同じ夜、同じ部屋
遠くへは連れて行かれなかった。
一つ下の階。
少し狭い廊下。
照明も控えめだ。
ここには、研究施設らしさはなかった。
静かすぎる学生寮――そんな印象だった。
Naëlが一枚の扉の前で立ち止まる。
「101号室だ」
カードキーをかざす。
音もなく扉が開いた。
簡素な部屋だった。
シングルベッドが二つ。
机も二つ。
窓の向こうには、眠りについた街。
それだけ。
「相部屋?」と俺は聞いた。
「そうだ」
Naëlは淡々と答える。
「その方が都合がいい」
俺は窓際のベッドの横に鞄を置く。
マットレスは固い。
清潔すぎて、どこか落ち着かない。
Naëlは反対側のベッドに腰を下ろし、
ジャケットを脱いで椅子に丁寧に掛けた。
「よくあることなのか?」
「こうして人を一緒にするのは」
「状況を把握している人間がいる場合はな」
俺はベッドに腰を下ろす。
沈黙が戻る。
重くはない。
気まずくもない。
ただ、共有される沈黙。
「どれくらい、ここにいるんだ?」と聞いた。
Naëlは天井を見つめたまま答える。
「やってはいけないことが分かるくらいには長い」
「でも、すべてを理解するには足りない」
俺は軽くうなずく。
それで十分だった。
窓の外では、街がまだ生きている。
車のライトが流れ、
遠くでクラクションが鳴った。
「明日からだな」
Naëlが言う。
「基本的なことを教える」
「派手なことは何もない」
「もし、失敗したら?」
彼は俺を見る。
「その分、早く学ぶだけだ」
俺は仰向けになり、両腕を頭の下に回した。
「正直……」
「もっと、何かあると思ってた」
Naëlが小さく笑う。
「最初はいつもそうだ」
「静けさの後に来る」
照明が自動的に落ちる。
暗闇の中、見えない天井を見つめる。
同じ部屋。
同じ夜。
昨日までと変わらない世界。
それでも――
確かに、何かが変わった。
外ではない。
俺の内側で。
そして今回は、
一人じゃなかった。




