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第3話

 早々に会議を切り上げ、会議室を出る。

兵に守られながら歩く私の前に、ジェードが現れた。


「セオネード! これは一体どういうことだ。君がこれほど、議会を無視した暴君と化すとは思わなかったよ。王とは認められない。よって戴冠式は承認されない。これは我々の意志だ」


 ジェードが見せる書面には、私の即位に反対する大貴族たちの署名が並んでいた。

ここ最近議会に姿を見せないと思っていたら、そんな策略を裏で回していたのか。


「私が暴君? だったらあなたたちは、なんだというの? ジェード、あなたが気に入らないのは、自分の思い通りにならないことよ。あなたが王になるくらいなら、私が王になった方がマシよ!」


 ジェードの手が頭上まで振り上がる。

殴られるかと思った瞬間、彼の手が私の手首を掴んだ。


「やめて! 離して!」

「うるさい、こっちへ来い!」


 彼に引きずられ、空いていた部屋に押し込まれた。

ソファに投げ出されると、ジェードが私の上に覆いかぶさる。


「何をするの! やめて!」

「俺と結婚するという約束はどうなった! ここで結婚しなければ、いつするんだ!」

「そんな約束、した覚えはないわ!」

「していただろう。幼いころからずっと。俺はお前の夫となるためにこれまでを過ごしてきたんだ!」


 知ってる。

彼はそうなるよう、望まれていたことを。

ずっと側にいて、助けてくれていたことを。

私もジェードのことが好きだった。

だけどいつしかそれが、彼の中で変わってしまった。

優しい気遣いは支配的な命令となり、私を守るという口実で他者との断絶を好んだ。

ただ隣に立っているだけでいいだなんて、そんなの嘘。


「ねぇ、ジェード。私の話を聞いて?」


 手を伸ばし、彼の頬に触れる。

だけどその手は、強く握り返された。


「お前の話を聞くのは、俺の言うことを聞いてからだ」

「聞いてるわ、もうずっと聞いてた。だから今度は、私の番なんじゃな……」

「お前は間違ってる!」


 そう言い切ったジェードは、かつてないほどの怒りに全身を震わせていた。


「もうこれ以上我慢出来ない。俺の限界を試すような行為は、もうやめてくれ。うんざりだ。どうしてこんなことをする? 何が気に入らない? 他の男が知りたいというのなら、前も言っただろ。俺の子を産んでからなら、いくらでも……」


 掴まれていた手をはねのける。

私の手は、遠慮なくジェードの頬を打った。

彼を押しのけ、ソファから入り口のドアまで駆け戻った。


「あなたとは結婚しない。絶対に。もう私のことは諦めて。今ならまだ間に合うわ。大人しく私の即位を許可する署名にサインしてくれれば、全部水に流してあげる」

「ハッ。随分偉くなったものだな。王女殿下」


 彼は赤くなった頬に手を当てながら立ち上がった。


「お前が望んだのは、人形なんだろ? 王の隣に立つ伴侶は、自分の思い通りに動く従順なペットが一番便利だ。俺が望んだものと、何が違う。同じじゃないか」

「そんなこと思ってない!」

「ならどうして、官位も実力も身分もない男を選んだ。何でも言いなりになるからだろ。現に継承の儀まで付き合わせて、いざ結婚となれば外へ出て行く。なんていい男だ。実に素晴らしい。きっと彼なら、君の便利な愛人役も、喜んで引き受けるだろうよ」

「あなたの目には、そんな風にうつっていたのね……」


 自分のことを悪く言われるのは、別に構わない。

いくらでも言われたって平気。

だけど大切に思っている人を、悪く言われるのだけは許せない。


「もういいわ。あなたの許可なんて必要ない。私は私自身のまま、この国の王となります」

「そうなのか? じゃあもう、あの男はいらないな」


 ジェードの手が、ドアノブに手をかけた私の手の上に重なった。


「どういうこと?」

「一人で即位するのなら、夫はいらないのだろう? 俺とも結婚しないらしいし。婚約者殿も、完全に用済みだ。消えてもらおう」

「……。エドに、何をしたの?」

「何も? 君が欲しいと言えばいつでも渡せるように、用意しておいただけだ。いらないのなら、処分しておく」


 ジェードは部屋の扉を開けた。

外で待機していた兵たちが、私たちを取り囲む。


「我が国初の、独身の女王の誕生か。おめでとう。即位のための同意書に、サインしておくよ」

「待って!」

「戴冠式は来週だっけ? 楽しみだな」


 ジェードが廊下の奥に姿を消した。

私の両足は震え、立っていることすら出来ずその場にしゃがみ込んだ。


「エド……」


 あぁ。

やはり、手放すんじゃなかった。

一度離れたものを取り戻すなんて、そんなことは出来ないだとか無理だとか、迷っている暇はなかった。

彼を婚約者に選んだことを、後悔していない。

だから彼にも、私が婚約者であったことを後悔してほしくない。


「……。カラム騎士団長を呼んできて」


 ジェードは自分で宣言した通り、私の即位を承認する書類にサインをした。

だがこれは、事実上の宣戦布告だ。

私が王となるなら、もはや彼は武力行使も辞さないだろう。

戴冠式の日は、すぐそこまで迫っていた。



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