(20)『天地に在るは竜殺し』(改稿済み)
バシバシバシバシュ――ッ…………ドドドドォォオンッ!
右肩のSEIRENEから放たれた4発の誘導ミサイルが個別目標指定した4体の有翼蛇竜に次々と命中し、爆炎と爆風を派手に撒き散らしながらその身体を四散させる。
機体を左右に揺らしながら、突撃してくる個体をブレードライフルJACKALとレーザーライフルLINDWRUMで迎撃し、同時に両肩2種の高火力兵装(4連誘導ミサイルSEIRENEとグレネードキャノンGREMLIN2)で確実に個体数を減らしていく。
しかしさすがに竜族相手に多対一戦は無茶があったのか、地上のことまで気にかける余裕は予想に反して少なかった。とは言え私自身たかが知り合いでもない人間を気にかけるようなキャラではないし、元より誤射以外を気にかけるつもりはまったくなかったけれど。
「そっちは大丈夫ですか~?」
威嚇するようにギャアギャアと吠えていたワイバーンを斬り伏せつつ、心にもない台詞を回線に流すと、
「空ではチェリーさんが無双してるみたいですけど、地上は地上でヘカテー=ユ・レヴァンスっつーか、ええと……あぁ、福音の鎮魂歌が無双してるんですよ」
誰。
と思った途端、突然半透明の補助空間投影モニターが開き、そこに写真付きの詳細な情報が表示される。
「だから勝手に不正侵入するなと~」
「なんならその機体の制御システムをチェリーさん専用に組み直してあげましょうか?」
アプリコットが、現状非使用にしてあるはずのネットワーク通信システムを介して送りつけてきたのだ。
アプリコットの嘲笑混じりの台詞に無視を決め込み、改めて送られてきた文書を視界の端で自動読み込みしながら、ワイバーンの竜息撃を躱して懐に飛び込む。
「あまり近接向きではないので、早く沈んで貰えると私様的には大助狩りなのですが~?」
刃渡り3メートル超のブレードライフルをワイバーンの胴体に深々と突き刺し、力尽きる直前にその身体を強く蹴ってブレードを引き抜き、クイックターンして背後に迫っていたワイアームの頭部をレーザーライフルで吹き飛ばす。
「あと何体ですか~?」
「大体80ですね」
予想していたかのように即座に応答を返してくるアプリコットの優秀さに苛立ちを覚えつつ、読み込み完了した文書に意識を向ける。
ルシフェル=スティルロッテの第三人格で“竜殺し”の能力持ち――――象徴的な騎士を利用した術式を常時展開・身体付与して『竜に殺されず竜を殺せる肉体』を実装化した一例、ね。
アプリコットもいるし特別急いで狩る必要もなさそうだな、と思う。
ガツンッ!
背部に衝撃。
目標との直接接触警告音が鳴り始める。
確認すると、背中に飛びついてきた蛇竜の一種、黒い身体を持つ屍咬竜が右肩のSEIRENEの4基ある射出器の内、一番後ろに据えられた1基に噛みつき、力任せに引き剥がそうとしていた。
「“嘲笑する虐殺者”ですか~。こんなところに珍しい竜がいたものですが~、金銭感覚がないとはいえ~、いったいこれがいくらすると思ってる~?」
ブレードを逆手に切り換え、その先端をニーズホグの頭に向ける。
カシュッ――――ガンッ!!!。
二つに割れる刀身に搭載されたレールガンから高速で射出された徹甲弾が、ミサイル射出器もろともニーズホグの頭を貫通し、鮮紅の飛沫を霧散させた。
頭部を失ったニーズホグは、ぐらりと傾き眼下の地面に落ちてゆく。
「あ~……なるほど」
面倒なことにニーズホグに気を取られている間に、それまで牽制が功を奏して近付いてこなかった“多少賢い”中型竜たちが周囲を取り囲んでいた。
同じ種族でもいるのだ。今までの経験から警戒心が強く、一筋縄ではいかない所謂“歴戦の猛者”が。
「面倒なことになりそうなのです~」
レーザーライフルを左腰の接続部に吊り、同時に左腿の武器スロットに格納されていたパルスライフルに換装する。
「下等竜族ごときが調子に乗ってはダメなのです~。竜界出身の知性を持った竜500頭を1人で相手にしたこともあるのですからして~、ケ・シ・ト・ベ♪」
パパパパパパパッ……!
