3話 老人 VS バーテンダー
「えっ・・・」
何が起こったか分からず、思わず声が出ていた。
そんなこちらの声が出たのと同時に、老人は手に持っていたカクテルを目の前いたバーテンダーに思いきりかけた。
バーテンダーはそれに驚いたのか、目にカクテルが入ったのか、腕で顔を拭く素振りを見せた瞬間、老人がバーテンダーに飛びかかり、自分の腕をバーテンダーの首に巻きつけ、プロレス技かのように首を絞めていた。
「客にそんな物騒なもん向けちゃいかんのぉ・・・」
「ぐぅ・・・!」
バーテンダーは痛みに耐えるような苦しそうなうめき声をあげていた。バーテンダーの右手に持っていた銃は、老人の間接技で操作できないようになっていた。
以上のことが1秒経過したか、してないかの一瞬の出来事だった。
「っ・・・!」
その異様な光景が高速で発生したため、驚いて腰が抜けたのか、尻餅をつきながら床に座って、口を開けながら茫然と眺めていた。
「女の子の前じゃ・・・命だけは助けてやるわい」
「ぐぐぅ〜・・・!」
首を絞めて気絶させようとしていたようだが、バーテンダーが空いている左手でバーカウンターの引き出しを開けた。
中には果物ナイフが入っており、それを持った瞬間だった。
ゴキンッ!
「はぁ・・・せっかくチャンスを与えてやったのにのぉ」
老人がバーテンダーの首に巻いていた腕の力を緩めると、バーテンダーの体は力が抜けたように、バタンという音を立てて地面に倒れた。
「・・・え?」
桃子は尻餅をついたまま小さく声が出ていた。
思考が未だに追いついていなかったのだが、バーテンダーが倒れる前に聞こえたあの低くて鈍い音は、とてつもなく不快で嫌な音だった。
そして、先ほどまで動いていたバーテンダーの体は、ピクリとも動かなかった。
「な、何・・・何が起こったのよ・・・?」
声を震わせながら誰に言うこともなくそう声に出した。体が徐々に只事ではないことが起こっていることに気づき始めた。
「参ったの〜・・・まぁ来る前からこうなることは予測していたが」
倒れたバーテンダーの横に立っていた老人はそう言いながら、バーテンダーが先ほどまで持っていた銃を右手で拾うと、その中に装填されている弾数を確認した。
「まぁこれなら何とか持つかのぉ〜・・・」
そう言いながら先ほど拾った銃を持ちながら、ゆっくりとこちらへ近づいて来た。
「え、な、何?何なの⁈」
「こうなってしまったからには仕方がないからのぉ〜・・・」
声を震わせながら喚いていると、老人がこちらにゆっくりと近づき、こちらを見下すように立っていた。
「どうかワシのことを恨まんでくれのぉ〜・・・」
そう言うと、先ほど銃を持っていた右手をこちらに素早く向けた。
「キャアーーーー!!!」
その瞬間、反射的に女性特有の異常事態が発生した時に出るような、金切り声を発しながら、体を丸めるように両手で頭を抑えていた。
「・・・」
時が止まったかのような感覚で、その時は何も聞こえず、視界も閉じており五感を必死に遮断していた。体を震わせながらこの恐怖の時間が過ぎ去るのを待っていた。
「・・・おい」
何秒経過したのか分からないが、体感として20秒ほど経過したと思う。その時、遠くから小さな声が微かに聞こえた。
「おい・・・お〜い・・・」
再びこちらを呼ぶような微かに小さな声が聞こえた。まるで別の山にいる自分へ必死に声を届けようとしているような声だった。何度もそのような声が聞こえたため、ゆっくりと丸めていた体を解くように頭を上げた。
「何を騒いでおるんじゃ・・・耳の遠いワシでもうるさいぞ・・・」
「・・・え?」
頭を上げると、老人がこちらに右手をパーにした状態で差し出していた。先ほどまで持っていた銃がなくなっていた代わりに、左手にその銃が移動していた。
「腰が抜けてるんじゃろ?起こしたるから早くここから脱出するぞい」
「は、はぁぁぁぁ・・・」
ジョロ、ジョロロロロ・・・
一気に力が抜けたようで、その反動で失禁をしていた。排泄をするつもりもなかったのに自然と勝手に漏れ出してしまったため、まるで他人の体のような気分だった。
そのためか、失禁してしまったことに恥ずかしさもなく、全身が脱力し切っていた。
「色々と驚いているようじゃが・・・のんびりしている余裕はないぞい」
「え・・・?」
先ほどまで他人事のようにとぼけた老人の雰囲気はなく、はたまたこちらの失禁に対してバカにしたりするようなことも言わずに、ただ真剣な表情でそう言った。
「さっきの手紙に書いてある通りなら・・・この後ここに武器を持った人間が沢山やってくるはずじゃ。まさかバーテンダー1人な訳ないはずじゃからのぉ・・・」
老人は冷静な口調で、今の状況をこちらに向けて説明した。
「そ、そんな!私は関係ないわ!なんで私も命を狙われなきゃいけないのよ‼︎」
自分は関係ないと、そう声を荒げていた。
「逆に・・・向こうがどうして桃子ちゃんを殺さないと断言できるんじゃ?命のやり取りを見た人間は消すのがこの世界のルールなんじゃよ・・・」
「な、なになに・・・⁈わ、訳分かんないわよ・・・‼︎」
老人は動揺しているこちらを見て、やれやれと言うかのように深くため息をついた。
「安心せい。こうなると思っとったから、さっき名刺を探すフリをしてケータイで連絡しておいたわい。うちの妻がすでに敵を全部片付けてくれるはずじゃ・・・」
老人なりにこちらを気遣っているのか、諭すようにそう言った。
プルルッ!
「お、噂をすれば妻からじゃのう」
そう言うとケータイを持った。
「あー思った通り・・・素人じゃったよ」
「・・・」
「いんや・・・おそらくダブル狙いじゃ。ワシ達も随分舐められたもんじゃわい。若い頃はこんな事などありえんかったからのぉ」
老人の電話の内容はこちらから聞いていても全く理解ができなかったが、電話先である「妻」にBarでの出来事を含めて、今回の手紙の依頼について話していると言うことだけは分かった。
「そう、1人じゃ。降参を促したがそのまま襲ってきたから殺っちゃったわい」
「・・・」
こちらから相手の声は聞こえなかったが、おそらく電話越しの相手は女性特有の高めな声が聞こえた。
「今から追手が来るはずじゃ。ビルの中に入っていく人を見かけたかの?おそらく武器持ちじゃ」
「・・・」
「おぉーさすがじゃ。10名いたけど全員始末できたんじゃな」
「・・・」
「はぁ?ま、待て。4名取り逃してビルに入った?冗談じゃろ??」
この会話を聞いた瞬間、自分の顔から血の気が一気に引いたのが分かった。




