5話 老人 VS エレベーターからの刺客 その1
「今、エレベーターに乗った。これから目的地まで向かう」
トランシーバーに向けてそう伝えると、トランシーバーをOFFにし、同じ格好をした隣の小柄の男に話しかけた。
「いいか?エレベーターが開いたら、警戒しながらBarに向かうぞ」
そう話かけた男は、身長170cmほどの中肉中背の体格で、黒いフェイスマスクを装着し、頭には暗視ゴーグルを乗せており、黒いサバイバルジャケット、黒寄りの緑色のような配色がした、軍隊が森の中を移動する際に履くような迷彩ズボン、黒くごついブーツを装備しており、一言で言うと全身黒ずくめのレンジャー部隊のような格好をしていた。
「・・・なぁ?そんなことよりも、ビルに入る前に銃声が聞こえなかったか?」
そんな全身黒ずくめの男の隣には、全く同じ格好のした男がもう1人、こちらは体格が160cmほどと小柄だった。
裏口から2人だけでビルに侵入したため、正面入り口から入った仲間の身に何かあったのではないかと思っていた。
「そんなことよりってなんだよ・・・おい、集中しているのか?相手はあの世界的に有名な殺し屋なんだぞ?」」
神経質な中肉中背男が、自分の声掛けを「そんなことより」で無視されたことにイライラしていた。こちらの男は銃声について何も聞こえていなかったようだ。
「分かってるよ・・・ようはジジイの殺し屋だろ?」
「全然分かってないなお前・・・裏社会でジジイになるまで生き残ってるくらい強いって意味なんだぞ?」
「だから分かってるよ。まぁ・・・実際にそんな奴がいたら、同じ殺し屋をやってる身としてサインでも貰いたいね」
そう茶化すように口笛を軽く吹きながら、両手を水平に広げておどけていた。
「・・・おいお前。良い加減にしろよ」
軽口を叩いている小柄な男を注意しながら、苛立ちを見せていた。
「心配しすぎだ!それにどんなに言っても相手は年寄りだ!ここでその爺さんを仕留めれば、やつに依頼する仕事が俺たちのものになるんだろ?楽な仕事だよ」
「今回のテストで生き残った方に仕事を依頼するなんて、依頼主も暇なのか慎重なのかわからんな・・・」
「日本ではこんな高額報酬の依頼は中々ない。珍しくでかい山だ。絶対に落とせないぞ・・・」
中肉中背の男がそう言うと、自分自身の装備している銃とナイフを確認した。
チーン!
「・・・」
エレベーターが最上階に着いた音が鳴り、ドアが開いた。廊下は照明が付いておらず真っ暗だった。
「(なぜ電気が消えてる?やつが消したのか?)」
「おい・・・」
小声で小柄の相方に声をかけると、頭上に乗せていた暗視ゴーグルを装着した。
そして、警戒しながら廊下に出ると素早く左右に持参した銃を右手に持ち、銃口を廊下に向けながら外を出た。問題がないかを確認し、腕を小さく回してエレベーターの中にいる小柄の相方に合図をした。
「はいよ」
少々大きい声でそう言うと、小柄の相方も一緒に廊下に出た。
「おい、大きい声を出すな。相手の音を聞き逃すだろ」
「チッ!分かったよ」
緊張感の無い小柄な相方に注意し、そのまま相方の舌打ちを無視しながら、ゆっくりと廊下を歩いた。
1歩1歩と確実にゆっくりと目的地のBarに近づいて行った。
また、近づきながら両壁のドアが開いては襲われないように、廊下に設置されてある数少ないドアを一つ一つ開けて、中に誰もいないか確認をしようとしたが、ほとんどのドアが施錠されていた。
「・・・」
もしかしたら、鍵の掛かったドアの部屋にターゲットがいるかもしれないということも考えてはいたが、それを考えていても仕方ない思考を振り払うようにして先に進んだ。
鍵を壊して一つずつの部屋の確認をしていたら、イタズラに時間をかけてしまう。そして、そんな時間をロスしている間に相手から何か罠を仕掛ける時間を与えてしまうと考えていた。
ゆっくり慎重に警戒しながらも、余計な時間をかけないようテンポよく前へ進むことを意識しながら、銃を構えながら目的地のBarまで歩いていた。
そして、また一つ施錠されたドアを確認し、Barまでの距離が残り10mほどまでに差し掛かろうとした。
その時、
ジャリッ!
