初陣
ガシャーン!!
ガラスは八束の体に割れ、五階から無抵抗に地面へと叩きつけられる。
八束自身はというと、多少ガラスで切り傷を作ったものの地面にふんわりと降りる。
「さすがに、ガラスを割って飛び降りるのは怖いもんだな」
(まったく、無茶してくれる。対応するこっちの身にもなってほしいもんだ。)
「悪いな」
そう話す二人だが、ヴァスクの姿はなく、八束の両手には武器が握られていた。
左手には自動小銃、右手には脇差みたく短めの剣。
剣は刀のように鋭い刃をしているが、両刃であるがゆえに洋刀の見た目をしている。
「久しぶりに持つと、なんか変な感じがするな」
(ただ久しぶりなだけだろ。)
八束たちの後方に水鏡が後を追って、降りてきた。
握られた刀は変わらず、赤々と光って、こちらを睨んでいるように感じられる。
「ここなら存分にやりあえる、とでも言いたいのかしら?」
「そうだな。教室の中じゃ戦いにくいし、穂紀とラファ、エバリエにも攻撃が当たるかもしれないからな」
「ふふ、正義のヒーローさんは余裕もないくせに、戦えない敵にも優しいわね。ただ威勢を張るだけにウチの子を引き合いに出さないでくれるかしら。うざいだけよ」
「気に障ったなら謝るぜ。お互いに戦いやすくなっただろって言いたかったんだ。別に俺は正義のヒーローほど真人間じゃないし」
「でも、そっちには異世界のシスターが居て、悪いことをした天使。悪魔を私から引き離して、異世界で裁判でもするつもりなんでしょ? それなら、正義と言ってもいいんじゃないかしら」
「確かに言える……が、お前からしたらこっちは悪者だろ。家族と思ってるその子達をつれていこうとしてるんだからな」
「当然よ。だから、アンタを殺すつもりでこの刀を握ったわ。この子達を守るためにね」
「守る……ね。だったら、なんでエバリエを助けない? 俺たちが離れた教室で結界を壊せば、すぐに助けられただろ。俺からしたら『あとは、カリジナだけ』と集中できちゃうんだぜ?」
「あの子は、前の戦いでケガをしてるからアンタんとこの結界の中がちょうどいいのよ。居ても邪魔だわ」
「そうかい。なら、その刀。カリジナの身柄確保もさせてもらおうか」
「できるの?」
「できるさ。楽観的に考えられるのは俺の唯一の取柄なんでな!!」
そう言って、素早く拳銃を構え、二発連続で放つ。
さも当然のごとく、刀で銃弾を弾き、鼻で笑い、「この程度、なんとも」と言おうとするも姿がない。
「えらく余裕だな。剣士が背後を取られるとか余裕どころじゃないだろうけど」
やっきになって、背後へと右薙ぎ払いをするも、またも姿がない。
「どうした? お前の剣の腕はその程度か?」
「挑発のつもりかもしれないけど、私はアンタと違って、こうやって戦うのは初めてなのだから当然よ。むしろ、なんでそっちは本気で来ないの? もしかして、ビビってる?」
「まさか。すぐに目的達成しちまったら、面白くないだろ。それだけだ。」
「戯言を言っていられるのも今のうちよ!!」
一瞬、水鏡の姿が消えたと思えば、八束の目の前。
つまり、刀の間合いまで一気に詰めたが。
上段から振られる一太刀を余裕綽々と避け、二・三歩距離を取る。
「おっとー。へえ~、いい動きをするな。さすがは、剣道部の一番手ってところか」
「先鋒」
「ん?」
「一番手じゃなくて、先鋒って言うの。馬鹿にしないで」
「別に馬鹿にしたわけじゃないが、悪かった」
「次は、当てる」
「やってみせてくれよ」
お互いに構える。
水鏡は、剣道に則った構え。
八束は、ボクサーの両手に銃と剣を持たせたような構え。
どちらも、次の動作に移行しやすい。
しばらく、見合って動かずにいたが、先に動いたのは水鏡だった。
さっき同様、一気に詰め寄り、突きを繰り出す。
避けられる、これも同様、しかし。
後方へ避けた八束に、さらにもう一突き。
さすがに予想だにしていなかった八束は、その突きを剣で払う。
まだ水鏡からの攻撃は終わらない。
払われた刀を立て直さず、地面までつけ、ついた時に刃を返し、踏み込んでいたからか、軽く地面に刺さった刀を斜めに切り上げる。
すると、土が八束の視界を少し曇らせた。
何とか地に足をつけれた八束は、その太刀筋を紙一重でかわし、さらに後方へ。
ここで水鏡の猛追は終わり、刀を下す。
だが、気は張っている。
銃での攻撃を待っているかのように。
「撃たないの?」
「ああ。ここで撃てば、お前の思い通りだからな」
「突きは読めなかったのに、そこは読めるのね。感心したわ」
「伊達に、悪魔たちと戦ってないからな。感覚的にわかる」
「そろそろ、この子の力を使ってかまわないかしら。あなたの病み上がりの体も少しは動かせるようになったでしょうし」
「なんだ。お前もなんだかんだで気遣ったことできるじゃないか」
「気遣い? 違うわね。さっきのはあわよくば、力を使わずに殺せるか試しただけよ。次は、力を使って殺してあげる」
「そいつぁ~、怖いな。こっちも力を使って、身柄確保とさせてもらおうか」
また構える。
静かに。
そして、猛々しく。
片や、命を狙い、片や、家族を狙う。
互いの奪われるわけにはいかないものを懸けて。




