エピソード – 裂け目とオブスクル
時計が零時を告げると、街は不気味な静寂に包まれた。世界は微かな振動の中で止まり、時間の流れは重く歪んでいるように感じられた。これは ミニュイ、現実の膜が薄れ、目に見えないものが顕現する、稀有で危険な瞬間だった。
廃れた路地の中央で、黒い裂け目が突然裂けた。空気は波打ち、冷たい闇の匂いが周囲を満たす。裂け目の縁は揺らめき、まるで時間そのものが引き裂かれているかのようだった。
裂け目から現れたのは人間の姿をした人物。整った顔立ちと赤く光る目は異常な冷たさを宿し、見る者すべての心を凍らせる。彼の歩みに応じて空気が歪み、光が吸い込まれるように周囲が暗く沈んでいった。
ミニュイの間に、裂け目から無形の存在たちが解き放たれた。オブスクルと呼ばれるその影たちは、肉体を持たず、覚醒者にしか視認できない。彼らは空中を漂い、まるで暗い星屑のように揺らめき、静かに世界を観察する。
オブスクルは自由に動き回り、路地の影に潜み、建物の間を滑るように漂った。彼らが近づくと、空間が微かに歪み、風のない場所でも髪や服が揺れるような感覚を覚える。
裂け目の中の人物はゆっくりと歩を進めた。冷たい赤い瞳で世界を見渡しながら、微笑む。その笑みは残酷で、解き放たれたオブスクルたちがまるでその意志を映すかのように動き、街全体に影の渦を広げた。
ミニュイが終わった後も、彼の姿は物理的にこの世界に残り、人々にも覚醒者にも見える。しかし、その身体は徐々に群衆や影に溶け込み、目立たない形で街に潜伏する。まるで、常に監視し、潜む脅威のように存在し続けるのだった。
オブスクルたちはなおも漂い続け、覚醒者にのみ見える影として、街を静かに包み込む。彼らは静寂の中で呼吸するように動き、空間の隙間から世界の裂け目を覗く。
裂け目は依然として脈打ち、いつ崩れ去るかわからない不安定な力を秘めていた。
人間の姿をした敵と解き放たれたオブスクルたちによって、街の夜は変容した。
この世界は、今後も影と現実の狭間で揺れ続けることを、誰もまだ知らない。




