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結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。  作者: 山田 バルス


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第23話 メアリー視点 わたしのことも見て欲しい

メアリー視点 片想い



 ……私、メアリー=シエーロは、男爵家の三女として生まれた。


 爵位としては取るに足りない家柄。

 けれど、だからこそ与えられたものもある。


 努力する自由。

 そして、評価される覚悟。


 スペイラ学院では、必死に勉学に励んだ。

 成績だけは、誰にも文句を言わせないつもりだった。


 そんな私を見ていたのが、当時の生徒会。

 中でも、次代を担う皇女……フィーダ様だったと、後から聞いた。


「妹のために、優秀な侍女が必要になる」


 そう考え、候補を何人も挙げていた。

 ペネロペは、「ですわ」の使い方がおかしい娘に育ってしまい、

 その分、それを手助けできる優秀な侍女が必要だ。

 そして、最後の選考は……


 妹君、ペネロペ様との面談だった。


「この方が、いいですわ」


 そう言われたときのことは、今でも覚えている。

 理由は、特別なものではなかった。


「真面目そうで、優しい目をしている、ですわ」


 それだけ。


 それだけだったのに、私の人生は大きく変わった。


 ◇


 ペネロペ様の侍女となって、しばらくした頃。

 彼女には専属の護衛が付いた。


 オサスナ=ビジャレナル。


 短い青髪に、感情の起伏がほとんど見えない顔。

 無口で、融通が利かず、そして……


 誰よりも、ペネロペ様を見ていた。


 視線が、常に彼女を追っている。

 危険がないか、距離は適切か、誰が近づいているか。


 それは職務だと、頭では分かっていた。


 分かっていたはずなのに。


「……また、ですか」


 思わず、冷たい声が出てしまう。


 パワーストーン店。

 今日も店内は、穏やかな賑わいを見せている。


「いらっしゃいませ、ですわ」


 ペネロペ様が、銀髪を揺らしながら微笑む。

 その一挙一動に、客の視線が集まるのも無理はない。


 ……だからこそ。


「近い」


 オサスナが、低く言った。


「もう半歩、下がれ」


「……分かっています」


 私は会計台の奥で、伝票を整えながら答える。


「ですが、今は接客中です」


「関係ない」


「……」


 彼は、ペネロペ様のことしか見ていない。


 それが、胸に刺さる。


 分かっている。

 彼の忠誠は、揺るぎない。


 それでも……


「少しは、周囲も見てください」


 つい、言ってしまった。


 オサスナは、わずかに眉を寄せる。


「……何だ?」


「いえ」


 私は視線を落とした。


「何でもありません」


 冷たい。

 そう、自覚はある。


 でも、止められなかった。


 ◇


 昼下がり。

 一瞬の油断を突いて、軽薄な男がペネロペ様に近づいた。


 手を伸ばそうとした、その瞬間。


 剣が、喉元に突きつけられた。


「その汚い手を、放せ」


 オサスナの声には、一切の迷いがなかった。


 ——やりすぎだ。


 そう思ったのに。


 男が逃げ去ったあと、私は言った。


「……護衛が、切り捨て御免を連発しては困ります」


「だが——」


「だが、ではありません」


 強い口調になったのは、嫉妬だ。


 分かっている。

 分かっているから、余計に苦しい。


 彼は、私を見ない。


 いつも、ペネロペ様だけを見ている。


 ◇


 夕方。

 店が落ち着いた頃、品出しをしながら、ふと気づく。


 オサスナが、店の入口に立ったまま、動かない。


「……何をしているのですか」


「警戒だ」


「店内は安全です」


「それでもだ」


 即答。


「ペネロペ様が、ここにいる」


 それだけで、理由は十分なのだ。


 私は、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。


「……忠誠心が高いのですね」


「当然だ」


 少し、間が空く。


 彼が、珍しく私を見る。


「お前も、同じだろう」


「え?」


「ペネロペ様の侍女で、命を張ってる」


 淡々とした言葉。


 だが、それは――


 認められた、ということだろうか。


「……当然です」


 私は、そう答えるしかなかった。


 ◇


 夜。

 工房併設のダイニングで、皆で食事を囲む。


「ペネロペ様は今日も可愛い」


 オサスナが真顔で言う。


「だからといって、斬るのはダメです」


 私は即座に返す。


「だが――」


「だが、ではありません」


 言い慣れたやり取り。


 エマ様が、苦笑する。


「……仲良しですね」


「別に」

「仲良くありません」


 声が、重なる。


 その瞬間、オサスナがこちらを見る。


 ほんの一瞬。

 本当に、一瞬だけ。


 でも……


 胸が、跳ねた。


 ◇


 夜更け。

 食後の片付けを終え、廊下で一人になる。


「……はぁ」


 小さく、息を吐く。


 私は、オサスナが好きだ。


 ペネロペ様を、必死に守る、その姿が。

 不器用なほど真っ直ぐな、その在り方が。


 けれど。


 彼の視線の先に、私はいない。


 それでも、いい。


 今は……


 同じ場所で、同じ人を守っていられるなら。


 私は、今日も少しだけ冷たい顔をして。

 そして、少しだけ期待してしまう。


 ……彼が、いつか。

 私を見る日が来るのではないかと。


 それが、叶わないと知りながらも。


 パワーストーン店の夜は、静かに更けていった。

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