若者たちの凱旋
ポルトヴィク王国領を西に進んでいた帝国軍は、ドニエレプル川に到達した。川には、多数の船をつなげて作った浮橋がラエウロント3世によって用意されていた。この橋を渡って西岸に着けば、「帝国領」への帰還だ。
「結局、少数のロメルト・クリズル軍にいいように翻弄され続けたな」と、インゼルロフトは自嘲した。ワルヴァソン公国軍は特に、弓兵に抑え込まれ続けただけに不完全燃焼の感が強いらしい。
「まあ、そう言うなインゼルロフト。勝ちは勝ちだ」
「アートルザースは戦争なぞさっさと終わらせて、『あの平民の女』を抱きに行きたいだけだろう」とインゼルロフトは毒づいた。「あの平民の女」のところをことさら強調して当てこすった。
「身分の低い女で何が悪い」
「悪いさ。妻にはしてやれぬのだぞ。お前にとっては遊びでも、女にとってはそうではない。弄ぶのはほどほどにしておけ。哀れではないか。それよりマーセン公の娘を大事にするがいい」
インゼルロフトに痛いところを衝かれて、アートルザースは嫌そうな顔をした。
アートルザースは矛先を変えることにした。
「そういえば、オフギースは嫡男が生まれたばかりであったな。早く妻子のところに帰りたいであろう」
「はい。早くタイドネイエとレーネットの顔が見とうございます」
「ぬけぬけと言うやつだ」と言ってインゼルロフトは大笑した。アートルザースも笑った。
「おお、ラエウロントがお出迎えだ。さあ、まずはバンフェチャヌ城で一休みするとしよう」
帝国歴202年、後に「ロメルト・クリズル戦争」と呼称されることになる戦いが終結した。アートルザースはこの翌年、皇帝に即位してアートルザース3世を称した。204年には、兄の死によってインゼルロフトは公位継承者に繰り上がり、同年末の父の死によってワルヴァソン公位を継承した。
彼ら若い世代の登極によって、帝国は最盛期を迎えることになる。
『居眠り卿とナルファスト継承戦争』の前日譚、若き日の皇帝やワルヴァソン公のお話でした。
最後に少しだけ、『居眠り伯とオルドナ戦争』に絡む話が出てきます。この話がどう影響してくるのか……。
よろしければ『居眠り伯とオルドナ戦争』にもお付き合いください。




