舞踏会は暗闇に始まる
テーマは『舞踏会』
『第7回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』の対象となる超短編作品です。
「―――舞踏会?」
「うん、これ見て。この日空いてるって言ってたよね?」
そう言って彼女が差し出してきたスマートフォンの画面を覗く。
確かに予定は空いている。行けないかと問われれば行けるのは間違いない。
だけど。
「舞踏会って、なんだ?」
言葉くらいは聞いたことがある。というよりも言葉でしか知らない。
これまでの人生で今のこの日本にそれが存在するというのを見たことはない。
本当にそんなものがあるのだろうか。
「そりゃやってるところではやってるよ」
「……まぁ、そういうものかもしれないけど」
そう言われれば納得するしかない。
別に自分は何でも知っているわけではない。知らないものなんて無数にある。これだってその一つなのだろう。
ただ、彼女が自分を誘ったというのは気になるところだ。
「変な人が参加しないように、だってさ。男女のペアでないとだめなんだって」
「……それ、恋人とか夫婦でってことじゃないのか?」
「かもしれないけど、そういう規則ってわけじゃないし、いいでしょ?」
正直に言うと、少しの興味はある。
予想だにしなかった完全に未知の世界だ。どんなものか見てみたいという好奇心はある。
積極的に、というほどではないが、誘われたなら参加するのも悪くない。
「……思ったより、こじんまりとしてるな」
「そう? こんなもんでしょ」
当日、訪れた会場を眺めて呟く。
貴族が集まるような豪奢なものを想像していたが、さすがにそこまでではない。
とはいえあくまで想像していたよりも、というだけで決して貧相というわけではない。
舞踏会ではあったが、ダンスは申し訳程度で食事と交流がメインのようだった。雰囲気を楽しむための会なのだろう。承知の上で参加しているため、そこに不満は特にない。
「―――っ!」
突然、会場の照明が消える。
暗闇の中、あちこちから息を呑むような気配がする。
そして、くぐもったような音。
その不気味さに全員が息を潜めていた。
やがて、明かりが灯る。
同時に悲鳴。
一人二人ではない。多くの人が即座に反応していた。
幸か不幸か、ここからは何が起こったのかを察することはできなかった。
だけど、納得はあった。
だから、彼女はここに来たのだ。
なぜなら闇に包まれた瞬間、すぐ隣からくすりと笑みが漏れていたのだから。




