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守護精霊につき!  作者: 松代 彩瓦
序章
1/55

ごく普通な高校生?

月曜日。7時10分にセットされていた携帯のアラーム音が部屋に鳴り響く。

俺は布団の中から手を伸ばして、そのアラームを止める。

頭も布団の中に入れているせいか、手を外に出しただけで部屋の中がどれだけ寒いのかがよくわかる。寝る前に暖房機の起動タイマーを入れていたのに動いている音が聞こえない。暗中模索でリモコンを探すが、手に届く所にないので諦め、手をベットから垂れ下げる。

今日は、高校の入学式.....と言うこともあって、昨日の夜は緊張やら、不安やらでよく眠れなかった。だから、再び腕を布団の中に入れて、冬眠動物のように丸くなる。

もう十分だけ眠ろう、と思ったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

俺の部屋のドアが壊れたのではないか、と言うくらいの音が布団越しに聞こえてきた。


「兄貴! 朝だぞ! お~き~ろ~!」


「そう言いながら、惰眠妨害怪獣のイモウトが現れた」


「変な事言ってないで~、お~き~て~」


その怪獣は俺から布団という殻を引ん剥こうとしてくる。

このまま抵抗して、もし、布団が破損してしまうと母に怒られてしまう。どうせ、痛い目に会うのは俺なのでここは素直に折れてやるか。


「わかったから、そんなに引っ張るな。ったく、なんだよ」


上半身を布団から出して起こし、頭をかきながらその怪獣に目をやる。


「へっへ~ん。どう、似合う?」


「怪獣が稲崎中学の制服を着ている、だと!?」


「もお、妹を怪獣、呼ばわりすな~!!」


そう言って、怪獣改め、妹は不機嫌を体全体で表しているっとあぶね。顔にパンチを貰う所だった。


「すまんすまん。似合ってるぞ、棗」


「でしょ、でしょ! もっと誉めて~」


この単純で黒髪の短いポニーテールを揺らして喜んでいる俺の妹、清水棗しみず なつめは今日も元気である。

こいつは今日から中学生になる。俺が3月上旬まで通っていた稲崎中学、通称・イナチューの女子制服は見慣れているけど、棗が着ると何とも感慨深い。

イナチューの制服は紺のブレザーに柄無しの灰色のズボン、カッター、緑色のネクタイ。

男子と女子との違いはなく、全員同じだ。

でも、中三になると女子はネクタイを外していたな。

当然ながら、棗は制服が初めてなので、着ているのを見て欲しいのは建前であって、誉めて欲しいのが本音のようだ。


「はいはい、棗は立派な中学生になったな~」

と言いながら頭を撫でてやると照れくさそうに笑う。


少しばかり大きな制服を着た妹という者は可愛いものである。


「兄貴はまだ着ないのか?」


「そうだな、着替えるから出てくれ」


「ええ~」


「なんだよ、その声は」


「兄貴の制服姿は一番に見たいんだ!」


顔を赤らめて言われるのは、やぶさかではないが……


「だからって、着替える所を見る必要はないだろ。ほら、出た出た」


「ちえ~、扉の前で待っとくから早く」


「わかったわかった」


そんな妹の兄である俺・清水八束しみず やつかは、これと言って特徴も特技も、ましてや非現実的能力も待ち合わせていない極々平凡な高校生…になりたい、と入学式が近づくにつれて思っていた。その訳は今まさに目に見えてしまっているヤツのせいともいえる。

黒髪で、髪型は少しばかり長いくらいで、頭頂部からの一束が跳ねている。

いつの間にか暖房機が音をたてて、少しずつ暖め始めている部屋の中で俺のパジャマのボタンを外して着替え始めるとソイツはだるそうに机の上で仕事休みの親父よろしく、横になり肘をついて欠伸をする。


