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帝国軍とロメルト・クリズル戦争  作者: 中里勇史
索敵

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3/11

赤い王子

 大公の指示で帝国軍は撤退の準備と警戒を行いつつ夜を過ごした。

 帝国軍の宿営地は盆地状の地形なので、湿った冷たい空気が底にたまりやすい。空が白み始めても、朝霧が立ち込めて視界は利かないままだった。


 大公、ストルペリン伯、ナルファスト公は、戦場特有の空気を感じていた。

 帝国軍は日没前に布陣を終えている。東に向かって右翼にワルヴァソン公国軍、左翼にナルファスト公国軍と4000人の諸侯軍、中央に皇帝軍と残りの諸侯軍を配置した。西側は、バンフェチャヌ城に駐留しているカーリルン公軍が広範な哨戒網を構築しているので、カーリルン公からの急使が来ない限りは安全とみていい。

 「そろそろ来るぞ」

 ストルペリン伯は家臣に警戒を強めろと指示を出し、本隊が布陣している左の方を眺めた。

 「まあ、やつ(大公)の差配なら負けはしないだろうがな」

 敵軍が接近する音がわずかに聞こえる。しかし……。

 「音が……反響しているのか?」

 ナルファスト公が眉間に皺を寄せた。音が前から聞こえるのか左右から聞こえるのか、接近しているのか遠ざかっているのか、どうにもつかめない。朝霧もまだ消えてはいない。


 「この盆地状の地形の影響でしょう」

 皇帝軍と共に中央に配置されたレミターロック伯が大公に話し掛けた。

 「なるほど。まんまと誘い込まれたという訳か」

 大公は己の失策を笑った。同時に、警戒を強めた。こんな策を弄するのは、あの男が出てきたということだろう。

 「ロメルト・クリズル……ですか」

 レミターロック伯が硬い表情で朝霧がかかった前方を眺める。

 「ロメルト・クリズル」はポルトヴィク語で「赤い王子」という意味で、ポルトヴィク王国の第二王子ダウチャヌイ・ピルアーストの通称である。ダウチャヌイ麾下の兵は皆、赤い甲冑を着け、軍旗も赤いことに由来する。ダウチャヌイは戦略戦術の天才で、ポルトヴィク王国の版図を東に大きく拡大させたことでその名は周辺国に広まっていた。東方での作戦行動に区切りを付けて西側にやって来たということだろうか。

 「敵を過大評価して怯える愚を犯したくないが、過小評価するよりはマシだろう。ロメルト・クリズル(赤い王子)が出てきたという前提で、ヤツを討ち取る。レミターロック伯、手柄を立てろよ」

 緊張した面持ちのレミターロック伯に、大公はそう言って笑いかけた。


 同じ頃、ナルファスト公も相手はロメルト・クリズルだろうと見当を付けていた。

 目を閉じて、音に集中する。



 敵の動きが止まった。

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