軽快な音と共にパルスライフルから毎秒50発のパルスレーザーが放たれ、瞬く間に視界が弾幕に占められる。
引き金を引く度に弾幕が形成される光景は、どうしようもなく私を興奮させる。
快感乱射。
そう言えば誰かさんがそんな二つ名を持ってたな、などと思いつつ、
「なるようになれ」
威嚇するようにブレードを振り、足並みがわずかに乱れた竜の群れに突撃した。
「んなバカなことしてたんですか、チェリーさんって。うっわ、ありえねえ、バッカじゃねーの? 言うまでもなく。いやー、人知を超えた知人もいるもんだ」
突然、アプリコットが心底呆れるような調子でそう言った。途中から丁寧な語調すら消失している辺りを見ると、どうも本心から言っているようだ。
人知を超えた知人ってお前もだけどな、と俺は言いたい。
今の俺は情けなくも図らずも、端的に言えばアプリコットに守られている状況だからそんなことを口には出さないが、ルーナでもできそうにない不死身の再生能力を差し置いたとしてもアプリコットは人知を超えて常軌を逸していた。
「どうかしましたか?」
アプリコットがきょとんとした表情で、疑問の目を俺に向けてくる。その姿に思わず心臓が跳ね目を逸らしてしまう。
どうしても意識してしまうのだ――。
「……?」
――背中の翼を。
首を傾げるアプリコットには、ついさっき話していた時まではなかった翼が生えていた。アプリコットの身体のサイズと比べても違和感を覚えるぐらいに比率がおかしい巨大な翼だ。根本から翼端までたっぷり10メートルはあるだろう。
しかしむしろその大きさも相俟って、初見の俺にはまるで神か天使のようだ、とわずかに蒼みがかった透き通る神々しい光を放つ姿に感想を覚えた。
ついさっきアプリコットがそれを開いた時には思わず呼吸を忘れてしまうほど、その翼は美しかった。個々の羽根一本一本に至るまで繊細な造形が為され、それでいて白銀色の光沢は神聖さをより増長させている。
そして、本能的に悟るのだった。具体的に何をしているのかはまったくわからないのに、守るという意図だけははっきりと。
「近づくと危ないですよ?」
突然ギュンッと跳ね上がった右の翼が、高空から滑空し砦に突っ込もうとしていた鏃尾竜を弾き飛ばしてその頚を難なくへし折った。
翼の使い方としては大きく間違っている気がするが。
「ちなみに砦から出たら命は保証できねえですから、出たらダメですよ~?」
決して大きくもないアプリコットの声が不自然なほど自然に砦の中まで響き渡る。
「にしても『竜殺し』なんてご都合的に最適の役者がいたらボクの出番なんてまったくないですよね」
アプリコットが視線を向けた先、砦の正門前の広場では短髮の快活そうな少女、エヴァが暴れ回っていた。
文字通り嵐のごとく。
彼女の正式名は『祝福の鎮魂歌』。どの辺が名前なんだろう、なんてことは思うことすら許されない。何故ならルシフェルが結構気に入ってつけた名前だからだ。徒に文句をつけようものなら悪戯に殺されかねない。
閑話休題。
ルシフェルの全人格の中でももっとも優れた身体能力を誇るエヴァは、砦に近づいてくるドラゴンたちの身体をまるで泥のように易々と引き裂き、遊んでいるかのように笑いながらそれらの敵を解体していた。
硬い甲殻・外殻を引き裂く生々しい音の中、上空で翼を砕かれたドラゴンは悲鳴を上げて地に落ち、エヴァに身体の何処かしらを潰されて動かなくなる。
断末魔がつんざく度にエヴァは楽しそうに笑みを浮かべ、時に滞空する竜から竜へと飛び移りながら次々と地に落としていく。
「むしろ出番とるなら許可取って欲しいですねっ♪」
スタンッと広場に降り立ったエヴァに、アプリコットが声をかける。
「すんませんしたっ!」
エヴァがビシッと敬礼する。ノリノリだな、おい。
その3秒後には8メートルまで跳躍し、近寄っていた竜の頭を殴り飛ばして地上に叩き落としていたが。
「許可します。っつーかボクの出番なんて好きなだけ持っていってくださいな♪」
いいのか。
そんな疑問を感じ取ったようにアプリコットは悪戯っぽく微笑んだ。
「だってボクの周りって旧理と受呪者のオンパレードですよ? あなただってそうでしょう、アルヴァレイ=クリスティアース。悪霊・魔女・不死者なんかはまっすぐ曲がってる連中ですし、リィラ=テイルスティングだって半分人間やめましたってなモンでしょう? 鬼塚石平だってなんかもう筋肉ですし。その辺のいわゆるチート無限のバグキャラと比べられたんじゃたまったもんじゃないんですよ。連中、わざわざ出番作らなくてもいるだけで目立つんですから。わかりますか?」
鬼塚だけ説明になっていない気もするが、何を言っているかがわからなくても何が言いたいのかはわかった。
俺からすれば、俺1人だけ凡人だけどな。唯一まともな人類のヴィルアリアでさえ、経験以外の技術はヴァニパルの医神――ヴェスティア婆さんに認められた天才なんだからな。
ちなみにこの思考回路に馬鹿を加える余地はない。
「にしてもどうも妙ですよね」
「妙?」
「自分で言ってたくせに忘れたんですか、アイ=アス」
「何をかは置いといて、一瞬何のことか理解できないような略し方をするな。俺の名前が長いのは重々承知してるし、それを略されるのも仕方はないから多少までは諦めてるけど、そんな略称で呼ばれたことはない」
「なるほど。つまりボクはアルヴァレイさんの初めての女ってことになるわけですね♪」
「それで何が妙だって?」
「あれ? ここで流してきましたね」
コイツの御し方がわかった気がした。
「だからほら、あれですよ。どうしてブラズヘルに竜族が加担してるかって。竜族がただの人類の言うことを聞いているなら前代未聞の後代未見ですよ?」
「……つまり?」
「1匹だけいる大型竜種。あの辺りが怪しいですよね」
アプリコットはそう言って、面白そうなおもちゃを見つけたような顔でくすりと笑った。




