彼女の事情
〔ラファは、こことは違う世界で家族と仲良く、時々、喧嘩もしながら、いろいろして過ごしていました。そんなある日、ヴァスクさんが魔法の勉強をしているのを見て、ラファも便利な魔法を覚えたいと思って、家族やヴァスクさんに黙って勉強していました。〕
〔お前、そんなことしてたのか…〕
〔勉強した甲斐あって、ラファは物質の召喚魔法を覚えました。〕
〔はァ!? なんで、そんな魔法を覚えたんだよ?〕
〔ズバリ便利だからです! ただ、強い意志でないとちゃんと召喚することができないので、自由人なラファには使いにくかったのです。〕
「今、使えるのか?」
〔使えますよ? 何か、出してほしいものはありますか?〕
〔はいはい! フェリア、パンケーキ食べたい!〕
〔パンケーキですね…。でも、あまり期待しないでくださいね?〕
そう言って、ラファは両手を組んで祈りを捧げるようにして、八束達にわからない言語で何かを唱えると、両手が輝きだして、それを長椅子の上に放り投げるようにすると、一瞬弾けたと思うと、そこには…
〔おー、明日のほのりのパンツがでましたね☆〕
渾身のテヘペロを繰り出すラファである。
「八束ァ!! 歯をくしばれぇーーー!!!」
「なんで、俺だk、えぶあぁーーー!!!」
夏実の堅く重い右ストレートが右頬を捕え、軽く回転しながら後ろに飛ぶ八束はかわいそうな事に頬を腫らしながら気絶した。
「尋斗はとっさに顔をそらしたから、ギリセーフよ」
リュウも無言でうなずいた。
「八束も災難だね。グライフ、手伝って」
「かしこまりました」
尋斗とグライフは八束の介抱をして、友理乃は例の布切れを丁寧に回収する。
「ちゃんと返しておかないとね」
〔うー、パンツじゃなくてパンケーキだよ~…〕
「また、作ってあげるね」
〔わ~い、ありがとう!! 友理乃、好き~♪〕
友理乃の肩に乗っているフェリアは小さいながら、頬を擦り合せる。
〔話が逸れましたね。〕
「アンタも穂紀に謝っておきなさいよ?」
〔わかってますよ、うるさいですね。〕
ラファの態度に怒りを覚える夏実だったが、首を振るリュウを見て、気持ちを押しとどめた。
〔次に、ラファは瞬間移動の魔法を覚えました。〕
〔なんだ、えらく初歩的な魔法を覚えたな。〕
〔やはり、ヴァスクさんはそう思いますよね…。しかし、ラファの瞬間移動はそんな生ぬるいものではないのです! なにせ、ここに来られたのもこの魔法のおかげなのですから。〕
〔お前、まさか…〕
〔そう! ラファが覚えたのは、世界の垣根さえも越える瞬間移動の魔法! この魔法はその中で最長移動範囲を持つ! その名もっ、いたい。 なんで叩くんですか!〕
ラファの口ぶりからわかるように、その魔法でラファは家族のもとを離れ、この世界に来た事にヴァスクの気持ちは昂った。
〔お前はどれだけ俺たちが心配したと思っているんだ!! 突然、肉親がいなくなったと思えば、十年も行方不明で、親父さんたちなんて生きる気力さえも失いかけたんだぞ!!〕
〔あ、大丈夫ですよ。昨日、謝りに行った来たので。さすがにこっぴどく怒られましたけど…〕
そんなラファの言葉にシリアスの空気は、どこかに吹き飛んでしまった。
〔俺にも謝れ!!〕
〔え、あー、ごめんなさい。〕
ボロボロと泣くヴァスクに面食らいながら、ラファは謝った。
「でも、その魔法でこっちに来れたなら、来た時にすぐ帰れたんじゃないの?」
〔よく聞いてくれました! それがですね! ラファはこの世界に瞬間移動が成功して、喜んでたんですよ! すぐ帰ろうと思ったんですけど、移動した先がほのりの家で、留守番していたほのりに姿を見られてしまったんです! でもですね、小さい頃のほのりがあまりに可愛くて! それからというもの、私は鼠の姿になって一緒に過ごしていたら、魔力が低下してしまっていて、帰るに帰られなかったんです。 でも、ほのりと一緒にいれるなら、帰らなくてもいいかなって思いましたね! ラファはほのりが好きですから!〕
全身筋肉痛が嘘のように、友理乃に寄っていって、フェリアのふくれっ面をもろともせずに、ハイテンションかつ、これまでになく饒舌で、さらにオーバーアクションで、見ている友理乃もタジタジだ。
だが、タジタジなのはラファに対してではなく、後ろのヴァスクに対してである。
〔そんな理由で、帰ってこなかったのかァ? ラファ=タブリス。〕
小さい姿のままだが、その怒気は巨人が今にも襲いかかってきそうなもので、フェリアは友理乃の後ろに隠れた。
〔な、なんで、そ、そそそんなに怒ってい、いらっしゃるでしょうか? ヴァスク=ラグエルさん〕
後ろを向く前から顔を青くして、ヴァスクと対面するとさらに顔を青くしてもう血の気が失せていて、口もガクガクと震えていた。
〔なんでというか!!? こっちでもまた鼠にして、檻の中に閉じ込めて、ひもじい思いをさせてやる!!〕
〔ひィ!! やめて!! あれはもうトラウマだから!!〕
二人は天井の高い教会を飛び回る、時々、ヴァスクが何かの魔法を飛ばして、ラファが避けると壁に当たり、埃が落ちてきて、汚れていく。
「コラ!! 二人とも飛び回ったら、ダメだって!!」
「そ、そうだ! そんなことしちゃ…」
そうこうしていると、教壇の近くの扉がキィと不気味に開いた。
その音は教会の中のどの音よりも響いて、みんなの耳に届いた。
三人には、この体験は二度目だ。
守護精霊を宿して間もない頃、珍しい教会で遊び騒いでしまった時と同じ……
「皆さん、騒がしいですよ?」
最初こそ優しい口調で笑みを浮かべているが、
「指令として、今日の午後から教会の掃除をしてくださいね?」
徐々にその笑みに怒気が混ざる事で、とてつもない怖さを覚え始める。
そして、指令という事は、絶対遵守であり、やらないわけにはいかない。
そう、シスターこそ唯一怒らしてはいけない人なのである。
こうして、四人の、そして、守護精霊たちの午後の予定は埋まったのであった。




