4話 妻との電話交渉
「・・・」
「い、いやワシだけならそりゃー余裕じゃけども・・・」
老人が電話越しとの相手と会話をしていたが、話が徐々に噛み合っていないようで、10名中4名の敵を仕留め損ねた報告を聞いた老人も、少し苛立ちを見せるような声色になっていた。
「・・・」
「あと・・・交渉役が何も知らん娘じゃったのよー」
「・・・」
「このままだと危ないから拾ってきてええか?」
「・・・!!!」
明らかに電話越しで怒っているのが分かるほど、荒げた大声がこちらに漏れていた。
「そ、そんなに怒らんでええじゃろ・・・ちゃんとワシが責任持って世話をするから」
まるで捨て犬を拾ってきては、親に頑張って説得する子供のような口調で、老人が電話越しの相手にお願いをしていた。
「・・・」
「わ、分かったわい・・・そんなことより相手の装備は?」
「・・・」
「もー分かってるわい!ワシだけで大丈夫じゃから!お前はすぐ脱出できるよう車を用意しておいてくれ!もう切るぞ!」
そう言うと、老人の方からケータイの通話を切った。
「はぁー・・・桃子ちゃん。妻と無事に交渉が成立したから、早くここから脱出するぞい」
「・・・」
先ほどのやり取りをどう聞いたら、交渉成立していたのか疑問に思っていた。
「な、何かよく分からないけど・・・急にこんなことになって、あなたのこと信用しろと言われて信用できる訳ないでしょ⁈いい加減くだらないイタズラはやめて‼︎」
老人が電話をしている間に多少落ち着きを取り戻していた。
そして自分にとって、ここまでの事態がタチの悪いイタズラだと思う方が納得もできるし、都合が良いという結論に至っていた。
「本当に聞き分けが悪い子じゃの〜・・・そう言うところが妻にそっくりじゃわい」
老人は「う〜ん」と唸りながら、どうしたらいいのか分からないような困った表情をしていた。
「ふぅ〜・・・分かったわい。とりあえずワシだけが外を出て片付けに行くから、桃子ちゃんはここで待ってておくれ」
「えっ!」
急に1人になるように言われたため、思わず心細さが湧いて出てきてしまった。
「自分から一緒に来ないって言っておいて何を驚いてるんじゃ?まぁ・・・腰も抜けてるようじゃから、どの道自力では移動できんじゃろ」
そう言われると、改めてまだ腰が抜けて立てないことに気づいた。その時、下半身が濡れていることに気づき、先ほどまで失禁していたこともついでに思い出した。
「とりあえず死にたくなければここで大人しく待ってておくれ」
「ちょ、ちょっと・・・!」
部屋から出ようとした老人を反射的に引き止めようと声をかけた。すると、その声に反応したように老人が桃子の方へくるりと振り返った。
「あ、そうだ。言い忘れておったが、追手が来たら雑談でもなんでも良いから時間稼ぎをするんじゃぞ」
そう言うと、バーテンダーが持とうとしていた果物ナイフを拾い、ガチャっと音を立てて扉を開けると、そのまま部屋から出て行った。
「・・・な、何がどうなってるのよ」
急にBarの中で1人になり、部屋の中はオーディオから流れるジャズだけが聞こえた。




