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極道の義兄ができました  作者: リラックス夢土


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第15話 吾郎丸さんの私服



「う~ん……」



 私は心地よい布団の中で目が覚める。

 眠い目を擦って見えるのは見知らぬ天井だ。



 あれ……? ここってどこだっけ……?



 ボーッとする頭でそんなことを考えた時に大きな声が聞こえた。



「お嬢! おはようございやす! 朝ですよ!」



 その声で私は昨日自分の身に起きたことを思い出す。



 そうだった。私はヤクザの家に連れて来られてここでしばらく暮らすことになったんだった。

 今の声は吾郎丸さんか。

 吾郎丸さんっていい目覚まし代わりになるな。



 下っ端とはいえヤクザさんの吾郎丸さんを目覚まし時計の代わりだと思える自分がちょっと怖い。

 僅か一日だけヤクザの世界に触れただけでもう私はこの環境に順応しているのだろうか。

 いや、それじゃダメだろ。しっかりしろ、私。



「お嬢! まだお目覚めじゃないんすか? 今日はお嬢がバイトに行くって聞いたんで俺も張り切って準備したんすけど!」



 吾郎丸さんの言葉を聞いて時計で時間を確認すると朝の8時だ。

 昨夜は天飛さんの裸体と背中の刺青を見た興奮から寝付くのが遅くなってしまったので起きる時間も遅れたようだ。


 大学が休みの時のバイトは午前10時からだからもう起きなくてはいけない。

 私は布団から出て障子を挟んで廊下にいる吾郎丸さんに返事をする。



「今、起きました。吾郎丸さん。着替えるのでちょっと待っててください」


「分かりやした! 着替えが終わったら俺の私服チェックをお願いしやす! 若頭から目立たないように私服で護衛するように命令されたんすけど、俺、あまりいい私服持ってなくて……」



 そうか。天飛さんはちゃんと私の要望を吾郎丸さんに伝えてくれたんだね。

 天飛さん、ありがとう。



「はい。別にいい服じゃなくても私服なら何でもいいですよ。ちょっとだけ待ってくださいね」



 私は急いで自分の着替えを済ませる。

 そして部屋の障子を開けた。



「お待たせしました、吾郎丸さん……」



 廊下にはヤンキーがいた……いや、正確には私服の吾郎丸さんだ。

 元々、ヤンキーっぽいヤクザさんの吾郎丸さんだったがスーツから私服に着替えると完全なるヤンキーだけになる。


 派手な柄物のシャツにズボンを穿いて着崩している上に首には金のチェーンのネックレスをしてピアスもしている。

 スーツ姿の吾郎丸さんは光り物は一切身に着けていなかったのでこちらの姿の方がヤンキー感がアップしたように見えた。



 ちょっと、待って。

 まさかこの姿で私のバイト先に来る気だろうか。



「あ、あの、吾郎丸さん。天飛さんから目立たないようにって言われませんでしたか……?」


「はい、言われやした。あ、そうか、このネックレスはちょっと目立ちやすかね? それじゃあ、ネックレスは外しやす」



 吾郎丸さんは金のネックレスを外すと無造作に自分のポケットにそれを入れる。



 いやいや、目立つのはネックレスだけじゃないってば。



「これでどうっすか? お嬢」


「あ、あの、目立つのはネックレスだけじゃなくって……」


「え? ああ! もしかしてお嬢のバイト先ってピアスもNGなんすか? 厳しいっすね、カタギの世界は」



 そう言って吾郎丸さんはピアスを外す。



「これで完璧でしょ? お嬢」



 光り物がなくなってもやはり派手な柄シャツはカタギには見えない。



「で、できれば、シャツも柄シャツじゃなくてもっと地味な普通のシャツは持ってないんですか?」


「え? う~ん、俺は私服では柄シャツしかないんっすよねえ。地味な服装してると相手になめられるんでこれぐらいの服じゃないと」



 相手になめられるからって柄シャツ着るの?

 吾郎丸さんは私のバイト先の人とケンカでもするつもりなのだろうか。



「吾郎丸さん。今日、私と行くのは普通の洋食屋ですよ。吾郎丸さんにケンカを売る人なんていませんけど」


「俺にケンカを売らなくてもお嬢を護るための敵への牽制になりやすから」



 だから洋食屋にはその「敵」はいないんだって。



 どうすれば理解してくれるのかと私が頭を悩ませた時に廊下の先から声が聞こえた。



「こんなところで何を騒いでいるのですか? 吾郎丸、凛子さん」


「あ、愛斗さん! おはようございやす!」



 吾郎丸さんは深々と愛斗さんに頭を下げる。

 愛斗さんは吾郎丸さんとは違いカジュアルな姿で一般人にしか見えない。



 なぜ、ヤクザの親分の息子の愛斗さんが普通の恰好できるのに吾郎丸さんはできないのだろうか。

 愛斗さんと吾郎丸さんの違いってなんだろう。



「どうかしましたか? 凛子さん」


「いえ、吾郎丸さんが私のバイト先に着ていく服装のことでちょっと……」



 すると愛斗さんが眼鏡をクイッと押し上げながら吾郎丸さんを見た。



「なるほど。吾郎丸が一般人に見えないのが問題なんですね。それなら吾郎丸には私の服を貸して一般人に見えるようにしてあげましょう」


「あ、ありがとうございます! 愛斗さん」



 愛斗さんが察しのいい人で助かったな。

 きっと愛斗さんなら吾郎丸さんを一般人に仕立て上げてくれるはず。

 だって愛斗さん自身が一般人にしか見えないのだから。



「いえ、凛子さんの頼みならこれぐらい朝飯前です。ほら、吾郎丸。私の部屋へ来なさい。凛子さんは先に食堂で朝食をどうぞ」


「分かりました」



 愛斗さんは吾郎丸さんの首根っこを掴んで連れて行ってしまう。



 たぶん、愛斗さんに任せておけば大丈夫だと思うけど不安は残るかも。

 だって服装は一般人と同じにできても中身は吾郎丸さんだからな。


 まあ、悩んでも仕方ない。

 とりあえず朝食を食べよう。



 私は食堂へと向かった。




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