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守護精霊につき!  作者: 松代 彩瓦
指令 『悪魔姉妹の回収』
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指令達成と……

 太陽がちょうど一番高い所へと昇る頃に八束は目を覚ました。

 体を起こして、辺りを見回すと見たことのあるテーブル、椅子。

 そして、子供の頃と同じような状況でお世話になるベッドだ。


「あの頃よりも小さく見えるな」


「そう感じるのは、八束君自身が大きくなったからですね」


 八束がしんみりと独り言を言っていると、部屋に入ってきたのはティナだった。

 前とは違って、水ではなく、湯気のたつティーカップを二つをトレイに乗せて持ってきてくれた。


「あれから5年になるんですか。早っかった気がします」


「一生懸命のうちは、長さなんてわからないものですよ」


 はい、どうぞと受け皿に乗ったティーカップを渡され、その中身をのぞき込む。

 どうやら、紅茶のようだ。

 透き通った茶色に少し甘い香りがする。


「ふふ、毒なんて入ってませんからね」


「ティナの淹れてくれたのを疑わないって!」


 お互いにあの頃を思い出していた。

 初めてヴァスクと、謎のシスターであったティナと話したあの頃を。

 今となっては、ティナもシスター帽を脱いで、笑いあえている。

 その紅茶を軽く飲む。

 おいしいっと、そう思った八束だが……眉をしかめる。


(なんか忘れてないか? 結構、大変なこと……。)


「八束君、ティーカップ預かりますよ?」


「あ、うん、ありがとう……」


 ティナに渡して、さらに皺を深く考える。

 なにか忘れてないか?

 大変なことなのはわかるんだが、なんで思い出せない……。

 というか、なんで教会のベッドで寝てんだ?


「気分はどうですか? 送られてきたときは血まみれで驚きましたよ」


「血まみれ、俺が?」


「そうですよ。八束さんの血ではなかったのでよかったですが」

 

「血まみれなのに……俺の血じゃない……っ!!」


 自分の血じゃないの、血まみれ。

 その血は返り血であり、その血は「誰」のだ?

 思い出す。

 穂紀に水鏡の刀が突き刺さり、その返り血が自分にかかったことを。

 そして、そのショックで気絶したことを思い出す。


「ティナ!! 斎条は!? いや、穂紀が!! 俺をかばって……っ」


 自分の力の無さで、穂紀が死んでしまった。

 自分のせいで……っと考える八束は、みるみるうちに血の気が失せていく。

 だが。


「八束君、大丈夫よ。穂紀ちゃんは生きてます。じゃなきゃ、あなたがここにいないはずよ」


 そう、回収キット。

 通称、テレポート担架――五人まで運べる異世界アイテム。

 水鏡との交渉に失敗した場合、戦闘になると見越して、ティナが穂紀に渡していたのだ。


「でもっ、穂紀以外にもそれは使えるはずだ! 尋斗や夏美、友理乃だって……」


 言っていて八束自身、気づく。

 あの状況で動くことができたのは、水鏡と穂紀に八束自身だったことを。

 

「本当に……穂紀は無事なんですか?」


「大丈夫ですよ。私は魔法でこっそり見てましたから確かです♪」


「はは、なら、安心です」


「とりあえず、紅茶を飲んで落ち着いてください」


「ありがとうございます」


「水鏡さんと、二人の悪魔も八束君同様。こちらに運ばれているので、目が覚めたらお話をしないと」


「アイツらも無事だったのか、よかった」


 紅茶を飲んで、少し口調が戻ってきた。


「ラファさんの思い伝えるちゃんがなかったら、三人ともいえ、みんな危なかったでしょうね」


「お、思い伝えるちゃん??」


「思い人、日頃感謝の気持ちを伝えられない人へ。使用者の代わり気持ちを伝える異世界アイテムです♪ ラファさんにもそういう人がいるんですかね♪ ふふ」


「そんなもんがあるのか、異世界はすごいな」


「ちなみに、男の子バージョンの思い伝えるくんもありますよ♪ いりますか?」


 懐から出された人形を飲み終えたカップと交換で八束に渡す。

 受け取った八束はそれをみて、どことなく小さい頃の自分に似ている気がした。


「貰っとこうかな」


「はい、大事にしてくださいね」


 もらって嬉しくもあったが、どことなく寂しさを感じていた。

 それは今回の指令、『悪魔姉妹とその宿り主を捕まえろ』が無事に成功したからだ。

 エルフのティナがここに居る理由、八束達に守護精霊が憑いている理由の全てはこの指令を達成するため。

 その指令が達成された今、ティナと守護精霊達の存在理由がなくなり、元の世界へと帰らなければならない。

 あの悪魔たちも、水鏡のもとから離れることにもなるんだろう。


「これから俺たちはどうなるんでしょうか?」


「どうもなりません。元に戻るだけです」


 人形を見つめたままの八束をよそ目に、ティナは立ち上がり、窓際へとゆっくり歩いていく。

 ゆっくり……ゆっくりと。

 

「私たちは元の世界に戻り、八束君たちは普通の高校生に戻って大人になっていくだけ。二つの世界の干渉が無くなり、元に戻る」


 日に当たって暖かくなった窓ガラスに優しく手を添える。

 触れてしまったら壊れてしまうのではないか、そう感じさせる程に優しく。


「元に戻る……。俺たちはティナ達のことを覚えていていいのか?」


「確かに、記憶を抹消する事はこちらにとって良い事なのかもしれません。ただ、私は皆さんを覚えていたい。そして、私を守護精霊の皆さんを覚えていてほしい」


「お前の気持ちだけでやっていいのか?」


 心配そうに聞く八束だったが、それとは裏腹に腕組して振り向いたティナは得意げで。


「ふふ、私が仕えている方は指令を出すには出しますが、細かい事は私に丸投げなんです。信頼の証ですね!」


 ドヤ顔を見せるほどであった。

 

「ドヤ顔するとこか?」


 そういう八束は、その表情に安心するもまた視線を人形に戻す。 


「俺もみんなのこと、この件を忘れることで忘れてしまう関係も含めて忘れたくない。穂紀とラファ、敵同士になっちまった水鏡とエバリエにカリジナ。ヴァスク達に、もちろん、ティナもな」


「もちろんです! 忘れたら承知しませんよ!」


 破裂するんじゃないかというぐらいにふくれっ面を披露するティナに八束は笑うしかなかった。


「やっと笑ってくれましたね」


「あ、すみません。なんか一人暗くなっちゃいました」


「いいんです。私も五人が眠っている間は今までのこと思い出していましたから……」


 八束に微笑みかけるティナの眼尻は、ほのかに赤みを帯びていたことに気づいた。

 ティナも八束と変わらず、達成したことよりも寂しさが上回っていたのかもしれない。


「あの、これからどうする――」


 そう言いかけたとき、教会の大きな扉が盛大に音を立てた。

 それはもう、建物全体がシンバルのように振動し、騒音を響かせた。


「ふふ、皆さんが来たみたいですね」


「主犯は夏美に決定だな」


 八束の愉快な仲間たちは一目散にティナの部屋に集結し、八束の無事を見るなり、四者四様のリアクションを取るのであった。


『俺のこと、忘れてないか?』


「お前も無事でよかったよ、ヴァスク」


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