#165 私がお届けものです
空に魔獣たちの咆哮が轟く。
警戒し距離を空けながら、飛空船が帆に風を受け止め進んでいた。
「忌ま忌ましい獣どもめ」
硝子張りの窓を睨み、グスタフが吐き捨てる。
混成獣の襲撃を辛くも逃れ船を上げたはいいが問題は山積みのまま。冷静を心がけていても限度はあった。
船橋へと駆けこんできた兵士が報告する。
「竜騎士長閣下。竜闘騎、先行偵察隊が到着します」
「よし、だがさらに急がせろ。それと殿下の御身はまだ見つからないのか!?」
「それが空中、地上を問わず混乱しておりまして……。魔獣どもの行動が読めず、迂闊に動けません」
この空飛ぶ大地に来てからというもの、魔獣という存在にもずいぶんと慣れつつあった。
しかしそれは主に鷲頭獣を相手にしたものであり、混沌と凶暴さの化身ともいえる混成獣ではない。
どうやらハルピュイアが手懐けたことでいくらかの秩序が生まれているようだが、だったらどうだというのか。
いずれ彼らにとって理解しがたい存在であることに変わりはない。
「各船に伝令。シュニアリーゼ隊はかまわん、即応できる騎体をすべて投入せよ。汚らわしい獣め、しかし手ごわい相手だ。出し惜しみは無用である!」
「はっ!」
グスタフの号令を受け、船橋に詰めた兵士たちがそれぞれ伝声管へと怒鳴り始めた。
さらに魔導光通信機を盛んに明滅させ周囲へ伝令を飛ばす。
その頃、窓の向こうでは飛び交う魔獣たちの向こうで巨大な影が動き出していた。
「……生きた竜。なにが王だというのか」
忘れることなどできないだろう、不快な頭痛を伴った声ならぬ言葉によって伝えられた名。
その巨体は混成獣をはるかに超えおそらくは飛竜戦艦すら上回る、恐るべき存在である。
「王を僭称するわりに美しさの欠片もない。羽根付きどもめ、あのような醜い獣に従うなど。所詮、未開の獣ということ」
竜の王の躯体を覆う甲殻はどこかちぐはぐな印象があり、歪と表現するほかない。
さらに不格好に膨れ上がった胴体など、グスタフをはじめとした西方人の美的感覚からすれば醜い以外の形容詞があてはまらないものだ。
「イグナーツから報告を受けた時は、少々気でも触れたのかと思ったものだが。確かに聞いた通りの馬鹿げた存在だ。西方の外は驚異に満ちているということか」
これからは信じがたい報告を受けたとしても、頭から疑うようなことはすまい。彼は密かに決心を固めていた。
そうしてこの後の動きを考える彼の下に、ついにその報告がもたらされる。
「報告! 飛竜戦艦、間もなく付近まで到着します!」
「……ついに来てしまったか。我らもすぐ合流に向かう、それまで指示なく戦うなと伝えよ! とにかく今は殿下の捜索を急がせるのだ、見つけるまで我々はここを一歩も動けんぞ……!!」
叫ぶ表情には苦々しいものが混じっていた。
「雑兵ならば竜闘騎で相手することもできよう。しかしあの醜い竜は竜闘騎には荷が勝ちすぎる。斯様なところで我らの飛竜に傷をつけるわけにはゆかんが……これは避けえぬ戦い。臆すれば傷は深まろう」
魔獣との戦いに向けて竜闘騎が飛翔する。
流れに逆らうように、彼を乗せた飛空船は飛竜戦艦との合流に向かうのだった
甲高く空を裂く音に顔を上げてみれば、小型の翼竜が視界を高速で横切ってゆく。
小型であると言ってもそれは飛竜戦艦と比較しての話。
人造の飛行兵器“竜闘騎”は翼長、全長ともに並みの幻晶騎士を上回る大きさを有している。
ただ空を進むための洗練としての細身が、その印象を小さく見せているだけに過ぎない。
