【47】 爽香がボロボロと涙をこぼす
スタンドの別の場所では――
客A「速水は大丈夫そうだな」
客Aがポツリとつぶやく。
客B「そうですね。ケガもなさそうで良かったです」
隣の客Bが自然に言葉を返した。
客A「プロになって初の転覆が周回展示とはねぇ……」
客B「本人にとっては一生の思い出になるんじゃないですか?」
客A「でも、良かったよなぁ」
客B「何がです?」
客A「6号艇で最後尾を走ってた時の転覆だから、後ろから突っ込んでくる艇がなかった」
客B「あぁ、なるほど! 後続艇に轢かれずに済みましたね。そう考えたらツイてますよ」
客A「うん。デビュー早々レスキュー艇に乗れる貴重な体験もできたしな」
客B「いいこと尽くしじゃないですか」
客A「将来が楽しみだな」
客B「ですね。追いかけてみたくなりましたよ」
客A「あんたとは気が合うねぇ」
客B「ええ、ボートレースファンってのは、知らない人同士でもすぐに話しかけて仲良くなれちゃいますからね」
客A「そう! その通り! 3階のフードコートに行くとさ、みんな初対面同士で『ああだこうだ』って熱く語り合ってるもんな」
客B「これもボートレースの醍醐味ですよね」
客A「その通り!」
爽香は本番レースを不参加――欠場となった。
モーターが冠水したため分解整備が必要なのだが、規定により「展示走行後のエンジン整備」は一切認められていない。そのため自動的に欠場となり、手痛い「事故点」が加算されることになった。
ピットの隅で、爽香はボロボロと涙をこぼしていた。
爽香(ついにやってしまった……! デビュー節で欠場……舟券返還の迷惑をかけて、競技委員の人にも本気で怒られた……。惨めで、悔しくて、涙が止まらない……! これで松木教官からのケブラーズボンのプレゼントも消えちゃった……。今頃、松木教官はどう思ってるんだろう……)
爽香(『絶対に泣くな』って言われてたのに……ごめんなさい教官、約束守れませんでした……本当にごめんなさい……!)




