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結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。  作者: 山田 バルス


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閑話2 父フランシスコ=モナコラ視点 鬼嫁エマの横暴

フランシスコ視点


――父の恐怖


 フランシスコ=モナコラは、毎朝、目を覚ますたびに胸の奥がざわつくのを感じていた。

 かつては当たり前だった生活が、今はもう戻らない。


 宴はない。

 賭場にも足を運べない。

 女遊びなど、夢のまた夢だ。


 何か一つでも贅沢をしようとすれば、必ず耳元で囁かれる。


 ――王命です、伯爵。


 その言葉は、脅しだった。


 モナコラ伯爵家は、もはや自由ではない。王家の監視下に置かれ、呼吸の一つひとつまで測られているような気分だった。


 思えば、すべてはあの日から狂い始めた。


 フランシスコは王都の伯爵邸で暮らし、領地経営は代行官に任せきりにしていた。

 多少の不満は耳に入ってきていたが、「貴族とはそういうものだ」と、深く考えもしなかった。


 そんな折、息子――アンドレオが頭を下げてきた。


『このままでは、伯爵家は借金で潰れます。

 私に爵位を譲ってください。必ず立て直してみせます』


 当然、即座に拒んだ。

 爵位は、フランシスコにとって人生そのものだった。息子に譲るなど、考えられるはずもない。


 だが、妻ルーナミントが口を挟んだ。


『今のままでは危ないのは事実ですわ。

 ここは……アンドレオに任せるべきではありませんか?』


 その言葉に、フランシスコの心は揺らいだ。

 そして、渋々と――本当に、渋々だが――爵位を譲った。


 それが、すべての間違いだった。


 アンドレオは、賭けのような商売に手を出した。

 一攫千金を狙い、そして、見事に失敗した。


 領地を担保に、大金を借りたのだ。


 その事実を知ったとき、フランシスコの背筋は凍りついた。

 王国の土地は、あくまで王家から預かっているもの。

 それを勝手に担保にするなど、罪に問われて当然だった。


 案の定、王家は動いた。


 フランセ国王は、二つの選択肢を突きつけてきた。


 ――このまま平民になるか。

 ――王家の改革を受け入れるか。


 なぜ、ここまで厳しい処置が取られたのか。

 理由を知ったとき、フランシスコは頭を抱えた。


 アンドレオが借金をした相手は、隣国プロテイセ王国のルール侯爵が運営する商会だったのだ。


 つまり、借金を回収できなければ、モナコラ伯爵領はルール侯爵家のものになる。

 それは、フランセ王国内に隣国の領地が生まれるという意味だった。


 外交的にも、軍事的にも、絶対に見過ごせない。

 だからこそ、王家は本気だった。


 そして、国王が目を付けたのが――エマだった。


 エマ=モナコラ伯爵令嬢。

 父の領地経営を立て直した才女。その名は王都でも知られていた。


 愚かにも、モナコラ家は彼女を隣国スペイラ帝国に嫁がせようとしていた。

 隣国を強くしてどうする。

 そう考えた国王は、この機会にエマを利用することを決めたのだ。


 結果、モナコラ家は王家の改革を受け入れ、エマは監視付きで伯爵家に嫁がされたのだった。


 ――そして今。


 贅沢のない生活。

 自由のない日々。


 何よりも恐ろしいのは、未来だった。


 もし、このままエマに子ができたら?

 伯爵家は、永遠に質素な暮らしを強いられる。


 そんな人生、耐えられるはずがない。


 フランシスコは、執事を呼び寄せた。


「……相談がある」


 声は、かすれていた。


「エマに、避妊薬を飲ませるのはどうだ?」


 執事は、静かに首を左右に振った。


「彼女には王家からの監視官が付けられております。

 露見すれば、伯爵家は取り潰しになるでしょう」


 それは、まずい。

 フランシスコは舌打ちをこらえた。


「……では、息子に飲ませるのはどうだ?」


 執事は少し考え、答えた。


「万が一、露見しても、身内の問題です。

 大事にはならないかと」


 フランシスコは、ゆっくりとうなずいた。


「では、担当医のドクトルを呼べ」


「承知しました」


 やがて現れたドクトルに、フランシスコは低い声で命じた。


「……強力な避妊薬を用意しろ」


 ドクトルは慇懃に頭を下げる。


「一日一回にしてください。

 それ以上は……お子ができない体になります」


「わかった」


 フランシスコは、執事を見た。


「アンドレオの朝食に混ぜろ」


 その瞬間、何かが音を立てて壊れた気がした。


 息子の健康よりも、

 父としての責任よりも、

 自分の快楽を選んだ瞬間だった。



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