「速い。さすがマギジェットスラスタを積んでいるだけはありますね。どうやらこの一帯が戦闘の中心になりそうですよ」
足の速い竜闘騎は遠く離れた場所へも迅速に戦力を投入できる。
それだけに空の戦いは陸に比べて戦場が目まぐるしく変わってしまう傾向にある。
フリーデグントは目元を厳しくして空を睨みつけていたが、視線を転じると今度はアーキッドを睨んだ。気付いた彼が思わず怯む。
そのままいくらか逡巡していたが、彼女はやがて口を開いた。
「……助けてもらった身で手前勝手を言うのも憚られるが、もはや沈黙の許される状況ではない。お前たちに頼みがある」
「あー、えっと。なんでございますでしょうか」
隣を歩く蒼い幻晶騎士の首が向けられた。
「おそらくは自軍に戻りたい、ということでしょうか」
「その通りだ。あれらは私を見つけるまでこの場を動けない。さらには思うように戦うことすら憚られよう。竜の王との衝突が必至である以上、それは部下を見殺しにするに等しい。私に沈黙という選択肢はない」
彼女はツェンドリンブルの幻像投影機を通じて、眼球水晶の視線が自身に向けられていることを察した。正念場である。
「貴国との関係について、友好的と言い難いことは承知の上だ。さらに今は何を言っても口約束にしかならないのも……。だが伏して頼む。話し合いの席は改めて、必ずや設けよう」
蒼い幻晶騎士は沈黙したまま。
さらに頼み込もうとフリーデグントが口を開きかけたところで、先にキッドが口を開いた。
「エル、ここでぼけっと眺めてるわけにはいかないぜ。待つほどに状況が悪くなる」
「もちろんです。ですが殿下をお届けするには、あの竜闘騎の陣形に突っ込まなければならないのですよね。それも魔獣の襲撃をかわしながら」
フリーデグントは僅かに目を伏せ、しかし諦めることはない。
「助けてもらったうえで無理を重ねているのはわかっている」
投影機に映る蒼い幻晶騎士が頷いた。キッドは操縦席の背後に振り向いて。
「殿下、こちらから一つ条件がある。話し合うのは俺たちだけじゃない、ハルピュイアとも話し合ってほしい」
「なに? それは……。この戦いは竜の王から仕掛けてきたのだ。簡単にはいかないぞ」
「竜の王が全てのハルピュイアの代弁者ってわけじゃない。現に従わないハルピュイアだってここにいるしさ」
ホーガラがゆっくりと頷いた。
「一度刃を、爪を交えたからどうだっていうんだ。俺たちには共に交わせる言葉があるんだよ。だったら……!」
――言葉を交わす。
思い返せばフリーデグントはハルピュイアとまともに議論を交わしたことなどない。
常に一方的に命じるだけだった。彼女は深く吐息を漏らし。
「まったくお人好しだな。……わかった。このフリーデグント・アライダ・パーヴェルツィークの名において約束しよう」
「感謝しますよ! よっしエル、ここからどう進める?」
「キッドらしいですね。そう、せっかく真上で戦っているのですし……。そういえば殿下、お届けする前にひとつ確認なのですが。どれくらい乱暴な手段まで、やってもいいでしょうか?」
思わずフリーデグントの口元が引き攣った。彼女もだんだんと理解しつつある。
この可愛らしい声音に騙されてはいけない。彼らは恐るべき魔獣を当然のように蹴散らし、竜を前にしてさえ平然とふるまう剛の者なのだ。
その口から出た“乱暴な手段”など、彼女の想像の数倍はひどいありさまになることだろう。