足元から、薄くて硬い何かを踏んだような音がした。
「な、なんだ・・・!」
中肉中背男が恐る恐る足元を見ると、割れた電球の破片が床に散らばっていた。
「(なるほど、電気を消したのではなく電球を割ったのか。理由は視界を悪くするためだろうな・・・)」
ただ、その当てを外れさせたと思い、ニヤっと笑みを浮かべた。
「(残念だがこっちは暗視ゴーグルを用意している。相方の言った通り、もしかしたら殺し屋を引退しただけの年寄りなのかもしれないな)」
そう思いながら、目の前にあるドアのノブに手をかけた。その次の瞬間、確認しようとしたドアノブに鍵が掛かっていないことに気付いた。
「・・・ゴクッ」
緊張が走った。扉が開いた以上、もしかしたら例のターゲットが中にいるかもしれない。
「後ろを警戒しろ」
小柄の男にそう言うと、銃口を向けながらドアノブを回して部屋へ入った。
ジャリジャリッ
「・・・」
部屋の中には段ボールが積み重なっていた。
中は薄暗かったが5mほど先にある窓は全開に開いており、カーテンが風で微かに揺らいでいた。そこからはうっすらと月明かりが射していたため、かろうじて部屋の中を確認できた。
足元からは廊下で踏んだ、割れた電球が足裏に付着していたのか、いまだにガラスを踏む音が微かに聞こえた。
「・・・」
装備している暗視ゴーグルがサーモグラフィータイプなため、熱源を持っている生物がいると反応するものになっている。そのため物陰に隠れても分かる仕組みになっていることから、深く部屋に入らずに、その場で目視確認のみを行った。
「・・・クリア」
窓が開いていることに少しの違和感を感じるも、部屋に異常がないことを後ろにいる小柄の相方に小声で伝えると、そのまま部屋を出ようとした。
「ったく。慎重すぎるんだよ・・・」
部屋を背にして廊下を警戒をし続けていた小柄の相方が、そうブツブツと小声で文句を言った。
「・・・?」
中肉中背男の「クリア」の合図を聞いて10秒ほど経過していた。背後から中肉中背男が部屋から出るのを待っていたのだが、いつまで経っても部屋から出てこなかったのだ。
「おい・・・クリアならもう部屋の中はいいだろ!」
そう後ろ振り返ったその瞬間、中肉中背男が少し宙に浮きながらこちらを向いていた。
「は?」
その光景に動揺して声が出たその瞬間、宙に浮いた仲間がこちらに勢いよく飛んできた。
ドサッ!
「うわっ!」
重装備でかつ、自分よりも重たい仲間が不意に飛んできたため、小柄な体系の自分では支え切れるわけもなく、体のバランスが崩れて、その飛んできた仲間と一緒に床に倒れた。
「な、何してんだお前・・・は・・・」
こちらに飛んできた中肉中背男の体を起こそうと両肩を掴みながら、声を掛けたが途中で声を失った。
「うっ・・・!」
仲間の両肩を触った手に何かが付着したような感触を感じた。仲間の体をよく見ると首と頭の間に果物ナイフが深く突き立てられていた。
ナイフに気付くと、すぐに呼吸しているか確認をしたが、明らかに生体反応がないことが分かった。
その時、先ほど中に入った部屋から微かに入る月明かりが仲間の体を照らされた。
すぐに気付くことができなかったが、両手に付着したような感触の正体は仲間の首筋から流血した血であることがここでようやく理解した。
そして、脳が理解に追いついたその瞬間、血の匂いがあたりを充満していることにもようやく気がついた。
「ま、まさか部屋の中に・・・?」
仲間がやられたことを理解した瞬間、体が硬直し、身の危険を本能的に感じたその瞬間、
「気付くのが遅いのぉ・・・」
目の前から聞きなれない声が聞こえた。反射的に頭上を見上げると、小柄な老人がこちらに銃を向けていた。




