第26話 吾郎丸さんへの罰
「ここが吾郎丸の病室だ」
天飛さんが吾郎丸さんの病室の扉を開けてくれたので心配だった私は天飛さんより先に病室に飛び込む。
「吾郎丸さん!」
「アハハハハッ! マジ、この芸人のネタウケる~!」
「は?」
病室に飛び込んだ私の視界に入ってきたのはテレビを見て爆笑している吾郎丸さんの姿だった。
「あれ? お嬢じゃないっすか? そんなに慌てた様子でどうかしたんすか?」
私に気付いた吾郎丸さんは頭に包帯を巻いているがとても元気だ。
いや、テレビを見て爆笑するなんて元気以外の何ものでもないだろう。
「吾郎丸さん……ケガは……?」
「あ、ケガっすか? たんこぶができただけっす!」
たんこぶができただけ……
あの院長先生の言ったことは本当だったんだな。疑ってごめんなさい、院長先生。
「凛子はお前のことを心配して様子を見に来てくれたんだ! 感謝しろや! 吾郎丸!」
「ひ! 若頭! すみません! お、お嬢! 心配してくれてありがとうございます!」
天飛さんに怒鳴られた吾郎丸さんはベッドの上で慌てて正座をして私に土下座をする。
これだけ元気なら心配して損したかも。
でもまあ、もしかしてってこともあったわけだし、たんこぶも立派なケガなんだから病院に運んで正解だったよね。
「てめぇがたんこぶぐれぇで意識飛ばすから騒ぎがデカくなったじゃねぇか! 身体を鍛え直せや! 吾郎丸!」
「はい! 退院したら本家の屋敷の周囲を毎日10周しますんで勘弁してください! 若頭!」
「10周だと? そんなんで足りるか! ボケェ! 毎日100週しろや!」
いやいや、屋敷の周囲って言ったってけっこう距離あるのに100週は無理だよ、天飛さん。
いくら犬だからってそんなに走ったら死んじゃうって。
「天飛さん。今回は吾郎丸さんのおかげで私も助かった訳ですし、そこまでキツイ罰を与えないでください。せめて毎日5週程度で……」
「チッ! 凛子は本当に甘いなぁ。まあいい、それなら吾郎丸への罰として毎日屋敷の周囲を5週走れ! 吾郎丸!」
「分かりました!」
吾郎丸さんは深々と土下座する。
ふう、とりあえず一件落着か。
私が安堵の息を吐き出すと天飛さんの低い声が響く。
「それで吾郎丸。凛子を襲った車の奴らの顔は見たのか?」
「はい! 運転手は雨海藤組に出入りしていた奴に間違いありません! そいつとは以前、シマの小競り合いの時に顔を見てますから間違いなくそいつでした!」
「雨海藤組か……奴らには改めてケジメつけさせてやるか」
雨海藤組って天昇火風光会の敵対組織だったよね。
そいつらが私を狙ったってこと……?
天飛さんはそいつらにケジメをつけさせるとか言ってるけどこれをきっかけにヤクザさんたちの抗争が始まるのだろうか。
そんなことはやめてほしいと民間人を代表して言いたいけどヤクザさんの世界のことに私は口を出せないもんね。
自分が天昇火風光会の会長の義娘であっても私には権力も発言力もない。
だけど抗争が始まって天飛さんたちがケガをするのは嫌だ。
「あ、あの、天飛さん! もしかして雨海藤組に仕返しとかするつもりですか? そんなことしたら天飛さんの身も危ないんじゃ……」
「凛子が心配してくれるのは嬉しいが俺が雨海藤組なんかに殺られるわけねえだろ? このことは暁刀ととも話し合って対応を決める」
そうだった。暁刀さんは天昇火風光会の傘下の組の中でも武闘派だったよね。
抗争するとなると暁刀さんの出番となるのか。それなら暁刀さんが抗争回避に賛成してくれれば抗争しなくて済むかも。
「そろそろ帰るぞ、凛子」
「あ、はい」
天昇火風光会と雨海藤組の抗争をなんとか止められないかと考えながらもとりあえず今日のところは天飛さんと自宅に帰ることにした。




