表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/50

第24話 オサスナ視点 メアリーは、怖い。

オサスナ視点――メアリーは、怖い。



 メアリーは、怖い。

 オサスナ=ビジャレナルは、そう結論付けている。


 理由は、明確だ。


 声を荒げるわけでもない。

 剣を抜くわけでもない。

 怒鳴るわけでも、睨みつけるわけでもない。


 それなのに。


 彼女が一言、静かに言うだけで、

 なぜか自分の背筋が、無意識に伸びる。


「護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」


 低く、落ち着いた声。

 だが、そこには一切の妥協がない。


 ……怖い。


 ◇


 俺は護衛だ。


 仕事は単純明快。

 ペネロペ様を守る。

 危険を排除する。

 それだけだ。


 感情は不要。

 判断は迅速に。

 迷いは、死に繋がる。


 だから……


 ペネロペ様に近づく不審者がいれば、斬る。

 迷う理由はない。


 それが当然だと思っていた。


 だが。


「……やりすぎです」


 エマ様が止めに入った後。


「……護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」


 メアリーが諭すように言った。


 剣を納めた俺を、まっすぐ見て。


 責めるでもなく。

 怒るでもなく。


 ただ、姉が弟に言い聞かせるように。


 まるで姉と話している時のように……怖い。


 ◇


 メアリーは、よく見ている。


 店内の人の流れ。

 客の足取り。

 会計の速度。

 在庫の残数。


 すべてを、淡々と処理している。


 だが、それだけではない。


 俺の立ち位置。

 視線の向き。

 剣に手をかける癖。


 気づけば、全て把握されている。


「そこですと、入口が死角になります」


 ある日、そう言われた。


「……問題ない」


「問題があります」


 即答だった。


「ペネロペ様がこちらへ動かれた際、半拍遅れます」


 ……正しい。


 正しいからこそ、怖い。


 ◇


 なぜ、そんなに分かる。


 なぜ、そこまで見ている。


 彼女は剣を振らない。

 護衛でもない。


 それなのに。


 俺よりも、ペネロペ様の安全を把握している。


 俺よりもペネロペ様を理解しているところが、怖い。


 ◇


 そして、もう一つ。


 俺が一番、理解できないこと。


 メアリーは……

 なぜか俺に、冷たい。


「……何か?」


 そう聞くと、


「いいえ」


 即座に視線をそらす。


 声は平静。

 表情も崩れない。


 だが。


 空気だけが、少し冷える。


 理由が、分からない。


 俺は、何かしただろうか。


 職務は果たしている。

 無礼も働いていない。


 なのに。


 彼女の態度が……怖い。


 ◇


 ある日の夕方。


 店が落ち着いた頃、入口警戒に立っていた俺に、メアリーが近づいてきた。


「……少し、よろしいですか」


「何だ」


「視線が、偏っています」


「?」


「ペネロペ様ばかり見ています」


 当然だ。

 護衛対象なのだから。


 そう言おうとして……

 なぜか、言葉に詰まった。


「……それが、仕事だ」


「承知しています」


 即答。


「ですが、周囲も見てください」


 その言葉に、なぜか胸がざわついた。


 怒られているわけではない。

 命令でもない。


 ただ、忠告。


 それなのに。


 なぜか? 彼女の表情が……怖い。


 ◇


 夜。


 食堂での会話。


「ペネロペ様は今日も可愛い」


 思ったことを、そのまま言っただけだ。


 すると、


「だからといって、斬るのはダメです」


 メアリーが言う。


「だが――」


「だが、ではありません」


 被せるように、ぴしり。


 その瞬間、周囲の空気が止まった。


 ……怖い。


 だが。


 なぜか、このやりとりが嫌ではなかった。


 ◇


 分からない。


 敵意を向けられているわけではない。

 軽蔑されているわけでもない。


 むしろ……


 認められている、気がする。


 それが、余計に怖い。


 ◇


 俺は、田舎の子爵家次男で、魔物と戦いながら育った。


 敵意も殺気も、分かる。

 剣を向けられれば、即座に対応できる。


 だが。


 メアリーは、剣を持たない。


 言葉で、空気で、正論で……

 逃げ道を塞いでくる。


 それが、怖い。


 ◇


 夜警の時間。


 廊下で、すれ違う。


「……お疲れさまです」


 メアリーが言った。


「……ああ」


 短く返す。


 一瞬、視線が合う。


 すぐに、逸らされる。


 ……なぜ、だ。


 なぜ、その一瞬が、

 こんなにも気になる。


 ◇


 結論は、出ている。


 メアリーは、怖い。


 だが。


 なぜこんなにも、怖いと思ってしまうのだろう。

 怖いと思う中でも、彼女に嫌われてしまうことが、

 一番、怖いと感じてしまう。


 だから俺は今日も、嫌われないように、

 少し距離を取りながら行動する。

 そして、なぜか? 自然と目が彼女を追っている。


 ……この「怖さ」の正体を、

 まだ、理解できないまま。


 パワーストーン店の夜は、

 今日も静かに、警戒の中で更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