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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第4章『ヴァニパル戦線』
78/121

(14)『悪霊の別人格』(改稿済み)

「なぁ」


 空間転移魔法(テュアシュトラーセ)を使った割にさっきの場所からわずか400~500メートル先という中途半端な場所に放り出された俺は、時間潰しという気分ではないが隣を並走するヘカテーに声をかけた。

 ルシフェルはというと、エルフリードを相手にひととき遊んでとりあえず満足したらしくさっさと引っ込んでしまった。

 かなりたちの悪い気分屋である。


「あはは……、今アルヴァレイさんが考えていること、私とルシフェルに伝わってるんですけどね。あ、でもルシフェルも怒ってるわけじゃないから安心してください」

「お前らといると、ホント変なこと考えられないな……」


 考えたいわけでもないが。時には不可抗力というものが働くこともある。

 それにしても整備された道のはずなのに、何故か細かい礫が多くて走りにくい。ヘカテーは特に気にする風もなく俺よりも軽やかに駆けているが。


「それでえっと……何ですか?」

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

「聞きたいこと、ですか?」


 心当たりがないのか、きょとんとした表情になるヘカテー。


「ルシフェルの他の人格のこと、かな。アレってどんな感じなんだ?」

「どんな感じと聞かれましても……」

「表に出てない時も意識はあるのか?」

「自我はありますけど、()の様子がわかるのは私とルシフェルだけです。私は、唯一ルシフェルと同位の人格ですから」


 確か、身体は元々ヘカテーのもので、そこに旧き理を背負う者(エンシェントルーラー)であるルシフェルが精神体として入ってる状態、だったか。


「別の人格同士で会話できるっていうのがちょっと理解しにくいけどな」

「それは“人格”という言葉を使っているからです、アルヴァレイさん。どちらかといえばルシフェルというひとつの“世界”に生まれた“精神体”です」


 ヘカテーが人差し指を立てて、少し誇らしげに話し始める。いいところを見せようとでもしているのだろうか。誰に。


その世界(ルシフェル)の中ではそれぞれが自我を持っていて、それぞれ自由に行動しています。ですが、その精神体はあくまでもルシフェルというこの世界から見た“異世界”の存在なんですね」


 理といい世界といい、ヘカテーやルシフェルみたいな人類から外れた存在ってのはかなりスケールのでかい言葉を簡単に使ってくれるよな、まったく。


「だからその世界からさらに上位のこの世界に出る時だけ私の身体を媒体にして顕現する、ということになりますね。私以外はルシフェルが生み出した“存在”なので、別人格というよりは“姉妹”という認識の方が強いんです。ルシフェルと私は親という年齢じゃないので、長姉と第二姉という扱いになってますけどね?」

「あれ? ヘカテーもルシフェルも――」

「親という年齢じゃないので、長姉と第二姉という扱いになってますけどね?」


 笑顔が怖い。

 ヘカテーとルシフェルは精神的にまだ子供、ヘカテーとルシフェルは精神的にまだ子供、ヘカテーとルシフェルは精神的にまだ子供……。


「その認識も少し複雑です……」


 閑話休題(それはそれとして)


「……そう言えばまだ俺全員と話してないんだな。ヘカテーとルシフェル合わせて13人であってるか?」

「今は一応そうですね」


 そう言えば結構簡単に増やせるらしいからな……。何でもありか。


「第一人格がルシフェルです。第二が私で、第三が祝福の鎮魂歌エヴァンジェル・レクイエム。エヴァちゃんですね。第四がミーナ、アルヴァレイさんにはその……あの時僥倖懐古(プレシャス・メモリー)能力(チカラ)を使いました」

「ああ、あの大人びた……」

「子供っぽくて悪かったですねっ」

「そうは言ってないよ」


 ヘカテーより子供っぽいやつはたくさんいるし。ルシフェルとかアリスとか。


「第五がマリア、第六がクリス。二人はまだ会ったことないと思います。第七がシンシア、魔法の再構成の能力を持ってます」

「アイツか……」


 黒き森(シュヴァルツヴァルト)に行った時に空間転移魔法(テュアシュトラーセ)を使っていた、やたらとめんどくさい喋り方の人格。ティアラの名前を決めた時に表に出ていたヤツだ。


「第八が鳴けない小鳥(レジストハート)、あの子はアルヴァレイさんもよく知ってますよね。ティアラって名前、気に入ってましたよ♪ ありがとうございます」

「そりゃよかった。ていうかそう思うならヘカテーが何とかしてやれよ……」

「アルヴァレイさんに会った時まではずっと自閉してて……それより前は私、(すさ)んでましたから……」


 一瞬すまなそうに俯いたヘカテーは、気を取り直すように前を向き、わずかに加速する。さっきからずっとトップスピードで走っているのに、まるで疲れを感じさせない動きだ。

 特別鍛えているようには見えない、どころか同じ速さで走ることすら無理そうに見える女の子らしい丸みを帯びた華奢な身体。

 本来なら(一応)鍛えている俺が守るべきか弱い存在にしか見えないが、その戦闘能力・身体能力及び未だに隠している潜在能力はもはや何倍かを考えるだけ無駄な次元の存在だ。俺も一応本職の騎士であるリィラさんからその辺の連中よりは強いとお墨付きを貰ってはいるのだが、ヘカテーやルシフェル・リィラさん・鬼塚辺りの人間やめてます、あるいはやめましたな連中の中ではただ霞むだけである。


「第九がノイン、第十がエルフです。あの子たちも表にはなかなか出ないです。少々人見知りなので……えへへ」


 自分も人見知りの気があるからか、少し気まずさをごまかすように笑うと、再び説明を続ける。


「第十一がフィーア、この子も会ったことはないと思いますけど唯一単独飛行のための翼を持ってます。第十二も会ったことがありますよね、アリスちゃんです。ルシフェルが理から外れた者を探すために作ってくれた能力の行使者ですね」

「あぁ、あの『未知の幻獣』……」

「やっぱりその辺りで覚えられてますよね、あの子は……。思ってることとかも全部口走る癖があるみたいで」

「すさまじい癖だな……。それで最後がシャルル……か」


 結局何がしたくて、ルシフェルはシャルルを生み出したのか。

 何となく、何となくだが――――ただルシフェルの嫌がらせと結論付けてしまうのは思考放棄のような気がする。

 今考えていることも、ヘカテーやルシフェルに伝わっているのだろうか。それならそれで、回答をくれたりは…………しないだろうな。ルシフェルもヘカテーも、そしてシャルルも、ルーナでさえ――


「――本当の自分を知られることを、それで大切な人が離れていってしまうことを、何より恐れていますからね」


 ホントに下手なこと考えられないな。


「神様ってホント意地悪です……。どうせこんな化け物みたいなチカラを押しつけるなら、人の心も失くしてしまう方がよかったですよね」


 ズキンと胸に痛みが走った。走り続けていたせいじゃない。

 ヘカテーの弱々しい語調に思わず彼女に振り向くと、無理に作ったような痛々しい笑みを浮かべ、視線だけはまっすぐ前を見据える彼女が映った。まるでそれがどうでもいい瑣末なことだと自分に言い聞かせるかのように。


「そんなことないだろ。人の心があるからヘカテーは今ここにいるし、俺だってここにいるんだからな」


 化け物みたいなチカラを持って、夜になると人の心も失くしてしまう――――シャルルを追う延長でここにいるんだからな、俺は。


「そう…………でしたね」


 一応励ましたつもりだったのだが、返ってきたヘカテーの反応は少し悲しげだった。

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