように甘えていた。
「でも、俺達が特別な繋がりを作るってのはちょっと気持ちが悪いな」
「それは同感だ。仲が悪くはないが、お前とずっと一緒なのはもううんざりだ」
「うんざりは言いすぎだろ! 気色悪い位にしとけよ!」
「いや、それあんまかわってねェからな?」
少し大きな声で言い合いになってしまうのは、いつもの事だった。
ヴァスクが八束を小馬鹿にするのは、二人の中ではもはや定番のやり取りで逆の事にはならないし、これが二人の繋がり。
これ以上もこれ以下もないのだ。
そこに『特別な繋がり』と言われた日には、何かが変わってしまうのではないか、こうやって馬鹿が出来ないのじゃないかと感じた。
「実際になって、変わらないとも思うんだけどな」
「あぁ、そうだな」
ついには、しんみりと二人黙ってしまった。
指令が終わって、落ち着いてもいいのに落ち着かない。
また、変わらなければいけない事が二人をうつむかせた。
コンコン。
誰かが扉をノックしてきた。
いや、誰なのかはもう分かっている。
「起きているかしら?」
「起きてるよ」
「少し話をしたいのだけれど……」
八束とヴァスクは、意外そうに視線を合わせた。
まさか、水鏡から話があるなどと言われるとは思っていなかったのだ。
「構わないけど、そこからは出れないだろ?」
「そうみたいね。あのエルフさんは用心深いのね、そんなことしないのに」
念の為、ティナが八束の寝る時だけ鍵を締めるようにしてくれていた。
もし、水鏡が八束の寝込みを襲うようなことがあってはいけないから。
「まぁ、いいわ。扉越しで話をしましょ。扉に背をつけてくれるかしら、そうすれば大きな声を出さずに済むわ」
「分かった」
八束は掛け布団を体に被せ、水鏡と扉越しに背をつける。
ヴァスクは何が起きても対応できるように窓の縁に寝転がった。
ちょうど窓からは大きな月が煌々と夜中の木々を照らしていた。




