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帝国軍とロメルト・クリズル戦争  作者: 中里勇史
ロメルト・クリズル戦争

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9/11

軍使

 中央の皇帝軍は決め手を欠いていた。

 負けてはいないが、勝ってもいない。こちらが押せば敵が引き、こちらが引くと敵が押してくるという調子で、双方が相手の隙をうかがっている。だが双方ともほころびがないため、結果的に膠着状態に陥っていた。

「左右に対して中央の敵は積極性がありませんな」

 大公の副官を務めるカゼルデン副伯が両翼から来た伝令の話をまとめて大公に告げた。

「ふむ。カゼルデン副伯はこの状況をどう見る?」

「ポルトヴィクの兵力は予想以上に少ないのではありますまいか」

「やはりそう思うか……」

 大公の疑念は確信に変わりつつあった。兵を器用に出し引きして皇帝軍を翻弄しているが、陣の深みがないように見える。寡兵をやりくりして大兵力に見せかけているのではないか。それはそれで驚嘆に値するが、迎撃軍の兵力がなぜこうも少ないのかも気になる。

「ダウチャヌイは……捨て駒にされたのではないか?」

 大公は、ようやくまとまった疑念を言語化してみた。口に出してみると、やはり蓋然性が高いように感じる。

「ダウチャヌイはポルトヴィクの切り札でしょう。それを捨て駒にするでしょうか?」

 カゼルデン副伯はにわかには賛同しかねるという体で首をかしげた。大公の言だからといって迎合しないところがこの男の得難い特質である。

 そう、彼は切り札だ。だが兵力が少な過ぎる。ダウチャヌイの手勢だけで、大貴族(ムグニャート)どもは参戦していないからではないのか。

「大公殿下、あれをご覧ください」

 カゼルデン副伯の呼び掛けで、大公の思考は中断された。カゼルデン副伯が指す方を見ると、白いものがこちらに向かっている。

「あれは……軍使か?」

 さらに近づいてきた。全身白装束をまとった者が馬に乗って駆けてくる。それに合わせてダウチャヌイ軍が後ろに後退した。大公も各隊に停戦を命じた。


 軍使を傷つけてはならない。それは文明国であれば守らねばならない鉄則だった。軍使の安全は両軍の誇りに懸けて保証される。軍使の白装束が赤く染められることがあってはならない。軍使とは神聖不可侵の存在なのである。

 ダウチャヌイの軍使は、ダウチャヌイが休戦を求めていること、休戦交渉のために一時的に停戦し、会合を持ちたい。ダウチャヌイ本人が帝国軍側に訪問しても構わないと述べた。

 大公は即答した。交渉終了までの停戦を諒とする。勝敗が決していない段階で、第五王子(ダウチャヌイ)を虜囚のごとく帝国軍陣中に向かえるのは是としない。これより日が一五度移動したときに両軍の中間地点にて相まみえん。共に五人の随伴を伴うべし。

 大公の返答を聞いた軍使は改めて跪くと、ダウチャヌイの下に帰っていった。


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