第22話 ヤクザの組事務所
「お嬢。バイトお疲れ様でした」
「吾郎丸さんも私のボディーガードお疲れ様でした。結局カフェオレ何杯飲んだんですか?」
「10杯っす!」
吾郎丸さんは元気に答えるが私は吾郎丸さんがお腹を壊さなければいいなと考えてしまう。
食い逃げ犯を無事に警察に引き渡し私はバイトの続きをして今は帰宅する車の中だ。
「いやあ、それにしても若頭たちがお店に来た時は自分が何か下手うって若頭たちがシメに来たのかと思って焦りやしたよ」
吾郎丸さんじゃなくて天飛さんたちにシメられたのは食い逃げ犯だったんだけど。
大事にならないで良かったわ。
「あの、天飛さんはもう自宅にいますかね?」
私のバッグには天飛さんに渡されたお金のうち三人分の食事代を抜いた返金すべきお金を入れた封筒がある。
天飛さんが自宅に帰っているならこのお金を渡さないといけない。
「若頭はこの曜日はまだ組事務所っすね。たぶんその後、夜は店を回るから本家に帰るのは明日の昼近くかもっす」
明日の昼かあ。明日は大学行かないとだからすれ違いになる可能性が高いな。
できればこんな現金をいつまでも預かっておきたくないんだよなあ。
天飛さんたちにとってはたいした金額ではないのだろうが私の基準では一万円以上は大金なのだ。
もし失くしたら申し訳ないし弁償できないので私は決断する。
「すみません、吾郎丸さん。天飛さんのいる組事務所にちょっと寄ってくれませんか?」
ヤクザの事務所など行きたくないが背に腹は代えられない。
夜の店を回る前に天飛さんを捕まえるにはそれしか方法が無さそうだ。
「え! お嬢を組事務所にっすか!? 何か若頭に急用っすか? それなら携帯電話で連絡すればいいんじゃないっすかね?」
「いえ、どうしても天飛さんに直に会わないといけない用件なんです」
「だけど……予定外の行動を取ると若頭にシメられるかもだし……」
吾郎丸さんはご主人様の怒りに触れるのが怖いらしく怯えた表情になる。
その気持ちは分かるが私にも都合というものがあるのだ。
「大丈夫です。吾郎丸さんが怒られないように私が天飛さんにうまく伝えてあげますから」
「本当っすか? 絶対、約束してくださいっすよ! お嬢のこと信じてやすからね!」
「約束しますから」
「分かりやした。それじゃあ、組事務所に寄りやす」
怯える吾郎丸さんを説得して私は組事務所に向かう。
やがて車がある建物の前で停止した。
その建物は三階建てで窓がなく一階部分は車庫なのかシャッターの扉がある。
そのシャッターの横の部分に人が出入りできそうな扉が一枚あるがその部分を中心に何台もの監視カメラが設置されていた。
ここがヤクザさんの組事務所か。
ちょっとした要塞っぽいな。
すると吾郎丸さんが車を降りて後部座席のドアを外から開けてくれる。
「ありがとうございます、吾郎丸さん」
「どうぞ、お嬢。事務所内に案内しやすから」
私は車を降りた。
その瞬間、一台の白い乗用車が猛スピードで私と吾郎丸さんに向かって来る。
「危ない! お嬢!」
「え? きゃああっ!!」
吾郎丸さんが私に勢いよく抱き付き道路に押し倒す。
思わず悲鳴を上げた私のすぐ横をその白い乗用車が通過した。
もし吾郎丸さんが私を押し倒して庇ってくれなかったら間違いなく私はその車に轢かれていただろう。
白い乗用車はキキキーッとタイヤの音を響かせながらそのまま走り去った。
な、何が起こったの!?
「何があった!?」
「どうしたんだ!?」
その車の音を聞いたからか組事務所の中からヤクザさんたちが何人も飛び出してきて私と吾郎丸さんに声をかけてくる。
しかし私は恐怖で声が出て来ない。それに私の身体に吾郎丸さんが覆い被さっているので身体も動かせない。
「お嬢っ!? お嬢がなぜここに!?」
「おい! しっかりしろ! 吾郎丸! お嬢の上からどけ!」
ヤクザさんたちは私が誰か分かったらしく私に覆い被さる吾郎丸さんの身体をどけてくれた。
けれど私は足に力が入らなくて立てずにその場に座り込む。
それに先ほどから吾郎丸さんの声が聞こえないことに不安になり私は自分の近くに横に寝かされている吾郎丸さんを見た。
吾郎丸さんはグッタリとして意識がないようだ。他のヤクザさんの声に反応しない。
吾郎丸さん!? まさか私を庇って死んじゃったの!?




