1話 老人と桃子
ガチャッ
ドアが開く音と同時に背の小さい白髪のおじいさんの声が聞こえた。
「ここであってるかのぉ〜」
おそらく160cmほどで50kgあるかないかといった体格で、それなりに外に出かけるためのような、年相応の茶色を基調とした服装だった。
少々垂れ目で、目が開いているかどうかが分からないような表情をしており、例えて言うなら七福神の福の神のような顔に初老のシワを足したような表情だった。
頭は短髪で白髪がほとんどで、サイドに少々黒髪が残っていた。背中が猫背気味なのか少々曲って入るが、杖を持つほどではないようだが、遠目から見てもそれなりに年を召しているのが分かる出立ちだった。
ここは町外れにある雑居ビルの中にある会員制Barだった。薄暗く高級感はないが昔からあるようなビンテージ感が醸し出ており、天井のオーディオから小さな音量でジャズが流れていた。
中にはスーツを着たOL風の女性と、グラスを磨いている身長180cmほどの大柄なバーテンダーだけが中にいた。
「ミナモト コウジ様ですね?お待ちしてました」
Barの中に入室してきた老人の元に寄り、頭を下げながら挨拶をした。挨拶をした女性は一般平均の身長をしており、黒を基調にしたOLスーツを着ていた。
黒髪のボブヘアーで目元が切れておりクールに見えるが、それでもっと少々幼さくも感じるような雰囲気をもっていた。胸も少々大きく、スタイルが良かったため、異性からはさぞかしモテそうではあった。
「おぉ〜・・・こうやって見ると何とも・・・」
「・・・え?」
老人がまじまじとOLスーツの女性の顔から、体の隅々までゆっくりと観察していた。
「名前はなんて言うのかのぉ?」
「は、はぁ・・・ あ、失礼しました。荒波桃子と言います」
ニコニコとした表情を見せるコウジという老人を尻目に、少々緊張をしながら名刺を老人へ渡した。Barで待ち合わせをしていたこの老人は大物資産家であり、会社にとって極秘VIP対象として言われていたのだが、
老人の格好がみすぼらしく、悪く言うとお金を持っているようには見えなく、質素な生活をしているように見えた。
「ワシの格好は変かのぉ?久しぶりに東京へ行くということじゃったから、これでもまともな格好をしてきたつもりなんじゃけどのぉ〜」
こちらが邪推をしている様子を察したのか、自分の格好について独り言を言いながら、先ほどまで自分が座っていたバーカウンターの真横に座った。
「あ、いえ・・・会社の方からはVIPの方が来られると伺っていたので少々緊張しているだけです!気を悪くしないでください!」
そう言いながら、老人の真横に座った。
「フォフォフォ、いいんよ気にしておらんわ。それよりも何じゃ・・・オタクの会社はワシのことVIPって呼んどるのか・・・」
老人は桃子から貰った名刺を見て、笑いながらそう言った。
「ふむ、青花商事 株式会社。大企業にVIPと言われて光栄じゃの。あ、何か適当なカクテル一つ頼むわい・・・」
そう言うと、バーテンダーにお任せでカクテルを頼んだ。その注文をバーテンダーが無言で頷き、カクテルを作る準備をしていた。
「え、ええ。大資産家が来られると聞いておりまして、失礼がないようにと釘を刺されています」
「なるほど・・・ところで桃子ちゃんと言ったかのぉ?少々オタクのことを聞いても良いか?」
「え?わ、私のことですか?」
「そうじゃ。ワシ、一応VIP何じゃろ?多少、若い子ちゃんの接待でも受けたいからのぉ」
そう言うと、いやらしく両手を胸元まで上げて、ワシワシと揉む仕草を見せた。
「うっ・・・」
その言葉を聞いてゲンナリした気分になり、「このエロ親父め」と内心思っていた。このお話を事前に聞いていた時から多少の覚悟はしていた。
自分自身、10代に見えるような童顔であり、見た目が可愛いことを自覚していた。それを理由に学校やバイト先では贔屓にされているほどだった。
おそらく今回の会社から私をこの接待に指名したのも見た目が理由なのだろうとは薄々勘付いていた。
「は、はぁ・・・わかりました。私でよければ・・・」