〔今日は朝から早いんだな。いつもベッドでグーダレてるのによォ~、眠いわ~〕


「今日から学校なんだよ」


俺は革製のひもで通された十字架の首飾りを首にかけて、新しいカッターシャツに袖を通して、新しい制服を眺める。


〔また、馬鹿みたいな人間が馬鹿みたいに居る所にいくのかよ〕


次は胡座をかいて、不満そうに腕組みをするソイツは俺の『守護精霊』であり、『天使』である。

名前は『ヴァスク』、天使とは思えないほどの言葉の汚さでいつもだるそうにしている。

銀髪(白髪というと怒る)で、生え際から自由に生えた髪は俺よりも多くの髪の束になって、跳ねている。

身なりはそうだな.....、アニメとかに出てくる妖精くらいの大きさと言えば、伝わるだろうか。


〔お前は誰に説明してんだよ?〕


「心を読んで、ツッコミを入らんな! 」


ヴァスクはニヤリと笑って見せる。

そこで俺も我にかえって、ゆっくりドアを見る。

これじゃあ、棗に聞こえ―――


(兄貴~、どうかしたのか?)


―――てしまったよな! だよな!!

え~っと、ここは冷静に......。


「い、いや、何でもないぞ」


棒読みなのは、あえて考えずに答える。

大丈夫だ、相手はドア越しで聞いているから大丈夫だ。

仕掛人は笑い声を押し殺して笑っている。

この野郎~、後で覚えてろよ~。


(大丈夫なの?)


心配そうに訊いてきた棗が部屋に入ってくる気配は、ない。とりあえず、安堵が溢れる。


「ああ、携帯が落ちそうになっただけだから。もう少し待っててくれ」


(うん、わかった。)


棗には「天使」の事は話していない。

可愛い妹をこんな変な事に巻き込みたくないという兄貴的プライドとして話す訳にはいかない。


〔シスコン野郎〕


俺が睨み付けると〔へいへい、黙りますよ〕とうんざりしながら俺に背を向ける。

やれやれ、そう思いながら今日から通うことになる北峰高校の銅と黒のシマシマのネクタイを手に取る。

イナチューのネクタイは、首飾りのように後ろで引っ掻けるタイプの安易な物だったから、サラリーマンが首から下げているのと同じものを手に取るのは初めてで、俺はネクタイの入っていた紙袋に書いてある内で一番簡単な結び方を試してみるが、どうもうまくいかない。


「むずいな、これ」


『俺がしてやろうか?』


「いいっつーの、お前は黙ってろ」


『俺はしゃべってねェぞ』


「何、言ってんだよ。確かに聞こえて」


『これでもまだ言うか?』


ネクタイを締めるのに苦戦していた俺は振り返ってみるとそいつは口を動かさずに声が聞こえてきた。


―――あ~、テレパシーか。ていうか、最初からそれしとけよ!


『シスコンをいじろうと思ってな』

とまた声を抑えてケタケタと笑う。

イラッとしたが、ため息でそれを吐き出してチャラにする。


―――あ、そういえば、「アレ」か?


俺が心の中でキリッと効果音を言いながら目で訴えると、『気持ち悪いからやめてくれ』とうんざりされた。


―――へいへい、ネクタイ締めながら黙って聞いてますよ。


『また面倒な「教会からの指令」だ。内容はお前と同じ「天使」の宿り主が現れたから会えってよ。同じ高校で新入生の女だそうだ。よかったなァー、オイ! 後は…特徴だが…、なんか、なんだ、周りから浮いているらしいって事は・・・』


―――もしかしなくても、天然ちゃんか?


なんとかネクタイを締めた俺が灰と黒のチェックのズボンを履こうとしている状態でヴァスクに目をやると軽く頷く。

はあぁ~っと息を吐きながらズボンをはき、山みたいな校章の付いた黒のブレザーを羽織って、真新しい学校指定のカバンに使うであろう物を入れて、欠伸をして眠たそうにしているヴァスクを見る。


―――おい、行くぞ。

と言いながら暖房の電源を切る。


『俺はここで寝てるから行って来いよ』


―――そんな訳にもいかねェんだよ。俺が消えたらお前も消えるんだぞ?


ドアノブに手をかけて、ヴァスクを見る。


『チッ、わァたよ。行きゃあいいんだろ、行きゃあ』


嫌そうにため息をつきながら黄色の珠になり、俺のカッターシャツの中に消えていく。


(兄貴~、まだか~)


「今、出るよ」


ドアを開いていく、今日から波乱の高校生活が始まる事を俺はまだ知る由もなかった。


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