「頼んでいる身で重ね重ね申し訳なくは思うが、ひとつだけ言っておきたい。私の身が傷つくのは甘んじて受け入れよう。しかし部下たちには危険の及ばないようにしてもらいたいのだが」
「承知しました。状況の許す限り善処いたします」
「本当に、本当に頼んだぞ……?」
「お任せください。それでは“突撃! 王女殿下お届け大作戦”を開始しましょうか!」
もうすでに不安になったフリーデグントなのであった。
彼らが地上で暢気なやり取りをかわしている間も、状況は刻一刻と変化してゆく。
陣形を組んで飛翔する竜闘騎部隊を睨み、竜の王が動き出したのだ。
その太い首を軋ませて巡らせると、低く唸りをあげる。
「……奴らの使う兵か。牙と爪を折り翼をもぎ、教えてやらねばならない。ここはお前たちの在るべき場所ではないと」
空間に思念が満ちる。竜の王が備える権能によって、配下となった混成獣たちにその意思が伝えられる。
「……敵ぞ。討ち、葬り、貪り、蹂躙せよ」
ぎょああ、ぎょああと奇怪な鳴き声を上げた混成獣が翼を羽ばたかせる。
凶悪な性を備えたはずの獣が、ハルピュイアたちの手綱に従い動き出した。
魔獣たちの動きはすぐさまパーヴェルツィーク軍の知るところとなる。
「伝令! 魔獣群が方向を変えた模様! 進路は……飛竜戦艦へと向かっているようです!」
グスタフが不快げに顔を歪める。
予想はしていたことだが、実際にやられていい気はしない。
「迎え撃つ動きに出たか。あの竜の王とやら、命じる力だけは確かなようだ。獣ならば獣らしく知恵など持たぬままで良いものを。……竜闘騎隊に伝達! 地上に向かわぬならばそれも好都合である、一匹余さず空にて討ち取れ!」
「はっ!!」
慌ただしく伝令が動き出す。
魔導光通信機を明滅させ、あるいは伝令の竜闘騎が飛空船から飛び立ってゆく。
そうして一通りの指示を出しながら、船は飛竜戦艦と合流していた。
「竜騎士長閣下、ご帰還!」
慌ただしく飛竜戦艦へと移ったグスタフへと報告もそこそこに、出迎えに現れた人物がいる。
「閣下! すぐさま我ら右近衛に、全軍出撃許可をいただきたく!!」
天空騎士団右近衛隊長“イグナーツ・アウエンミュラー”が猛然と迫れば、その背後からは涼しげな声がかかった。
「おっと右の、貴公らだけ抜け駆けは良くないぞ。殿下の御身に危機迫るとあらば、盾に任じられた我ら左近衛が適任でございましょうとも」
「お前たちは……」
グスタフは思わず頭を抱えた。
同左近衛隊長“ユストゥス・バルリング”。悠然と構えた姿は冷静に見えて、その実言っていることはイグナーツと大差がない。
左右両近衛隊は王女直属である天空騎士団の中でも実力者ぞろいの集団である。
能力に疑うところなく、忠誠心も高い。
それだけに王女の身に危険が迫っているともなればじっとしてはいられないのだろう。
実を言えばグスタフも気持ちだけならば似たようなものであったりするが、騎士団長としての矜持が彼を落ち着かせていた。
「……ならぬ。お前たちは飛竜戦艦の直衛、迂闊に飛び出すことまかりならん」
「しかし! このようなところで時を無為に過ごせましょうか!」
「無為ではない。あれを見よ」
窓硝子の向こう、指し示した先にあるのは巨竜の姿。
「竜の王……。ついに奴が巣から出てきたのですね」
「そうだ。お前の報告を聞く限り、あれを倒せるのはこの飛竜戦艦をおいて他にあるまい。ゆえにそれまで損耗させるわけにはゆかん」
「しかし飛竜が誇る竜炎撃咆があれば、いかに竜の王といえど葬るに十分では」
イグナーツの楽観に、しかしグスタフは頷かなかった。
