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結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。  作者: 山田 バルス


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閑話5 父フランシスコ視点 大金を手に入れる素晴らしい計画

フランシスコ視点 大金を手に入れる素晴らしい計画



 エマが屋敷を去ってから、伯爵家の空気は目に見えて変わった。


 静かになった、というのとは違う。

 軽くなったわけでもない。


 ――重く、濁った。


 あの女は、確かに不愉快だった。

 口を開けば節約、帳簿、王命。

 だが今になって思えば、屋敷の隅々まで目が届き、歯車は狂いなく回っていた。


 それが、今はどうだ。


 アンドレオは、別の女を側室として迎え入れた。

 平民の女。名はアルカとか言ったか。

 青い髪に赤い目――いかにも血の気の強そうな女だ。


 腹が膨らんでいるのを見たとき、私は内心で舌打ちした。


(……薬は、効かなかったか)


 あれほど念を押したはずだった。

 一日一回。それ以上は危険と、医師も言っていた。


 だが、結果がこれだ。


 もっとも、今さら悔やんでも仕方がない。

 子ができた以上、平民であってもどこかの家に養子にだし、

 側室として迎え入れる形にすれば、王国法上は問題ない。


 それよりも問題は――金だった。


 エマがいなくなり、アンドレオが実務を握った途端、領地の運営は急激に悪化した。


 まずは支出が増えた。

 茶会、衣装、宝石。

 使用人を減らし、節約したのかと思えば、余計な買い物が増えている。


「……この調子では、もたんぞ」


 帳簿を睨みながら、私は呟いた。


 まだ破綻ではない。

 だが、確実に、危険は近づいている。


 王家の管理官はいない。

 だからこそ、歯止めがない。


 エマがいれば、と思う瞬間は何度もあった。

 あの女は、驚くほど有能だった。

 たった3年間で、エメラルド鉱山で利益を出し、支出を減らし、伯爵家の財政を立て直したのだ。


(連れ戻すべきだ……?)


 一瞬、そんな考えが浮かぶ。


 だが、すぐに首を振った。


 無理だ。

 あの女は、戻らないだろう。

 モナコラ伯爵家への忠誠心など持ち合わせていない。


 ならば――別の道だ。


 金を、短期間で手に入れる方法。


 私は、ふと遠い記憶を掘り起こした。


 スカイドラゴン。


 スペイラ帝国西部、険しい山岳地帯に棲む希少種。

 その卵は、伯爵家の一年分の予算に匹敵するほどの価値がある。


 最初に手を出したのは、二十五年前だった。


 まだ私が現役で、余裕があった頃だ。

 家令に命じ、卵の奪取を狙わせた。


 結果は失敗。

 ドラゴンは激怒し、周辺を焼き払い、男爵領が一つ滅びたと聞いた。


 ――他国の話だ。

 どうでもいい。


 二度目は、五年前。

 財政が怪しくなり始めた頃だ。


 再び卵を狙ったが、また失敗。

 今度は伯爵が犠牲になったらしい。


 これも、スペイラ帝国の話だ。

 こちらの知ったことではない。


 ただ、その時に聞いた報告が、今も耳に残っている。


 ――スカイドラゴンは、帝国軍の攻撃を受け、東へ移動した。


 東。

 つまり――モナコラ伯爵領の北西。


 奥山。

 人の立ち入らぬ、古い山域。


「……なるほど」


 私は、ゆっくりと口元を歪めた。


 あれから五年。

 ドラゴンは、成体だ。

 巣を移したのなら、そろそろ卵を産んでいてもおかしくない。


 もし、手に入れば?


 一つでいい。

 卵一つあれば、一年分の領地運営費は出る。


 王家も、すぐには口を出せまい。

 借金を返し、表向きは安定しているのだから。


(……これは、天の恵みだ)


 過去二度の失敗は、不運だっただけだ。

 今回は違う。


 場所は近い。

 情報もある。

 そして、今は他に手がない。


 私は執事を呼び寄せた。


「北西の山を調べろ」


 執事は一瞬、言葉を失ったが、すぐに理解したらしい。


「……スカイドラゴン、ですか」


「そうだ」


 声を低くする。


「調査隊を出せ。

 見つけるだけでいい。

 卵があれば、報告しろ」


 執事は、躊躇した。


「……危険です。もし暴れれば――」


「他国ではない」


 私は、きっぱりと言った。


「ここは、モナコラ領だ。

 被害が出ても、我が家の問題だ」


 それに――

 今さら、多少の犠牲が何だというのだ。


 平民が何人死のうが、村が一つ焼けようが、金が入れば立て直せる。


 私が生き残れば、それでいい。


(私は、間違っていない)


 これは、伯爵家を守るための決断だ。

 愚かな息子の尻拭いでもある。


 エマに頼らずとも、道はある。

 いや――あの女が戻るよりも、ずっとマシだ。


 私は窓の外、北西の山を見やった。


 まだ、何も起きていない。

 だが――それは、嵐の前の静けさに過ぎない。


「……今度こそ、成功させる」


 そう呟いたとき、胸の奥で、嫌な音がした気がした。


 だが私は、それを無視した。


 失敗など、考える価値はない。

 必要なのは、金。


 そして――

 スカイドラゴンの卵は、そこにあるはずなのだから。

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