この後はおそらく、雑談の延長でお金を渡す代わりに一晩の相手をするように言われるのだろう。そう覚悟していたため、うまく好意を持ってもらった状態で断る文句を考えていた。
流石に会社のためにそこまで体を張ることは考えていなかった。
「フォフォフォ、ありがとうのぉ〜。桃子ちゃんの年齢は?」
「は、はい。私の年齢は25歳です」
「若くてピチピチじゃのぉ〜、肌もワシと違ってプルプルしておるわぁ〜」
そう言いながら、桃子の太ももをいやらしい手つきで揉んでいた
「(うげぇ〜!き、気持ち悪い・・・)」
愛想笑いを浮かばせながらも鳥肌を立たせていた。自分自身、見た目に自信はあったのだが、それを売りにして金銭を得る行為、いわゆる援助交際、パパ活や、キャバクラなどといったことを積極的にしたことがなかった。
唯一大学生の頃に嫌々だが、ガールズバーで働いていたことはあったが、家庭の事情だったため、目的の貯金額まで貯められた後はすぐにやめてしまっていた。それほど自分の体を売ると言う行為が生理的に嫌だった。
「大学はどこを出たんじゃ?」
「は、はい・・・ い、一応東大を・・・出ています(1浪だけど・・・)」
「ほぉ〜!美人なだけじゃなく勉強も出来るとは立派じゃのぉ〜!」
相変わらず太ももを揉みながらそう言った。
「趣味は何をしておるんじゃ?」
「趣味は〜・・・特になくてYouTubeばかり見てますね」
「今時っぽいのぉ〜、今の会社に就職して何年目になるんじゃ?」
「い、今はその・・・3年目になります」
本当はただのアルバイト雇用で、1ヶ月ほどしか経っていなかったが、そう見栄を張っていた。
「じゃあこれからが頑張り時じゃのぉ〜!何か困ったことがあればワシが助けてやるぞぉ!」
老人が鼻を鳴らしながらそう言った。当然太ももを揉む手は止めない。
「そ、それは頼もしいですぅ〜・・・」
揉まれる度に鳥肌を立てながらそう答えた。
「そういえばワシも名刺渡さないとのぉ〜」
そう言いながら老人はポケットに手を入れた。
「あれ・・・ないぞ?忘れちゃったかのぉ〜?」
「あ、いえ構いませんよ!それよりも本題と致しまして、上司よりこちらを渡すように言われておりますので・・・」
そう早口で言うと、ハガキサイズの封筒をカウンターの上に置いた。老人のペースに合わせるとセクハラが終わらないと思ったため、急に本件に切り出したのだった。
「何じゃ、もうビジネスの話かの。もう少し桃子ちゃんの太ももを揉んでたかったのにのぉ〜・・・」
「(こ、このエロ親父が!)」
桃子の心の罵倒を尻目に桃子との会話を惜しみながら、老人はカウンターの上に置いてある手紙をジロジロと観察をしながらそう言った。
「桃子ちゃん。この手紙を開けてワシの代わりに読んでくれるかの?」
「え?私がですか?」
「うむ。ここまでの口振りだと、なんでここに呼ばれているのか理解していなさそうじゃし・・・お主にも今後は関係があるからのぉ。その方が今後の都合が良いと思うぞ」
「は、はぁ・・・わかりました」
何を言ってるのか理解ができないまま手紙を開けると、そこに文字が書かれた手紙が2枚が入っており、そのうちの1枚目の手紙を持ち、文章に目を通した。
「・・・えっ」
手紙に書いてある文面を見て、顔が硬直していた。
「どうしたんじゃ?早く読み上げてくれんか?」
「えっ?は、はぁ・・・」
あまりに現実味のない内容だったため、思考が完全に止まっていた。何も考えずにただ書かれている日本語を読み上げるように声を出した。
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ミナモト コウジ様へ
この度はこちらまでお越しいただきありがとうございます。
以前お伝えした通り、ミナモト様へは弊社のライバル外資企業にあたるジェントルメンズ株式会社の代表ニコル ジェイソンの暗殺を依頼します。
報酬といたしまして、ミナモト様を狙っている裏組織から、寿命を全うするまで護衛することをお約束します。殺し屋を引退されたミナモト様にご依頼するのは大変恐縮でありますが、どうか心良い返事をお待ちしております。
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