「確かに飛竜戦艦は強力である、しかし無敵ではない。戦に確実なことなどなく、油断は己の身を危うくすると知れ。アレと戦う際にはお前たち両近衛を加え、総力をもってあたる」
「ううむ……」
「今は耐えよ。殿下がお戻りになった時、この飛竜が傷ついていてはそれこそ名折れであろう」
「……承知いたしました」
「竜騎士長閣下のお考えをいただき、このユストゥス得心いたしました」
イグナーツの顔にはありありと不満が見て取れる。
それに比べればユストゥスは物分かりがよく見えて、その実腹の中で何を考えているかまではわからない。
「この大地には他国の軍勢が犇めいている。羽根付きごときにこれ以上手間を割くわけにはゆかんというのに」
そうしてグスタフが船橋へと歩き出すと、待ち構えていたかのように伝令が駆け込んできた。
「報告! 竜闘騎の先頭が魔獣と接触!! 戦闘が始まりました!」
「来たか。船橋へ向かう、飛竜は微速にて前進せよ。お前たちも船に戻り、来る時に備えておけ」
「はっ!」
「承知いたしましたよ」
それぞれが動き出すと同時、飛竜戦艦はゆっくりと戦場との距離を縮めてゆく。
マギジェットスラスタが咆哮し、吐き出された爆炎が長い尾を曳いた。
竜闘騎は陣形を組み、整然とした動きを見せる。
対するハルピュイアと混成獣はそれこそなだれ込むとしか表現できない勢いで戦場に現れた。
「獣め、まるで群れているだけだな。各機法撃を加えよ、近づくまでに処分するのだ!」
竜闘騎が顎門を開き法撃を放つ。
無数の炎弾が赤い線を描き、がむしゃらに突き進む魔獣を出迎えた。
ぎぃぎゃごぉぉぉぉ。
混成獣の持つ鷲、獅子、山羊の三つの頭。それはいずれが発した啼き声だったのか。
奇妙な声と共に、魔獣たちは法撃を避けすらせずに突っ込んだ。
法撃が獣を打ち据える、かと思われた。
その直前に鷲の頭が吼える。嘴を開き猛烈な突風を生み出すと、一斉に吐き出し。
群れの目前で荒れ狂う風へと次々と法弾が突き刺さってゆく。
咲き狂った爆炎は、そのまま風に吹き散らされていた。
「法撃、効果低し!」
「獣の分際でやりやがるな。遠間からでは埒が明かない! 陣形を二重鏃へ、波状攻撃にて斬り破る!」
「応!」
竜闘騎が素早く陣形を変える。
三機ごとに鏃型の陣形を組み、それをさらに三つ合わせて大きな鏃を描く。
都合九機、一個中隊ごとに分かれるとそれぞれに魔獣の群れへと突っ込んだ。
瞬くほどの間に距離が縮んでゆく。
距離があっては何が何だかわからない混成獣の姿が一気にはっきりと見えて、その悍ましい様相に騎操士たちが顔をしかめた。
魔獣の背に跨がるハルピュイアが手綱を操ると、山羊の頭が嘶く。
空中に雷鳴を呼び起こし、突っ込んでくる敵へと向けて撃ち放った。
同時、陣形を描く竜闘騎のうち後方に位置した機体から法撃が放たれる。
炎弾が雷撃にぶつかり空に炎が咲き乱れる。
つかの間、視界が炎に埋め尽くされ。残り火を切り裂いて先行する竜闘騎が現れた。
法撃はしない。脚を伸ばし剣爪を構える。
目前で混成獣の獅子の貌が牙を剥いた。だが先手を取ったのは竜闘騎だ。
すれ違いざまに振るわれた剣爪が魔獣を切り裂く。
魔獣の血しぶきが舞い、苦しげな呻きが上がった。
間髪入れず後続の鏃編隊が突入し、傷口へと法撃を塗り重ねる。
もだえ叫ぶ魔獣を置き去りに、竜闘騎隊は悠然と旋回する。
「どうだ魔獣め! 我らの竜剣術、とくと味わって……」
騎操士の歓喜が終わるより早く、空中にわだかまっていた炎が吹き散らされた。
濁った山羊の啼き声が響き、放たれた雷撃が最後尾に食らいつく。
