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帝国軍とロメルト・クリズル戦争  作者: 中里勇史
ワーデルテット会戦

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5/11

ナルファスト公国軍

 ナルファスト公国軍の前面にはポルトヴィク王国の騎兵3000が迫っていた。兵を木に登らせておいたので、早めに発見できた。

 「ほう、我が軍に騎兵突撃を試みるか」

 ナルファスト公は余裕の笑みを浮かべた。

 「弓兵隊、矢をつがえよ!」

 ナルファスト公は大剣を掲げると一気に振り下ろした。

 「放て!」

 ポルトヴィク騎兵に矢が降り注ぐ。

 「スカルティオ卿、出る準備をしておけ」

 ナルファスト公国軍の騎兵戦力は2000。プテロイルに与えた1000騎の残りは予備兵力として本隊に残しておいた。これを使う時期が近づいている。

 「ルティアセス卿、来るぞ。アルテヴァークを撃退してきた武勇を見せてやれ!」

 ルティアセスが指揮する長槍隊が長槍を構える。深紅のポルトヴィク騎兵は、ナルファスト公国軍の長槍隊が引かないのを見ると、突撃することなく離脱していった。

 「ふん、アルテヴァーク騎兵を何度も受け止めた我が長槍に恐れをなしたか」。ルティアセスは冷や汗をかきつつ毒づいた。相手が誰であれ、騎兵突撃を受け止めるのは常に恐ろしい。こうして強がっていなければ、次の機会には恐怖が勝ってしまう恐れがある。次も騎兵突撃を受け止めるためにも、「また勝った」と自分に言い聞かせておかねばならない。


 騎兵には勝った。だが気を抜くわけにはいかない。敵の赤い長槍隊が着実に前進している。こちらも長槍隊を前に進めた。さらに彼我の距離が縮まる。そろそろか。

 ルティアセスは麾下の長槍隊に長槍を掲げよと号令した。敵も槍を垂直に立てた。両者はさらに近づいた。

 「打ち倒せ!」

 両軍の長槍が打ち下ろされる。立てた槍が倒れるだけで、その重さゆえに破壊力が生じる。重く固い槍が兜ごと頭蓋をたたき割る。肩に当たって鎖骨を粉砕する。槍の穂先に顔面を切り刻まれる。腕に当たって骨を砕く。

 まだ動ける者だけが、再び槍を掲げて打ち下ろす。

 長槍は左右に振り回す武器ではない。突きもしない。上に振り上げて、槍の重さで相手をたたくのである。槍を持ち上げる力さえあれば使えるので、習熟する必要がない。

 長槍隊が戦闘を開始したのを見たナルファスト公は、スカルティオに出撃を命じた。スカルティオは1000騎の騎兵を2隊に分けて、長槍隊の左右を一気に抜けて敵の背後に回り込んだ。

 「突撃!」

 スカルティオ麾下の騎兵が敵の長槍隊の背後に突入し、隊列を破壊した。敵の長槍隊は大混乱に陥り、潰走状態になった。スカルティオはそれを追撃し、戦果を拡大していった。

 「スカルティオ卿、深追いし過ぎだ……」

 ナルファスト公は舌打ちすると、スカルティオに伝令を放った。まだ勝ったわけではない。ナルファスト公国軍の長槍隊も敵と真正面から打ち合って損傷を受けている。隊列を整理するのには時間がかかるのだ。

 「敵騎兵、来ます!」

 恐れていた事態になった。ほぼ無傷の敵騎兵が再び突入してきた。こちらはまだ騎兵突撃を受け止められるだけの槍衾を形成できていない。

 「槍を構えろ!」

 ルティアセスが麾下の長槍隊に命令するが、最前列の隊列がボロボロで十分な密度の槍衾にならない。怪我人や死体が地面に転がっており、思うように隊列を整理できない。その間にも敵騎兵が迫ってきた。

 「逃げるな! 構えろ!」

 ルティアセスも自ら槍を構えて踏みとどまった。それを見た兵たちも不完全な槍衾の一部となって、逃げたいという誘惑を振りほどいた。

 スカルティオも本隊の危機に気付いたが、今から反転しても間に合わない。このままではナルファスト公にも危険が及ぶ。逃げる敵に高揚した自分の失策だ。スカルティオは後悔したがどうにもならない。

 敵騎兵の突撃によって、ナルファスト公国軍長槍隊の中央は突破された。槍衾の密度が不十分のため、槍と槍の間を抜けた馬が歩兵を踏み潰しながら前進を続ける。3000の騎兵に突っ込まれて、馬に踏まれ続けた歩兵たちは肉塊と化した。

 ポルトヴィク軍騎兵は騎兵用の短槍を自在に振り回し、左右の歩兵を殺傷しながら進んだ。短槍は長槍の半分以下の長さしかなく、振り回したり突いたりするのに適している。左手に手綱、右手に短槍を持って片手で扱うのが基本だが、足で馬の胴体をしっかり挟んで体を固定し、両手で槍を振り回すこともある。

 ポルトヴィク軍騎兵は斜めに突っ込んできたので、ナルファスト公は戦闘に巻き込まれなかった。だが、ナルファスト公国軍の中央を突破したポルトヴィク軍騎兵が反転して再突入する態勢になり、ナルファスト公の安全も確実とは言えなくなった。


 「公爵、お一人だけでもお下がりください!」

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