昼時の騒動 Ⅱ
『あぁ~、やっと着いた』
『それで、天使の宿り主ちゃんは~……』
ヴァスク達はガチャガチャと扉を何回も開けようとしている女子生徒を見つけた。
「ふぇ~、なんで開かないんですかぁ~?」
『あいつで間違いないな』
ヴァスクは腕組をしてそう言う。
『浮いてるっていう理由がよくわかりますね』
フェリアは、その女子生徒を残念そうに見ながら呟く。
ドラゴンもどこか残念そうに頷く。
離れた所から見てもその子は小柄で、髪の長さはセミロング、第一印象では小動物のイメージで、天使を守護精霊にしているような感じはしない。それは八束にも言えるが.......。
守護精霊の気配に気づいたのか、それとも小動物ばりの警戒心からか、ヴァスク達の存在に気が付いた。
「だ、誰ですか!? 今さっきまで私以外にいなかったのに!!」
『脅かして悪かった。俺達は....』
「ちょっと待って!」
その生徒は、三人の所まで近づくと、顔を見回して、フェリアに目を止める。
『な、なんですか!?』
「もしかして、妖精さんですか!?」
『そうですが...、それがなんですかぁ~!』
フェリアがそう言い終わる前に欲望を抑えきれなくなった両手が襲いかかる。
「きゃあ~、すごく可愛い~♪ 妖精さんに会えるなんて感激です!!」
『やめて、やめてください~! 苦しいです....』
『おい、小娘。フェリアを放せ、苦しそうだろうが』
ヴァスクがその生徒の目の前でそう言うと、我に戻ったようで「あっ」とフェリアを捕まえていた手を開いて、その隙に逃げ出して、ドラゴンの後ろに逃げ込んだ。
「ごめんなさい、ついテンションが上がってしまって....。ごめんね、妖精ちゃん」
フェリアはドラゴンの後ろから、おびえながら『いえ、お気になさらず』と呟く。
『ったく、話が進みやしねェ....』
グリフォンに乗ってきた尋斗達がやっとの事で屋上まで来た。
「お疲れ様、グライフ」
「ありがと」
『少し疲れましたが、お役に立てたなら』
と言いながら、等身大から小さい姿になった。
「で、ヴァスク。天使の宿り主は見つかった....の」
夏実はヴァスクを見ていたのだが、ヴァスク達の前に腰を抜かしている女子高生に視線を落とす。
『見てわかると思うが...、こいつだ』
「何なんですか...。もしかして、夢を見てるんですか? 天使に妖精、ドラゴンにグリフォンまでどうなっちゃってるんですか....」
独り言のように呟いている。
この世にいる訳がない書物の中にしか存在しない伝説的な生き物を目の当たりにして、驚きを隠せないようだ。
「まあ、そうなるよね。ははは」
『ゆりのぉ~、癒してくださいぃ~』
「どうしたの? フェリア」
フェリアは友理乃の胸に飛び込んで、さっきの事を話す。
「そっかぁ。大変だったんだね、よしよし」
「ふん。リョウ、ちゃんと助けてやんなさいよ」
夏実の守護精霊のドラゴン・リョウは羽と尻尾を垂れ下げて、反省しているようだ。
「えっと、今はどういう状況なのかな?」
『何も始まってねェよ。そいつも混乱してるみてェだしな』
腰を抜かしたままの女子高生は、なんとか落ち着こうとしているのか、小声で「おちつけおちつけおちつけ」と呟いている。
尋斗は近づいて「あの、大丈夫?」と中腰で聞く。
すると、その生徒は顔をあげて、尋斗を見てから、ヴァスクを見る。
「白い翼をもった天使....、あなたは天使ですか?」
『あァ? ああ、そうだぜ。相方は居ないがな』
「その相方って、清水八束くんの事...だよね?」
その言葉を聞いて、みんなが言葉を無くしたように驚いた。
それを見て、その子は抜かしていた腰を上げて、立ち上がり、いつの間にか頭の上には小さく白いネズミが行儀よく座っている。
「私は、斎条 穂紀です。こっちはラファって言います。どうぞよろしくお願いします」
自己紹介をした訳なのだが、予想外の相手にも聞こえてしまったみたいである。
【ご丁寧にありがと。私はあなたを連れ去りにきた悪魔・エバリエと言うのよろしくね】
いつの間にか頭上にあった、あのどす黒い雲から色気のある声で聞こえてきた。