「がぁっ!? す、推進器に攻撃を!? 出力が、上がりません……!!」
回避する暇もない。被弾した最後尾の機体が、ふらふらと不安定に揺れたまま陣形から取り残される。
気付いた仲間が救援に向かおうとするも、既に遅きに失していた。
ハルピュイアが激しく手綱を操る。
猛然と迫った混成獣が取り残された竜闘騎に食らいつく。
「ひぃぁっ!? やめ、くそう! 獣がぁぁ……」
魔獣の爪が竜闘騎の外装をあっさりと切り刻む。
竜闘騎が振り落とそうと身をよじるも、魔獣はこともなげにその動きを抑え込んだ。
膂力においては混成獣が圧倒している。ひとたび捕まってしまえば逃れる術などない。
動けないまま獅子の貌から炎を浴びせかけられ、ばらばらに吹き飛んだ竜闘騎の残骸が地面へとちらばる。
その光景は、騎操士たちの心胆を寒からしめた。
「なんだと……我らの攻撃が、通じていないのか!?」
「化け物めぇ!」
必殺を期した波状攻撃であったのだ。
些かも勢いを減じない魔獣の姿を見た、騎操士たちの間に戦慄が走る。
もちろん混成獣とて無傷で切り抜けたわけではない。
ただただ圧倒的な頑強さによって耐え抜いただけ、だがそれこそが魔獣の最も恐るべき点なのである。
動揺の残る竜闘騎隊へと旺盛なる凶暴さをもって魔獣が襲い掛かる。
慌てて陣形を組み立てなおし攻撃に移ろうとするも、すでに状況は混戦へともつれ込みつつあった。
苦境を逃れるべく竜闘騎が加速する。
そこに意外な素早さでもって混成獣が追いすがった。
魔獣の背に跨がるハルピュイアがもつ、鷲頭獣で培った操獣技術の産物だ。
混成獣の凶悪な三つ首が竜闘騎に迫る。
涎をまき散らし、鋼の塊である騎体を噛み砕かんと大口を開いて。
禍々しい爪を突き立てんと振り下ろし。
「おぉぉぉ届けぇぇぇものでぇぇぇす!!」
その眼前にぶっ飛んできたものがある。
巨大な蒼い物体が法弾も斯くやという勢いで飛びあがり、魔獣の爪を掠めるようにして上空まで突き抜けた。
攻撃を弾かれた魔獣が混乱に陥ると同時、窮地を逃れた竜闘騎が慌てて逃げ出す。
その間にもソレは空中で宙がえりを繰り出し、そのまま混成獣めがけて落下していた。
慌てたのは混成獣を操るハルピュイアだ。
陽光を遮り迫る巨大な足の裏。魔獣を動かしている余裕はない。
手綱を投げ捨て、泡を喰って飛び出したところに入れ替わるように蹴りが突き刺さる。
ぎぃぎゃあぁぁぁぁぁぐっ。
身も世もない叫びが上がった。苦悶に身をよじる魔獣を一顧だにせず、ソレは立ち上がる。
「ちょっと魔力を回復するので、しっかり足場になってくださいね」
――幻晶騎士だ。
それも竜闘騎のように空を飛ぶことなどまったく前提としていないであろう、完全重装備の近接戦仕様機。
さしもの混成獣にとっても、これは重い。
それでもよたよたと翼を動かし、なんとか空に留まっている。頑強なのもここまでくれば誉めるべきか。
あまりのことに戦場の注目が一か所に集まる。
ハルピュイアも竜騎士も、誰もがこのめちゃくちゃな乱入者に釘付けになっていた。
「な、なんだアレ……」
魔獣を容赦なく踏みしだき、威風堂々胸を張る。
蒼い幻晶騎士――トイボックスは周囲に首を巡らせると、拡声器を最大出力で動かした。
戦いの喧騒を殴り飛ばし、場違いに可愛らしい声が告げる。
「パーヴェルツィークの皆さん、王女殿下をお届けに参りました!!」
「は?」
残念なことに、竜騎士たちの中に何を言われているのか理解できた者は、一人としていなかった。