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結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。  作者: 山田 バルス


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第25話 皇帝カルロス激怒する!!

皇帝カルロス、激怒するヽ(`Д´)ノプンプン



 ――スペイラ帝国帝都・皇帝執務室


 重厚な扉が閉じられた瞬間、執務室の空気は一変した。


 高い天井。

 壁一面に掛けられた帝国歴代皇帝の肖像。

 窓から差し込む午後の光が、磨き上げられた大理石の床を白く照らしている。


 その中央で――。


 どんっ!!


 机が揺れた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!」


 雷鳴のような怒声が、執務室を震わせる。


 拳を机に叩きつけたのは、スペイラ帝国皇帝

 カルロス=スペイラ。


 銀の中に白が見え始めた短髪。

 中年を越えてなお衰えぬ、鎧のような筋肉。

 その身体から放たれる威圧は、並の将軍すら黙らせる。


「ペネロペ! わしの可愛い娘に、なんてことをするのだ!」


 怒りに満ちた視線が、正面に立つ二人へと向けられる。


 一人は、白髪の初老の男。

 帝国宰相――プリメール=バルサラ。

 長年この暴君皇帝を支え続けてきた、老練にして冷静な策士だ。


 もう一人は、執務室の壁際に控える若者。


 帝国一の美男子という評判、

 さらさらした金髪に端正すぎる顔立ちと、柔らかい蒼眼。

 マドリーレ公爵家令息。

 そして、見た目に反して二十歳にして到達した、剣の極致。


 ――剣聖フエルテ=マドリーレ。


 今は腕を組み、怪訝そうに眉をしかめて、

 伯父である皇帝の話しに耳を傾けている。


「婚約破棄だけでは足りないのか! 公衆の面前で恥をかかせておいて!

 今度は伯爵風情が――愛人にするだと!」


 カルロスは吐き捨てるように怒鳴った。


「フランセ王国は、どこまで我が帝国を侮辱すれば気が済むのだ!!」


 宰相プリメールは、深く一礼する。


「陛下。お気持ちはもっともですが……まずは、落ち着いてください。

 それから事実関係を整理するのが良いかと……」


「整理だと?

 侍女メアリーからの報告は、すでに三度読んだ!!」


 皇帝は書簡を引っ掴み、机に叩きつける。


「第二王子フェリップ、真実の愛に目覚めて婚約破棄。

 その次は、フランセ王国のモナコラ伯爵が、ぺネロぺに愛人になれと命じたと!

 ――これをどう整理しろと言うのだ!!」


 プリメールは一瞬だけ目を閉じ、静かに告げた。


「外交的には、看過できない大失態かと……」


「当然だ!!」


 カルロスは荒く鼻を鳴らし、背もたれに寄りかかる。


「……よし。決めた。フランセ王国に軍勢を送れ」


 その声は、低く、冷たかった。


 軍勢を送れの言葉に、ぎょっと驚く剣聖フエルテである。

 一方、宰相のプリメールは、手慣れたもので淡々と反応する。


「陛下もまだまだ、お若いですな、それでは王国の思うつぼかと……」


「どういうことだ!」


 カルロスは、訝し気にプリメールを睨む。


「娘が婚約破棄されたから、戦争を仕掛けるなど、

 諸外国に馬鹿親を宣伝するものです。ペネロペ皇女様が聞いたら、恥ずかしさで

 顔を赤くするかと……」


「では、どうしろというのじゃ!」


「目には目を、婚約破棄には同じ程度が良いかと……」


「なるほどな、わかった」


 カルロス皇帝は頷いた後、今度は甥のフエルテに目を向ける。


「フエルテ、お前とフランセ王国マリーナ王女との婚約を解消する」


 フエルテが、わずかに目を見開いた。


「陛下、それは……」


「当然の報いだ。

 我が娘を侮辱しておいて、剣聖を攻略しようなど笑えん冗談だ」


 フエルテは、困惑を隠さず口を開く。


「ですが……私も、皇女殿下も、

 一度婚約が破棄されれば、次の婚姻は難しくなります」


「わかっておる」


 カルロスは腕を組む。


「しかし、兵を送れぬとなれば、

 ――この方法しかあるまい」


 そこで、フエルテは一歩前に出た。


「……陛下。

 一つ、お願いがあります」


「なんだ。言ってみろ」


 若き剣聖は、真っ直ぐ皇帝を見据える。


「私と――

 ペネロペ皇女殿下との婚姻を、ご検討いただけませんか?」


 室内の空気が、ぴたりと止まった。


「…………」


 カルロス皇帝のこめかみが、ぴくりと動く。


「……お前」


 低い声。


「ようやく、なのだぞ……」


 ゆっくりと立ち上がり、フエルテを見下ろす。


「せっかく、可愛いペネロペが婚約破棄されて自由になったのだぞ?」


「……」


「それをだ。

 すぐまた嫁に出せと言うのか!?」


 怒りというより、完全に馬鹿父親だった。


「あのかわいい【ですわ】言葉が聞けなくなったらと思うと、わしは寂しい」


 フエルテは思わず視線を逸らす。


 皇帝がペネロペの、ですわ口調を直さないようにと配下の者に命令したのは、有名な話だ。


 それを思い出して、プリメールは、わずかに口元を緩めた。


(ああ……完全に親馬鹿だなと……)


 カルロスは、ふと記憶をたどる。


 婚約破棄の報を告げた時。

 ペネロペは、まったく興味を示さなかった――


 泣かなかったし、取り乱しもしなかった。


 医師から「静養が必要」と告げられた際など、


『まあ。では、聖女エマ様【おねえさま】のところで癒やされて参りますわ』


 ――と、にこにこしながら出かけていった。


「……ペネロペのやつ」


 カルロスは苦笑する。


「婚約破棄されたのに、落ち込んでおらんかったな……」


 だが、それから数日後。


 侍女メアリーから届いた報告。


 フランセ王国の伯爵風情に、愛人になれと脅された。


 思い出しただけで、怒りで体が震える。


「……心配だ」


 カルロスは深く息を吐く。


「だが、婚姻か……」


 ふと、ある考えが浮かび、口角が上がる。


「そういえば、ペネロペは――

 聖女エマに夢中だったな」


 プリメールが頷く。


「ええ、かなりご執心かと……」


 ならば、フエルテの申し出も、断るだろうと皇帝カルロスは考える。


 にやり、と悪い笑みを浮かべた。


「よし、それならば

 ペネロペがもし了承したら、二人の婚姻を認めよう」


 フエルテは目を瞬かせた。


「……よろしいのですね?」


「ペネロペが断ったらあきらめろ。

 それでいいな」


 それから、カルロスは巨大な机の長い引き出しを開け、一振りの剣を取り出した。


 白銀に輝く刀身。

 国宝級のミスリル製の名剣。


「これを持っていけ」


「これは……」


「ロドリゲスに渡せ。

 ペネロペと一緒にいるはずだ」


 剣を差し出しながら、低く告げる。


「師匠に、ですか?」


「そうだ。あのバカ、ドラゴンとやりあうつもりだ。

 だから、必ず返すように伝えておけ」


 さらに、皇帝は鋭い目で言い放つ。


「それと――勅命だ」


「……はい」


「死ぬな」


 一拍。


「死んだら――

 ぶん殴ると伝えておけ」


 フエルテは苦笑し、深く一礼した。


「確かに、伝えます」


 こうして。


 皇帝の怒りは、

 外交問題となり、

 婚約解消へと発展していく。


 だが同時に――


 帝国皇女ペネロペを巡る、新たな運命もまた、

 静かに動き出していたのだった。

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