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現代小説【KAGUYA姫とサル沢さん】

作者: 虫松
掲載日:2026/04/15

■昔のかぐや姫


竹の中から生まれた姫。

美しく、誰もが求婚した。

だが彼女は、決して手に入らないものを要求する。


仏の石の鉢。

蓬莱の玉の枝。

火鼠の皮衣。


どれも、“この世に存在しないもの”。

男たちは嘘をつき、騙し、壊れていった。


それを見ても、かぐや姫は悲しんでいない。


やがて彼女は突然、言う。


「私は月に帰らなければなりません」


満月の夜。

空から迎えが来る。


人々はそれを「天人」と呼んだ。


だが本当にそうだったのか?


あの影。あの動き。

あれは、“観察者”だった。


かぐや姫は帰る何も残さず。

ただ一つだけ残ったもの。

“壊れた人間たち”それが、本当の物語。


◇◇ ◆◆


□現代のかぐや姫


スマホに、見覚えのない通知。


「KAGUYA:アップデート完了」


画面が、内側から膨らむ。


ぐにゃり。


赤ん坊が、出てきた。


泣かないただ、こちらを見て


「インストール成功♡」


3分後、彼女は完成された美人になった。


髪は光を吸い、肌は現実から浮いている。


「この姿、モテ効率いいから採用」


軽い。だが目が違う。人間を“見ていない”。

身長はモデル並み、肌は4K画質よりもキメ細かく、瞳には星雲が渦巻いている。


スマホの青白い光を纏って現れた彼女は、瞬く間にインフルエンサーとなり、宗教となり、国家予算を揺るがす「高嶺の花」となった。


KAGUYA姫

挿絵(By みてみん)


世界中の大富豪が彼女に求婚した。


彼女の条件は「意味不明」だった。


「火星の砂を1トン持ってきて」


「インターネットの全ログを消去して」


「35億円のチップを投げて」


男たちは破滅した。


だが、一人だけ、スマホの画面を見ながらピザを齧っている男がいた。


サル沢さんである。


サル沢さんは、かつて民間の宇宙旅行を「ちょっとコンビニ行ってくる」


感覚で済ませた男だ。


彼は、全プラットフォーム同時ジャック配信を開始した。


「はいどうもー、サル沢でーす。なんか今、巷で話題の『月帰りのJK』だか何だか知らないけど、とりあえず今からプロポーズして、ソッコーで月まで行ってみようと思いまーす」


コメント欄は


「国家反逆罪だぞ」


「一族郎党消されるぞ」と荒れ狂う。


その時、画面の端から、かぐや姫が不法侵入ハッキングしてきた。


「いいよ♡」


「早っ」と、サル沢さんは笑った。


「じゃあ、結納金。とりあえず35億円、今すぐこの口座に振り込んで」


かぐや姫が、カメラ越しに妖艶に微笑む。


普通ならここで銀行のサーバーが止まるか、警察が動く。だが、サル沢さんの指先はマッハで動いた。


「OK、投げ銭したわ」


【通知:3,500,000,000円のスパチャが送信されました】


世界が凍りついた。かぐや姫の微笑みも、一瞬だけピクリと引き攣った。


「契約、成立……」


空がデジタルノイズのように裂け、巨大な光の柱がサル沢さんを吸い上げる。


到着した月面は、絵本のような世界ではなかった。


そこは、生物のような無機物が脈打つ「バイオ・メカニカル」な異界。


クレーターは巨大な眼球として地球を監視し、二足歩行のうさぎ住人たちが、

連れてこられた人間を感情ごと粉砕して燃料にしている。


絶望して発狂するはずのその光景を、サル沢さんはスマホのカメラを回しながら眺めた。


「うわ、見てこれ。テクスチャがエグいね。このライティング、完全に次世代機超えてるわ。これ、アートだね。NFTにしたら数千億は固いな」


月のうさぎたちが、手を止める。


本来、恐怖で震え上がるはずの獲物が、自分たちを「素材リソース」として査定している。


「え、怖くないの?」


かぐや姫が困惑して尋ねる。


「いや、面白いよ。地球のコンテンツ、最近マンネリだったからさ」


月側のシステム(うさぎたち)はパニックに陥った。


彼らが求めていたのは、人間の「執着」や「絶望」というエネルギーだ。


しかし、サル沢さんの脳内にあるのは「面白そう」という消費欲求だけ。


「エラー:対象の欲望構造が、弊社の基準を超過しています」


「警告:この個体を放置すると、月面全域がコンテンツ化される恐れあり」


月側の最終判断は早かった。


「返品」である。


「え、ちょっと待ってよ。まだ内見終わってないんだけど」


サル沢さんの抗議も虚しく、彼は光の速度で地球の自宅ソファへと強制送還された。


翌日。

サル沢さんの配信は、人類史上最高の同時視聴者数を記録した。


「月? うん、行ってきたよ。あれさ、意外と安いよ。運営が脆弱なんだよね」


コメント欄が「どういうこと?」と埋め尽くされる中、サル沢さんの手元には一通のプッシュ通知が届いていた。


【MOON:全ての権利を買収しますか? [Yes / No]】


サル沢さんはニヤリと笑い、「Yes」をタップしようとする。


「金で買えないものは愛くらいだろ? まあ、その愛だって、月を買えば付録で付いてくるかもな」


見上げる空。


月が、まるで獲物を見つけた捕食者から逃げるように、昨日よりも少しだけ遠くに後ずさった気がした。





現代小説【KAGUYA姫とサル沢さん】



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